2011年12月号Volume 8 Number 12
科学が新しい治療法を阻害する?
パーキンソン病は運動能力などを失っていく難病で、ドーパミンやアセチルコリンなどが関係する神経変性疾患だ。この病気の治療法として、胎児由来神経細胞の移植など、新しい外科的な方法がいろいろと試みられてきた。こうした治療法の有効性を判断する時、二重盲検法の代わりに「偽手術」という手法がよく使われる。これは、目的の手術と全く同じ手続きを踏み、その薬剤なり組織なりを移植しない点だけが異なる。しかし、パーキンソン病のような疾患の場合、手術を受けたことで治癒への期待が高まり、患者のドーパミン分泌が増えるなどのプラセボ効果がかなり見られる。プラセボ効果を排除しようとする科学性と、実際の治療効果を求める患者の意志は、時としてぶつかることがある。
Editorials
資金配分が少なすぎる脳疾患研究
このほど発表されたヨーロッパの神経・精神疾患に関する統計は、まさに衝撃的なものだ。この分野にもっと研究資金を振り向けるよう、明らかに現在のやり方を変える必要がある。
Research Highlights
感染個体の処分ではタスマニアデビルは救えない
タスマニアデビルSarcophilus harrisiiの間では、致命的な顔面のがんが広がっており、絶滅の淵へと追いやられている。
News in Japan
ノーベル化学賞は準結晶に
四半世紀前まで、X線結晶回折において、5回対称パターンは「存在しえないもの」とされてきた。その常識を覆した発見に、今年のノーベル化学賞が贈られる。
News Features
パーキンソン病の新治療法を科学が阻害する!?
脳の「偽手術」は、二重盲検法とともに科学の正当な手法と見なされている。しかし、こうした方法論自体が、パーキンソン病の有望な治療法をつぶしてしまう危険性をはらんでいる。
Japanese Author
イレッサで患者が救えることを信じ続けた医師 (萩原 弘一)
日本人の死因の30%を占めるがん。そのうち肺がんは、男性のトップ、女性で第3位だ。2002年に発売された肺がん治療薬イレッサ(薬物名ゲフィチニブ)は、高い効果を発揮したものの、副作用のために認可取り消しの危機に見舞われた。その後、イレッサが安心して使えるようになるまで長い道のりを要したが、その陰には、基礎研究と臨床の現場を結んだ医師たちの努力があった。
News & Views
自信過剰は自然選択において有利に働く
過信が無謀さにつながることは、誰もが知っている。しかし、リスクより大きな報酬がある場合には、過度に肯定的なセルフイメージを持つことが進化上の利点となるかもしれない。
大量絶滅を引き起こした巨大火山活動
非常に広い範囲にわたって火成岩が分布するシベリア・トラップの調査から、そのマグマ源に、リサイクルされた海洋地殻がかなりの割合で含まれていたことを示すデータが得られた。
News Scan
ヒマラヤ越えインドガンの秘密
鳥が高度9000mもの高空を飛べる理由が明らかになった
SNSで慢性疾患の治療法を改善
フェイスブックに似たサイトを通じて臨床研究を進める「C3N」が米国で始動
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