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Nature読者のChatGPT利用法

Nature読者を対象とするアンケート調査から、研究者は「ChatGPT」などの生成型人工知能(生成型AI)が自分の研究の助けになるのかどうかを積極的に試してみたいと考えていることが分かった。彼らはその一方で、出力結果の間違いや偽情報の可能性も心配している。

オンラインアンケートに回答した672人の読者のうち、ChatGPTや同様のAIツールを1回以上使ったことがある人は約80%を占めていた。5人に1人以上がこうしたツールを定期的に利用しており、8%は毎日、14%は1週間に数回利用していた。さらに回答者の約38%が、研究や授業にAIツールを利用している研究者を知っているという(「チャットボットの利用に関するアンケート結果」参照)。

利用目的については、回答者の57%というかなりの割合が、「自分の研究とは無関係な、創造的な楽しみ」のためにChatGPTや同様のツールを利用していた。科学と関係のある利用法として最も一般的だったのは「研究アイデアのブレインストーミング」で、回答者の27%が試していた。また、コンピューターコードを書くのに生成型AIツールを利用するとした回答者が24%近くいたほか、研究論文の原稿執筆、プレゼンテーションの作成、文献レビューに利用するとした回答者が約16%ずついた。研究助成金の申請書の執筆に利用する人は10%にとどまり、図表や絵を描くのに使っている人も10%だった(これらの数字は約500人の回答に基づくものである。アンケート調査を開始した当初、回答者が複数の選択肢を選択できないという技術的ミスがあったため)。

調査参加者たちは自由回答を通じて、生成型AIの可能性への期待と、その利用への懸念を語った。一部の参加者は、これらのツールが研究にもたらす最大の恩恵は、退屈/面倒/反復的な作業を補助してくれることだろうと予想する。具体的には、大量の数値を処理したり大きなデータセットを分析したりする作業や、コードを書いてデバッグする作業、文献を検索する作業などである。イタリア国立文書・イノベーション・教育研究所(INDIRE、フィレンツェ)の研究者Jessica Niewint-Goriは、「基本的なことをさせるには良いツールです。人間は、『高度な考察』やAIが生成したコンテンツのカスタマイズに集中することができます」と言う。

AIが大まかな枠組みを提供し、人間がこれを編集して詳細な最終版にするという形で、執筆過程が高速化・合理化されることを期待する人もいる。

インド中央皮革研究所(チェンナイ)の生物学者Dhiliphan Madhavは、「生成型言語モデルは、母語が英語ではない研究者には大変便利で、はるかに短時間で自然な文章を書けるようになりました。論文を書いている私の横にプロの言語編集者がいるようなものです」と語る。

けれども楽観論と同じくらい、このツールの信頼性への懸念や誤用の恐れを指摘する声も聞かれた。多くの回答者が、AIの出力する結果に間違いや偏りがある可能性を心配していた。ルートビヒ・マクシミリアン大学(ドイツ・ミュンヘン)の分子生物学者であるSanas Mir-Bashiriは、「私はChatGPTから架空の文献リストを提示されました」と言う。「実在する論文は1つもありませんでした。非常に紛らわしいです」。

AIツールの不正利用を心配する人もいる。考えられるのは、学生がAIに課題をさせることや、もっともらしい科学的偽情報の生成に悪用されることなどである。いわゆる「ペーパーミル」がAIを利用して偽の科学論文を捏造するのではないかという懸念を指摘する人も多い(2023年3月号「ニセ科学を一掃するための『ペーパーミル』探知システム」参照)。また、研究者が文章を書く際にAIに依存し過ぎると、創造性が失われ、学習の妨げになるという声もある。

調査参加者の多くは、AIを仕事に使うときには、自分の代理ではなく助手として見ることが大切だと考えている。イタリア・ミラノ在住の引退した生物学者Maria Grazia Lampugnaniは、「AIは便利なツールになり得ます。けれどもそれはツールの1つにとどめなければなりません。その限界や欠点を常に明確に意識しながら、適切に利用しなければなりません」と言う(17ページ「生成型AIの頼もしさと危うさ」、24ページ「GPT-4登場:科学者たちの見方」、35ページ「次の論文の執筆にはAIの手を借りられる?」参照)。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230523

原文

How Nature readers are using ChatGPT
  • Nature (2023-02-20) | DOI: 10.1038/d41586-023-00500-8
  • Brian Owens