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食事で免疫系をコントロールできるか?

Illustration: Asia Wójtowicz

「プチ断食で免疫系をリセットしましょう」「野菜中心の食事で『善玉菌』を増やしましょう」「朝のコーヒーをキノコ茶に変え、がんに対する抵抗力をつけましょう」―健康と食事と免疫力を結び付けるこのようなうたい文句は、情報番組に蔓延(まんえん)し、消費者を翻弄(ほんろう)している。しかし、キャッチコピーや製品ラベルに反して、このような主張は科学的根拠が乏しいことが多い。その理由の1つに、人々が何を食べ、食事がどのような影響を及ぼすかを追跡するための厳密な研究は、実施が非常に難しいことが挙げられる。加えて、実験動物や細胞を使った研究の結果は、ヒトの健康にも同じような影響を及ぼすかどうかは明確ではないにもかかわらず、時には商業的な利益のために誇張されていることもあり、栄養科学に対する懐疑的な見方が広がってしまっている。

だが、ここ5年ほどの間に、栄養免疫学に関して革新的な研究方法が開発され、この信頼性のギャップは埋められつつある。従来、研究されてきたのは、例えば地中海食や西洋食というふうに大ざっぱに分類された食事についての長期的な影響だった。しかし現在では、よりターゲットを絞った食品群や特定の食事成分の短期的な影響(有益なものと有害なものの両方)に注目して、食品が免疫に及ぼす影響の分子メカニズムを調べることができるようになった。

この研究分野は注目を集め、研究資金が集まり始めている。2024年1月には、米国保健福祉省(HHS)が初めての「食は医療」サミットをワシントンD.C.で開催し、栄養不良や食事と慢性疾患との関連について討論された。また、2024年4月にはNew England Journal of Medicineに、栄養・免疫・疾患に関係した一連の総説が掲載された。

食生活を鑑みるに当たり、現代人の食事、特に西洋風の食事が、免疫応答に異常を引き起こし、免疫回復力を低下させてきたという主張がある。一方、メリットの観点から食事を考えると、がんや、ループスのような慢性免疫疾患など、幅広い健康問題の解決に役立つ可能性があるとも言える。

研究はまだ始まったばかりだが、この分野の多くの研究者が期待を寄せている。「1つの食品成分やその組み合わせで免疫系をどのようにコントロールできるかについて、たくさんのことが分かってきています」と、ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センター(ドイツ)の免疫学者Francesco Siracusaは話す。そして、可能性のある治療手段として「ここ5、6年の間に、個別化栄養という分野が花開いたことに、とてもわくわくしています」と続ける。

食物繊維と脂肪

ヒポクラテスの時代から、医師たちは食事と健康の関連に注目してきた。1912年、ポーランドの生化学者Casimir Funkは、自身が「ビタミン」と名付けた必須栄養素の不足が、壊血病やくる病のような病気を引き起こすと提唱した。その後、ビタミンの研究が進み、免疫における役割が確認された。

この10年で、細胞や組織内の全ての遺伝子やタンパク質などの生体分子をカタログ化して分析できる「オミックス」技術が利用できるようになった。この技術は、さまざまな食事や栄養成分が免疫系、ひいては健康に影響を及ぼすメカニズムを解明するのに役立っている。

多くの研究機関が関心を寄せているのは、現代の最も差し迫った健康問題の1つである肥満の治療に免疫系を利用することだ。ワシントン大学医学系大学院(米国ミズーリ州セントルイス)の免疫学者Steven Van Dykenは、アレルゲンや寄生虫によって引き起こされる免疫応答を研究し、代謝の調節に役立つかどうかを調べている。

この免疫応答は2型免疫として知られ、キノコや甲殻類、食用昆虫に多く含まれるキチンと呼ばれる食物繊維によって活性化されることが以前から観察されていた。Van Dykenの研究チームは、キチンを多く含む食事が代謝にどのような影響を与えるかに興味を持った。そこで、マウスにキチンに富んだ餌を与えると、通常の餌を食べたマウスよりも胃が伸びることが観察された。そして、胃の伸長によって2型免疫が活性化され、キチン消化酵素が働くようになった。また、キチン消化酵素が機能しないようにしたところ、注目に値するメリットがあった。遺伝学的操作でキチン消化酵素を産生できないようにしたマウスにキチンを摂取させると、通常のマウスよりも、体重と体脂肪の増加が少なく、インスリン感受性が良好だったのである1。さらにキチンは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)と呼ばれるホルモンのレベルも上昇させた。GLP-1は食欲の抑制に役立ち、セマグルチド(販売名:ウゴービ)などの減量薬はこの機能を模している。

