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月内部を精密探査する双子衛星

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111216

原文:Nature (2011-09-01) | doi: 10.1038/477016a | Twins to probe Moon's heart

Eric Hand

月の重力を精密に測定して、地下にある高密度の岩の分布を調べるNASAの探査機が打ち上げられた。

GRAILの2つの探査機は協力して、月のこちら側と向こう側の両方の重力分布を調べる。 | 拡大する

NASA/JPL

月の表面を見るのは簡単だが、その内部はまだ多くの謎に包まれている。これまでにヨーロッパ、日本、インド、中国、米国の探査機が、月の表面をくまなく撮影したり、鉱物資源の分布を調べたり、水が存在する証拠を探したり、将来、着陸するのに適した場所を探したりしてきた。今回、米国航空宇宙局(NASA)の月探査機GRAIL(Gravity Recovery and Interior Laboratory)が9月10日に打ち上げられた。この計画の研究責任者(PI)であるマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の地球物理学者Maria Zuberは、「まだ明かされていない月の歴史を解明したい」と考えている。

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NASA

「今回の調査で驚くべき事実が見つかるでしょう」とZuberは話す。彼女がこれほど確信を持っているのは、GRAILがこれまでの調査よりも数桁高い精度で月の重力分布を調べることができるからだ。その重力分布から、地下の岩の密度分布が得られる。このデータは、地質学的に大きな変動を経てきた月の過去を解明し、月が液体の核を持っているのかという問題に答えを出し、月の「海」と呼ばれる巨大衝突盆地の地下構造の手がかりを得るのにも役立つはずだ。

GRAILは、1対の双子の探査機からなり、地球観測衛星GRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment)をベースに開発された。GRACEは2002年に打ち上げられた地球を回る衛星で、軌道から地球の重力場を高精度に調べ、地下水帯水層や海洋の流れの変化をとらえることができる。この実地に検証済みの技術を使ったため、GRAIL計画の費用は4億9600万ドル(約380億円)に抑えることができた。飛行計画もコスト削減に役立った。まっすぐ月に向かって打ち上げるのではなく、GRAILは3か月半の旅をした後に月の極軌道に入る。このため、減速のための燃料も少なくて済む。

2つのGRAIL機には、教育目的の画像を撮影するために4個ずつのカメラが搭載されているが、それ以外には1つの測定装置しか搭載されていない。また、その装置は月のほうさえ向いていないのだ。2つの探査機は月面の上空55kmを飛び、互いに60~225km離れている。2機はマイクロ波をやりとりして、お互いの正確な距離を測定する。片方の探査機が密度の高い物体(例えば山)に接近すると、わずかに強い重力を感じて一時的に速度を上げ、もう1機との距離が変わる。GRAILが高精度の重力測定を行うためには、この距離の変化を1µm未満の精度で測定する必要がある。「高精度の重力測定を実現するためには、このほかにも、遠い惑星の重力の影響、地球の追跡ステーションがのっているプレート(岩板)の運動、探査機の太陽電池パネルへの太陽光の圧力などを考慮する必要があります」とZuberは話す。

月の重力の分布は、すでに、これほど正確にではないが、1機の月周回衛星の速度変化を地球から測定することによって調べられている。しかし、この測定は月周回衛星が月の向こう側に隠れたときは不可能だった。2007年に打ち上げられた日本の月探査機かぐや(セレーネ)は、中継衛星を使って月の向こう側の重力の分布を調べた。この中継衛星は高い高度を回り、地球とセレーネの両方と無線通信が可能な位置にいた。Zuberは言う。「GRAILが作成する重力分布図はこれよりもっと正確で、地球を回るGRACEが作成した重力分布図よりも正確です。なぜなら、GRACEは地球大気の抵抗を避けるために、GRAILの10倍高い高度を回らなければならなかったからです」。

研究面での目標の1つが、月の深部の構造だ。アポロ計画で宇宙飛行士が月面に残してきた反射体に向けて地上からレーザー光を発射し、反射して帰ってくる時間を測定することで、月がかすかにふらついていることがわかった。これは、月に軟らかい核が存在していることを示している。「GRAILはこれが事実であるかを確かめることができるはずです。また、核に意外な物質が付け加わっていることがわかるかもしれません。例えば、月ができてまもなく、まだマグマの球だったときに、マグマから結晶化して出た酸化チタンなどの化合物が月の核に加わった可能性があります」とZuberは話す。

そうした成果を総合すれば、内部太陽系が冷えたときに、そこの惑星がどのようにして層状の構造になったのかを明らかにすることもできるかもしれない。ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)の地質学者Brad Jolliffは、「それは月を理解するということにとどまりません。ほかの岩でできた天体がどのように分化したかを理解するうえでも役立つはずです」と話す。一方、Zuberは「GRAILは、衝突盆地の周囲の岩を調べることにより、巨大衝突の動力学も明らかにするでしょう。それは巨大衝突のシミュレーションモデルを作っている研究者にも役立つはずです」と話す。

しかし、「90日間のGRAILの探査が終わってしまうと、NASAの月探査計画がその後どうなるかは不明確です」と、ニューメキシコ大学(米国アルバカーキ)の惑星地質学者Chip Shearerは指摘する。彼はNASAの諮問機関「月探査検討グループ」(LEAG)の代表でもある。NASAは2020年までに月に再び人を送ることをめざしたコンステレーション計画を打ち出していたが、この計画は中止された。コンステレーション計画を進めるために策定された一連の月探査計画は終わりに近づいている(コラム「月探査ラッシュ」を参照)。LADEE(月大気・ちり環境探査機)計画はそうした計画の最後のもので、2013年に打ち上げられ、月の薄い大気とその中の微細なちりを測定する。

しかし、月の科学研究において重要な2つの計画が進んでいない。月の南極近くの最大の衝突盆地からサンプルを持ち帰る計画は、Jolliffがその代表を務めているが、小惑星からサンプルを持ち帰る計画に敗れた。また、「国際月ネットワーク」(ILN)は月表面に地震計などのネットワークを設置する計画で、かつてはNASAが主導していたものだ。しかし今では、「NASAの支援を受けるには、ほかのあらゆる太陽系探査計画との競争に勝ち抜く必要がある」と言われているという。

Shearerは「私たちは、月科学の観点から次に何を行うべきかはわかっています。しかし、実際に次にどのような計画が実現するのかが、わからない状態なのです」と話している。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Kim, D.-H. et al. Science 333, 838-843 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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