ゴールドバッハの素数
数学における未解決問題の1つが、「任意の奇数はたかだか3つの素数の和で表せる」という「弱いゴールドバッハ予想」だ。素数はそれ自身と1を除くどんな数でも割り切れない数で、例えば 35=19+13+3や77=53+13+11などとなる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の数学者Terence Taoは、奇数を5つの素数の和として表せることを示し、証明に一歩近づいた。彼はこれを3つに減らせるだろうと予想している。
「弱いゴールドバッハ予想」は18世紀のドイツ人数学者Christian Goldbachが提唱した。これは、偶数に関する「強いゴールドバッハ予想」という別の命題の兄弟分にあたる。こちらのほうを実際に提唱したのは有名なLeonhard Eulerで、「2よりも大きいあらゆる偶数は2つの素数の和として表せる」というものだ。その名が示すように、強い予想が真であれば、弱い予想も真となる。奇数を3つの素数の和として表すには、3を引いて、残った偶数に強い予想を適用すれば十分だ。
これまで19桁までのすべての数について、コンピューターを使って両方の命題が成立することが確かめられた。さらに、数が大きいほど、それを2つの数に分割する方法の数も増える(3つに分割する方法も)。したがって、対象が大きな数であるほど、これらの命題が真である見込みは大きくなる。実際、強い予想が成り立たない例外が存在するとしても、対象とする数が無限大に近づくにつれて、そうした例外はどんどんまれになることが数学的に証明されている。
また弱い予想については、例外があるとしてもその数はたかだか有限個であることを示した1930年代の有名な定理がある。言い換えると、“十分大きな数”については「弱いゴールドバッハ予想」は真であるということだ。
Taoは十分小さな数についてコンピューターで確かめた結果と、十分大きな数について当てはまる結果を組み合わせた。以前の計算に「多くの小さな手直し」を加えて改善することにより、予想が成立する2つの範囲が重なるところまで持ってきた — 5つの素数を使う限りにおいて。
Taoはこの手法を拡張して、どのケースでも3つの素数で十分であることを示したいと望んでいる。だが、それでも強い予想の証明には役立ちそうにない。弱い予想は強い予想とは比較にならないほど容易だとTaoはいう。数を3つに分ける場合、2つに分けるのに比べて「分け方がずっとたくさんあり、幸運にもすべてが素数になる可能性も高くなる」からだ。ゴールドバッハの死から250年も過ぎた今も、この難問の解法については誰も解決戦略を描けていない。
翻訳:鐘田和彦
Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2012.120606b
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