これらの知見から、例えばキチン消化酵素のレベルを下げるなどして、キチンと免疫と健康の関係を調節できれば、食欲を抑える薬などの肥満治療薬の開発に役立つかもしれない。「これまでの研究で、キチンは、ヒトでも同じように免疫応答を活性化することが示されています」とVan Dykenは言う。「キチンやキチン消化酵素を使って免疫応答を調節することは、肥満のような代謝性疾患の治療標的になるかもしれません」。現在、呼吸器疾患や代謝性疾患の治療におけるキチンとキチン消化酵素の利用に対して、Van Dykenは特許を出願している。

肥満と免疫と健康の関連はこれだけにとどまらない。乾癬(かんせん)は、皮膚の細胞が蓄積して、乾燥したうろこ状の斑点を形成する自己免疫疾患で、肥満の人ではそうでない人に比べて2~3倍多い。そして減量は乾癬の症状を改善することが示されている。

エモリー大学医学系大学院(米国ジョージア州アトランタ)の免疫学者Chaoran Liは、肥満が皮膚の免疫系を破壊するメカニズムに興味を持った。これまでの研究で、高脂肪食が炎症を誘発する免疫細胞の活性化を促進し、乾癬の誘因となることが示されていた。Liの研究チームは、痩せたマウスの皮膚の免疫細胞をRNA塩基配列解読法によって調べ、乾癬を引き起こす炎症を抑えているT細胞の集団を特定した2。一方、高脂肪食を摂取させた肥満マウスを調べたところ、このT細胞集団のレベルが著しく低下しており、乾癬を引き起こす炎症が起きていた。また、乾癬の患者から採取した細胞を調べ、データを検索したところ、マウスと同じ細胞が破壊されていることが分かった。Liが注目しているのは基本的なメカニズムだが、自分の研究が乾癬の治療法の改善に役立つだろうと期待している。

たった3日間食事を変えただけで、適応免疫系の細胞にこのような劇的な効果が見られるとは驚きました

過食と絶食

バンコクで販売されているこれらの食用昆虫には、キチンと呼ばれる高レベルの食物繊維が含まれており、肥満治療に役立つ可能性がある。 Credit: Enzo Tomasiello/SOPA Images/LightRocket/Getty

過食や肥満がさまざまな形で健康を害するのであれば、食事を控えることで逆の効果を期待できるだろうか? その場合でも免疫系が重要な役割を果たしているのだろうか?

絶食が、高血圧、動脈硬化、糖尿病、喘息など、さまざまな疾患のリスクを低下させ、その低下は免疫系を介している場合もあるという証拠が集まりつつある。例えば、絶食は循環血液中の単球の数を減少させることが示されている3。単球は外敵から体を守る細胞だが、いくつかの自己免疫疾患の特徴として、その増加が認められる。

このような研究結果を利用すれば、過食に由来する症状を持つ人々を、食事を減らさずに治療できると考えている研究者もいる。例えば、中国科学技術大学(合肥)の神経科学者である占成(Cheng Zhan)は、免疫系を制御する脳幹のニューロン群を特定し、それを操作することで求める効果が得られるかどうかを確認しようとした。占の研究チームは、マウスを絶食させるとこのニューロン群が活性化し、その結果T細胞が、血液や脾臓、リンパ節から、主要な貯蔵庫である骨髄に戻ることを、2024年1月に論文で発表した4。占はまた、自己免疫疾患である多発性硬化症のモデルマウスを用いて、このニューロン群を持続的に活性化させると、麻痺が有意に緩和されて疾患に関連した体重減少が止まり、生存期間が延長することを示した。

このような発見により、実際には空腹を感じることなく、絶食のメリットを享受できるようになる可能性があると占は言う。「免疫系を制御する脳幹のニューロン群は、電気刺激や低分子化合物、あるいはその他の刺激によっても活性化させることができます」。

絶食療法を支持する研究結果は10年ほど前から増えてきているが、行き過ぎたカロリー制限は、状況によっては有害な影響を及ぼす可能性がある。例えば、免疫応答を鈍らせる可能性があるのだ。

