リサーチハイライト
レーザーイメージングでよみがえる古代の入れ墨
ペルー・チャンカイ文化に由来する人物の手に刻まれた、複雑な入れ墨の模様。 Credit: Michael Pittman/Thomas G. Kaye
ミイラの皮膚をレーザーでスキャンすると明るく光り、保存された遺体の一部に入れ墨がある場合には、その詳細が明らかになる。
入れ墨は5000年以上続く伝統だが、経年とともににじんだり退色したりして、元の図柄が分からなくなってしまう。科学振興財団(Foundation for Scientific Advancement、米国アリゾナ州シエラビスタ)のThomas Kayeらは、レーザー誘起蛍光法という画像化技術を用いて、1200年前のチャンカイ文化のミイラの入れ墨を調べた。チャンカイ文化は、コロンブス以前に現在のペルーで栄えた文化である。
レーザー誘起蛍光法を用いると、入れ墨の下の皮膚が白く見えるため、コントラストの高い画像が得られる。これにより研究者はミイラの皮膚に描かれた幅0.1 mmほどの細い線まで観察でき、複雑な幾何学模様や、植物・動物のデザインが明らかになった。この入れ墨のデザインは、チャンカイ文化の陶器や織物などの装飾よりも、そして、コロンブス以前に現在のペルーで栄えた他のどの文明の装飾よりも複雑であった。
Kayeらは、今回の画像化技術は、人類が複雑な入れ墨の手法をいかにして開発したかなど、古代の入れ墨に関する他の隠された詳細を明らかにする可能性があると結論付けている。
Proc. Natl Acad. Sci. USA 122, e2421517122 (2025).
惑星状星雲の中心星の周りに渦巻く塵
Credit: J. Budaj et al./Nature Astron.
終末期の天体を観測していた天文学者がこのたび、輝くガスの殻に包まれて死んでゆく星を、死んだ惑星の破片の渦が取り巻いているのを発見した。
科学者たちは以前にも、年老いた星が、小さな惑星または小惑星が粉砕されてできたと思われる破片からなる円盤に取り囲まれているのを発見している。しかし、星の進化のもう少し前の段階、すなわち、一部のガスを宇宙空間に放出した後、崩壊して高密度の残骸になる前の段階にある年老いた星の周囲では、このような円盤は発見されていなかった。
スロバキア科学アカデミー(タトランスカー・ロムニツァ)のJan Budajらは、この段階の星とガスの殻からなる、約2000個の「惑星状星雲」の中心星の観測データを分析した。彼らは、そのうちのWeSb 1(写真、人工的に着色してある)という惑星状星雲の中心星がときどき明滅していることに気付いた。
おそらくこの明滅は、星の周りを回る破片の雲が星の手前を横切るときに、星の光が一時的に弱まることで起きていると考えられる。破片は、かつて星の周りを回っていた惑星や小惑星の残骸からなる。
Nature Astron. https://doi.org/n2cd (2025).
AIを利用して粒子加速器を微調整
Credit: Jan Kaiser, DESY
物理学者らは粒子加速器の性能を最大限に引き出すために、しばしば機械学習を利用して粒子加速器のリアルタイムのチューニング作業を自動化している。ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY、ハンブルク)のJan Kaiserらはこのたび、特定のタイプの機械学習、すなわち、人気のチャットボットの基盤となっている大規模言語モデル(LLM)を使って、この作業を行う方法を示した。
研究チームは、DESYの電子加速器ARES(写真、人型ロボットの背景)の管理において、14種類のLLMを試してみた。この作業では、ARESの電子ビームを集中させて方向を決める5個の磁石を調整する。オペレーターは要求を「コーディング」する代わりに、自然言語を使ってそれぞれのLLMに問題を説明した。LLMはこれに応えて、ビームを微調整する5個のパラメーターの値を提案し、これらの値にすることで何が達成されるかを説明した。
Kaiserらは、今回の「概念実証」により一部のLLMがこの作業をこなせることは示せたが、現在使用されているシステムほどはうまく調整できていないとしている。そして、将来的にはLLMが加速器制御室の「コパイロット(副操縦士)」として役立つ可能性があるとも述べている。
Sci. Adv. 11, eadr4173 (2025).
明晰な頭脳を保つ:脳が自らを浄化する仕組み
Credit: Getty
私たちが熟睡している間、脳はせっせと自らを浄化し、日中に蓄積した老廃物を洗い流している。今回、マウスでの研究により、血管を収縮させるノルアドレナリンという分子がこの天然の浄化システムを動かす仕組みが明らかになった。
コペンハーゲン大学(デンマーク)のNatalie Hauglundらは、マウスに画像化ツールと電極を埋め込み、覚醒時と睡眠時の脳活動をモニターした。彼らはマウスのノルアドレナリンレベルと脳血流量を測定した。また、脳内を循環して老廃物を運び出す脳脊髄液のレベルもモニターした。
Hauglundらは、深い睡眠中のマウスの特定の脳領域から約50秒間隔でノルアドレナリンが放出されることを発見した。これにより脳内の血管がリズミカルに収縮と弛緩を繰り返し、脳組織に脳脊髄液を送り込んでいるのである。研究チームは、ゾルピデムという睡眠導入剤を投与したマウスでは、ノルアドレナリンレベルの緩やかな変動が消失し、脳への脳脊髄液の流れが通常よりも約30%減少することも発見した。これにより、睡眠中に除去される老廃タンパク質の量が減少する可能性がある。
Cell https://doi.org/g8x4gd (2025).
