Editorial

SDGsを救うために今すぐ行動を

Credit: Richard Drury/DigitalVision/Getty

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は、環境を保護しつつ、貧困をなくし、平等を達成することを目指す国際プロジェクトの心臓部を担っている。しかし、多くの人々は17項目のSDGsを1つも挙げることができないと思われる。ネイチャーポートフォリオの学術誌はSDGsの認知度を高めるために、SDGsに関する研究論文と解説論文を掲載してきたが、このほど、この取り組みを強化したことをお伝えしたい。

SDGsとそれに伴う169項目の達成基準(target)は、人類が気候変動から経済的苦境に至るまで、地球規模の危機を打開するために打ち立てた最良の試みの1つだ。世界各国の首脳は、2015年にSDGsに合意し、2030年までに実現すると定めた。2023年はその中間点に当たるが、今のところSDGsは1つも実現されておらず、達成基準の到達率もわずか12%となる見通しだ。

来たる2023年9月には、世界各国の首脳が米国ニューヨーク市に集まり、打開策を講じることになっている。それまでの間、NatureはさまざまなSDGsに注目し、何が実現され、何が実現されていないのか、状況を改善するために何ができるのか、そして世界の科学界が果たさなければならない役割は何なのかを主題とする一連の社説を掲載する予定である。

たった1つのSDGsも実現できていないのは、努力を怠ったからではない。世界中の研究者は、気候変動に関する国際連合枠組条約、生物の多様性に関する条約などの国際的な取り組みと共にSDGsに沿った研究を進めてきた。遺憾なのは、地政学的分断が国際協調を妨げていることだ。それに加えて、研究テーマや研究分野の垣根を越えた協力や調整も限定的にしか行われていない。

異なるSDGs間の補完性やトレードオフをもっと考慮する必要がある。例えば、気候変動(SDG13)に取り組むために、安価でクリーンなエネルギー(SDG7)を開発する行動は、風力発電所や太陽光発電所などの施設の建設や運営を通じて、生物多様性(SDG14、SDG15)に局所的な悪影響を及ぼす場合がある。また、石炭火力発電への融資は、仕事と経済成長(SDG8)を生み出す効果的な方法だが、健康と福祉(SDG3)だけでなく、環境にとっても不都合な話だ。こうしたトレードオフに関する知識は、政策立案において十分に考慮されないことが多い。

国連事務総長が任命した独立した科学者グループが、持続可能な世界に向かって前進する方法を提案した。「持続可能な開発に関するグローバルレポート2023」(GSDR2023、2023年6月14日発行)だ(go.nature.com/3NEmsOs参照)。この報告書には、SDGsがどこで失敗しているのか、SDGsを救うために何ができるかがまとめられており、世界を持続可能な道へと導くために転換的変化が必要なことが繰り返し述べられている。重要な点は、この報告書において、SDGsや達成基準の相互関連性が認識されていることだ。

持続可能性への道には、持続可能でない慣行の撤廃も必ず含まれる

GSDR2023では、前回のGSDR(2019年版)と同様に、SDGsを実現するための出発点を「エントリーポイント」という概念で表し、SDGsを6つのエントリーポイントに分類し直している。①人間のウェルビーイング(健康と福祉)と能力、②持続可能で公正な経済、③持続可能な食料システムと健康的な栄養パターン、④エネルギーの脱炭素化とエネルギーへの普遍的アクセス、⑤都市と都市周辺部の開発、⑥地球環境コモンズの6つだ。例えば、人間のウェルビーイングを向上させるために、プライマリー・ヘルス・ケア(「全ての人々に健康を」という目標を達成するための戦略として、アルマ・アタ宣言の中で提唱された概念。go.nature.com/3sfKPK4参照)に対する投資を増やすこと、救命措置を必ず受けられるようにすること、中等教育への就学を加速すること、上下水道インフラへの投資を拡大することが提言されている。

GSDR2023の筆者は、持続可能性への道には、持続可能でない慣行の撤廃も必ず含まれるが、その一方で、撤廃によって生じる経済的苦痛と社会的苦痛を考慮に入れなければならないという認識に立っている。例えば、再生可能エネルギーの利用可能量を増やすだけでは気候変動に対処できない。化石燃料の段階的廃止も必ず実現しなければならないのだ。こうした動きに対しては強い抵抗があり、段階的廃止によって影響を受ける地域社会、例えば、石炭産業に何十年もの間依存してきた地域社会を支援することが、真に必要とされている(Nature 2023年6月15日号433ページの社説参照)。このシナリオは、エネルギーと気候に関するSDGsの実現だけに当てはまるわけではない。

GSDR2023では、SDGsの実現において「何を実現するのか」を捉えやすい形に整理したことは歓迎したい。また、この報告書には、「どのようにして実現するのか」という提案も示されている。必要な転換的変化には多額の費用がかかり、年間2兆5000億ドル(約350兆円)に上る官民の追加投資が必要になると筆者は述べている。この取り組みを成功させるためには、持続可能性を中心に据えた機関の創設や既存の機関の改革など、新しい統治方法が必要となる。また、既に進められている個人的行動と集団的行動も必要であり、ただし規模を大きくしなければならない。そして、人々に適切な資源を提供し、人々が適切な技能を身に付けて、この課題を完遂できるようにしなければならない。このことは、中低所得国(LMICs)において特に重要だ。

中低所得国の科学は、高所得国の科学よりも SDGsとの整合性が既に高い

これらの提案の全てで、科学そのもののあり方を変えることが暗黙のうちに了解されており、ある程度は明示もされている。GSDR2023で展開されている主張によれば、世界を持続可能な道へ導くための行動は、科学に根差したものでなければならず、この場合の科学は、学際的で、公平で、包摂的で、公然と共有され、広く信頼され、「社会的にロバストな」(つまり社会的状況や社会的ニーズに対応した)科学だとされる。科学がそのような形になるためには、全世界の科学が変化する必要がある。その点は、GSDR2023の筆者も認めている。つまり、現在よりも知識を利用しやすくする必要があり、そうした知識の生産には、門戸をさらに開放する姿勢が必要となる。例えば、持続可能なイノベーションでは、先住民の知識や地域に伝わる知識の価値を認識しつつ行うなどだ。

中低所得国の科学は、高所得国の科学よりもSDGsとの整合性が既に高いことが、2021年に発行された国連教育科学文化機関(UNESCO)の科学報告書(go.nature.com/3zlojva参照)から分かっている。高所得国における状況をどのようにして改善するかが課題なのだ。広範囲で改善を図ることができれば、持続可能性の実現にとって、まさにゲームチェンジャーとなるだろう。

私たちは、これを手掛かりとして、行動を起こしたい。SDGsの現状についてエビデンスを評価し、研究者に話を聞き、研究者の助力によって答えが得られるような論点を模索するつもりだ。持続可能な未来は、相変わらず遠い先の話というのが現状だ。2030年にSDGsを実現できる可能性が少しでも残っているなら、その可能性に全てを懸ける必要がある。既に多くの人々が語っているように、プラネットBは存在しないのだ。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230905

原文

The world’s plan to make humanity sustainable is failing. Science can do more to save it
  • Nature (2023-06-20) | DOI: 10.1038/d41586-023-01989-9