マウントサイナイ・アイカーン医科大学(米国ニューヨーク)の免疫学者Filip Swirskiらは、2023年、絶食させたマウスの単球の数が、循環血中では90%減少し、単球を産生する骨髄では増加したと報告した5。ところが、24時間絶食させたマウスに餌を与えると、異常に多くの単球が一気に血中に戻り、通常は感染症や自己免疫疾患に関連している単球増加症を引き起こすことも分かった。絶食中止後に出現する単球は通常より寿命が長く、炎症を引き起こす閾値(いきち)も通常より低かった。また、細菌性肺炎の一般的な原因菌である緑膿菌(りょくのうきん)をマウスに感染させたところ、絶食させたマウスは絶食させていない対照マウスと比較して早期に、より高い割合で死亡した。

エネルギー貯蔵量が少ない期間、体は保護機構として単球を骨髄に隔離しているとSwirskiは考えている。だが、絶食が長引くと、その代償が利益を上回ることもあり得る。

この研究がヒトにおいてどんな意味を持つのかを解明するためには今後の研究が必要であるが、少なくとも、過度な絶食や長期の絶食に対する警告となるのではないかと、Swirskiは話す。「絶食が有益だという証拠はたくさんありますが、バランスを取って、体を限界まで追い込まないことが大切です」。Swirski自身も昼食を抜いてしまいがちだが、「行き過ぎた絶食はしたくないですね」と言う。

絶食を始めると数時間以内に免疫細胞が再分配される。また、絶食以外の食生活の変化も、同様に免疫に急激な一過性の変化を起こすことがある。そのような変化を研究することは、食生活の長期的な変化に関する研究の障害となる交絡因子の回避に役立つとSiracusaは言う。彼は「ごちそう」、つまりエネルギー密度の高い高脂肪食を過剰に摂取する傾向が及ぼす影響を研究してきた。

Siracusaらはマウスに、低繊維・高脂肪食の「ごちそう」を3日間与えた後、通常の食事を3日間与えるというサイクルを繰り返した。その結果、高脂肪食に切り替えたときに、免疫が抑制されて細菌感染を起こしやすくなった6。病原体の検出と記憶を助ける特定のT細胞の数が減少し、その機能が損なわれたのである。さらに、食物繊維の不足は、正常ならばこうしたT細胞を支えている腸内マイクロバイオームに悪影響を与えることが分かった。「たった3日間食事を変えただけで、適応免疫系の細胞にこのような劇的な効果が見られるとは驚きました」とSiracusaは話す。

さらにSiracusaは、6人のボランティアに高繊維食から低繊維食に切り替えてもらった。すると、T細胞にマウスと同様の影響が認められた。その影響は、「祝日のごちそう」と同様に一過性のものではあったが、食事の変化に関連したこのような初期の免疫変化から、慢性的な免疫疾患の原因に関して正確で本質的な理解が深まる可能性があるとSiracusaは考えている。とはいえ、この小規模な概念実証実験に基づいて食事の推奨をするつもりはないと彼は強調している。さらに、マウスでの研究は、ヒトに生じる現象の手掛かりしか与えてくれない。

ヒトでの試験

NIH(米国立衛生研究所)の病院で行われた、4週間にわたる食事療法の研究の被験者。 Credit: Christine Kao

マウスで得られた手掛かりをヒトで確認するのは難しい。被験者が食べるものを長期間にわたって正確にコントロールするのは、毎日の食事を正確に思い出して記録してもらうのと同様に難しいのだ。「1つの方法は、提供した食事だけを食べてもらうことです」と、NIH国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の統合生理学者Kevin Hallは言う。「しかし、その方法でも、指定外の食物を平均400キロカロリー摂取してしまうことが分かっています」。そこでHallらは、さらに一歩踏み込んだ研究を過去10年間にわたり数多く行ってきた。ボランティアを募り、国立衛生研究所(NIH、米国メリーランド州ベセスダ)の研究病院の病室に拘束されることに同意を得た上で、食事を厳密に管理した状況下で反応を測定するのである。

Hallの主な研究対象は、さまざまな食事が代謝や体組成に及ぼす影響だ。例えば、超加工食品(硬化油、添加糖、乳化剤、保存料、香料、着色料などの添加物を使用し、工業的な過程を経て作られた加工食品。糖分や塩分、脂肪を多く含み、一般に常温保存や長期保存が可能)が体重増加に及ぼす影響について研究してきた。