ヘビの抜け殻を飾って捕食者から巣を守る鳥
Credit: Stan Tekiela Author/Naturalist/Wildlife Photographer/Moment/Getty
70種以上の鳥が、ヘビの抜け殻を巣に飾ることによって、捕食者の撃退に役立てている可能性があることが明らかになった。
ある種の鳥がヘビの抜け殻を巣材にすることは以前から知られていたが、どの鳥がこれをするのかも、なぜするのかも不明であった。コーネル大学脊椎動物博物館(米国ニューヨーク州イサカ)のVanya Rohwerらは文献を調査し、イエミソサザイ(Troglodytes aedon、写真)を含む78種の鳥がヘビの抜け殻を巣に飾っているという報告を見つけ、木のうろなどの空洞に巣を作る鳥がヘビの抜け殻を巣材にする確率は、開放的なカップ状の巣を作る鳥よりも約6.5倍高いことを見いだした。
この行動が鳥たちにどのような利益をもたらすのかを解明するため、研究チームは、巣にヘビの抜け殻を飾ることが、捕食頻度、一腹卵数、巣内の微生物や寄生虫などのパラメーターに及ぼす影響を検証した。これらのパラメーターのうち、ヘビの抜け殻の影響を受けたと思われるのは捕食頻度だけであった。すなわち、空洞の中に作られ、ヘビの抜け殻が飾ってある巣の卵は、ヘビの抜け殻を飾っていない巣の卵よりも、2週間のテスト期間を生き延びる可能性が高いことが明らかになったのである。
Am. Nat. https://doi.org/nzm4 (2024).
高温でも機能し続けるデジタルメモリー
Credit: Brenda Ahearn/University of Michigan
600℃という高温下で1ビットの情報を24時間保存できるコンピューターメモリー装置が開発された。これにより、金星の灼熱の地表のような極端環境での計算能力が向上する可能性がある。
標準的なシリコンベースの情報記憶装置では、電子がデジタルの1と0の状態を表している。けれども温度が150℃を超えると、電子が激しく動き回るようになり、メモリードライブが消去されてしまう。
これに代わる情報記憶装置を模索するミシガン大学(米国アナーバー)のJingxian Liらは、電解質(電荷を運ぶ物質)の一方の側にタンタルという金属の層を、もう一方の側に酸化タンタルの層を堆積させて、バッテリーに似た装置を作った。これに電圧を印加すると、負の電荷を持つ酸素イオンが、酸化タンタル層と金属タンタル層の間の電解質を通って移動する。
酸化タンタル層の電気伝導度は酸素含有量によって変化する。故にこの層は電気絶縁体と電気導体の間で切り替わり、それぞれデジタルの1と0の状態を表す。これらの酸素ベースの状態は熱に対して非常に強く、ジェットエンジンの内部に匹敵する温度でも装置が機能するのを助ける。
Device https://doi.org/g8t6p8 (2024).
チンパンジーは仲間につられて排尿する
Credit: Manoj Shah/Stone/Getty
人間社会では、排尿は一般的にプライベートな行為と見なされているが、ある人が「ちょっとトイレに」と言うと、友人もトイレへと向かう傾向があり、日本語には、他者と一緒に排尿することを意味する「連れション」という言葉さえある。
京都大学の大西絵奈らの研究によると、こうした「排尿の伝染」はヒトに特有のものではないという。彼女らがこの研究を考えたきっかけは、同大学の熊本サンクチュアリで暮らす飼育下のチンパンジーたちが和気あいあいと排尿するのを目にしたことだったという。研究チームは同サンクチュアリの20頭のチンパンジーを600時間以上観察し、2頭が続けて排尿する確率が、偶然そうなる確率よりも高いことを見いだした。
さらに、先に排尿した個体から近い位置にいる個体ほど、続いて排尿する確率が高かった。また、社会的順位が低い個体ほど、他の個体に続いて排尿する確率が高かった。研究者らは、この発見は排尿の社会的・生理的役割を浮き彫りにするものだと述べている。
Curr. Biol. 35, PR58–R59 (2025).
ミオスタチンの生殖系における役割
齧歯類での研究により、筋肉の成長を抑制するミオスタチンというタンパク質が、生殖系で意外な役割を担っていることが明らかになった。
研究者らはこれまで、老化や疾患、あるいはGLP-1受容体作動薬と呼ばれる減量薬の使用に伴う筋肉の減少を抑制するためにミオスタチンを阻害する方法を模索してきた。しかし、マギル大学(カナダ・モントリオール)のLuisina Ongaroらは、マウスの生殖に関する研究の中で、ミオスタチンの新たな役割を発見した。
研究チームは、受精率にとって重要な卵胞刺激ホルモン(FSH)という生殖ホルモンの産生を促進するタンパク質を探していた。彼らは、雌マウスにミオスタチン阻害抗体を投与すると、FSHレベルが低下し、生殖周期中に卵巣から放出される卵子の数が減少することを発見した。また、雄ラットでミオスタチンを阻害したところ、やはりFSHレベルが低下したことから、FSHとミオスタチンが関連しているのはマウスだけではないことが示唆された。
もしこの関係がヒトにも存在するならば、ミオスタチンを阻害する薬剤は、ヒトの受精率も低下させる可能性がある。
Science 376, 329–336 (2025).
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 4
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250402
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