その一方でHallは、NIH国立アレルギー・感染症研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の免疫学者Yasmine Belkaidと協力して、さまざまな食事がもたらす免疫系の変化について調べ、その結果を2024年に発表した(Belkaidは現在、パスツール研究所〔フランス・パリ〕の所長を務めている)。HallとBelkaidは、20人の成人を対象に4週間入院してもらい、前半の2週間はケトン食(動物性食品を基本とし、炭水化物の量を控えた食事)または低脂肪ビーガン食のいずれかに無作為に割り付け、後半の2週間は食事を交換した。血液検体の分析から、どちらの食事に移行する場合でも、さまざまな免疫細胞の数と活性化される遺伝子に明らかな変化が示された7

ケトン食摂取期間の被験者では、T細胞とB細胞の数と活性が上昇していた。これらの免疫細胞は、特定の敵を認識して「精密」な応答を行う適応免疫系の一部である。一方、ビーガン食摂取期間の被験者では、自然免疫応答が増強していた。自然免疫応答は、適応免疫応答よりも迅速だが特異性は低い。このように明確な結果が出たことにBelkaidは喜び、その臨床応用への可能性に期待を寄せているが、この結果に基づいて食事の助言をするのは現段階では控えている。とはいえ、年齢や体重を問わず、また遺伝学的にも異なっているにもかかわらず、わずか2週間で「免疫系に及ぼす効果がほぼ同じになったのは驚きでした」とBelkaidは話す。「次の段階は、特定の病態に対する食事介入を、医薬品と同様の厳格な臨床試験でテストすることです」。

Hallの研究グループは、複数の食事療法の効果を比較するために、ループスの患者に研究に参加してもらうことを検討している。乾癬8や1型糖尿病9に対する追加療法としてケトン食を使用する予備的研究の結果も、別の研究グループによって発表されている。また、免疫系を利用してがんを標的とする治療法の効果を高めるために、食事療法や栄養学を併用する研究も大幅に増加している10。2021年に発表されたある研究11からは、メラノーマの免疫療法を受けている患者では、食物繊維の摂取量が多い患者の生存率が向上すること、また、低繊維食を与えたメラノーマのマウスでは、がん細胞を攻撃する腫瘍近傍のキラーT細胞の数が少ないことが明らかになった。

あらゆる健康状態の人々の免疫系に特定の食事が及ぼす影響を解明するには、まだ多くの課題が残っていることをBelkaidも認めている。しかし、彼女やSiracusaのような考え方の免疫学者は増えてきており、自分たちが解明しつつあるメカニズムに関する知見が、さまざまな病態に対して個別化された食事療法への第一歩になると楽観視している。「今後10年以内に、多様な病態に対して厳密な食事指導を受けられるようになる世界が実現するかもしれません」とBelkaidは話す。「高度な情報に基づいた栄養学は、臨床的にとても大きな可能性を秘めていると思います」。

翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2025.250126

原文

Your diet can change your immune system — here’s how
  • Nature (2024-10-17) | DOI: 10.1038/d41586-024-03334-0
  • Nic Fleming
  • 英国ブリストル在住のサイエンスライター

参考文献

  1. Kim, D.-H. et al. Science 381, 1092–1098 (2023).
  2. Sivasami, P. et al. Immunity 56, 1844–1861 (2023).
  3. Jordan, S. et al. Cell 178, 1102–1114 (2019).
  4. Wang, L. et al. Nature Neurosci. 27, 462–470 (2024).
  5. Janssen, H. et al. Immunity 56, 783–796 (2023).
  6. Siracusa, F. et al. Nature Immunol. 24, 1473–1486 (2023).
  7. Link, V. M. et al. Nature Med. 30, 560–572 (2024).
  8. Castaldo, G. et al. J. Proteome Res. 20, 1509–1521 (2021).
  9. Leow, Z. Z. X., Guelfi, K. J., Davis, E. A., Jones, T. W. & Fournier, P. A. Diabet. Med. 35, 1258–1263 (2018).
  10. Golonko, A. et al. Cell Death Dis. 15, 254 (2024).
  11. Spencer, C. N. et al. Science 374, 1632–1640 (2021).