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2010年版の基礎物理定数表

科学技術データ委員会(CODATA;本部・パリ)の特別委員会は、4年ごとに、さまざまな物理定数の改訂値を公表している。この基礎物理定数表には、おなじみの光速度cから、あまりなじみのないタウ粒子の質量まで、300を超える物理定数の値と不確かさを入念に決定した最新値が記載されている。

その2010年版(2010CODATA)が2011年6月、まずオンラインで入手できるようになり、7月19日には米国立標準技術研究所(NIST;メリーランド州ゲイサーズバーグ)から公式に発表された。今回、いくつかの重要な定数の不確かさが減少し、物理学者たちは「理論のさらに詳細な検証が可能になる」と歓迎している。ケルビン(K)やキログラム(kg)などのおなじみの単位を、キログラム原器のような安定でない原器に頼らず、不変の基礎物理定数から再定義しようとする計画にも、こうした正確な値は役立つはずだ。

CODATA特別委員会の一員で米国立標準技術研究所に所属するPeter Mohrは、「物理定数の正確さが向上することは、科学を進める研究者の自信を高めていきます」と話す。

特別委員会は、基礎的な物理量の値を制限する最新の実験結果と理論を検討し、2006年に公表した値を改訂した。原子物理学で使われる微細構造定数α、エネルギー量子の大きさを決めるプランク定数h、「原子量に等しい質量(単位はグラム)の試料に含まれる原子数」であるアボガドロ定数NA、エネルギーと温度を関連づけるボルツマン定数kの不確かさが減少した。

こうした改善の多くは、測定技術の進歩から生じた。例えば、2010年に高度に精製したシリコン(ケイ素)結晶中の原子を数えることによってアボガドロ定数が測定され、値は修正された(Nature 2010年10月21日号892ページ本誌2011年1月号24ページを参照)。この値は、アボガドロ定数とも関係しているプランク定数から得られた値と近くなった。このもう1つの値は、具体的には1kgの試料を磁場中に置いたコイルに働く電磁気力でつり下げ、必要な電流を測定することによって得られた。CODATAが公表するアボガドロ定数の相対不確かさは、この2つの方法による結果を組み合わせることにより、±5.0╳10−8から±4.4╳10−8に減少した。ボルツマン定数の場合は、5つの新しい測定結果をもとに、相対不確かさは2006年の1.7╳10−6から±9.1╳10−7に減少した。2006年の値のもとになった測定結果は2つだけだった。「こうした不確かさの減少はよいニュースです」とMohrは話す。

フランスのセーブルにある国際度量衡局(BIPM)の名誉局長Terry Quinnは「国際単位系(SI)のアンペア、モル、キログラム、ケルビンの4つの単位を物理定数に関連付け、国際単位系を合理化することが提案されています。アボガドロ定数やボルツマン定数などの物理定数がより正確に求められたことは、この提案にとっては後押しになります」と話す。この提案への賛否を問う投票が、10月にパリで開かれる国際度量衡総会で行われる予定で、認められれば国際単位系は2015年までに改定されることになるだろう。

アンペアを再定義する計画は、電子の電荷がきわめて正確に測定されているため、ずいぶん前から順調に進んでいた。「ケルビンもボルツマン定数の最新の値を使って容易に再定義できます」とMohrは話す。難題はキログラムだった。キログラムは、現在は国際度量衡局に保管されているキログラム原器の質量で定義されている。物理学者たちの多くは、原器の質量は時間とともに変化するので、原器による定義には問題が多いと考えている。新しい提案では、kg・m2・s−1(Js)の単位を持つプランク定数からキログラムを定義することになるだろう。ただし、再定義には、プランク定数の値の相対不確かさを±2╳10−8まで減らすべきだと考える専門家もいる。

Quinnは、「最近の進歩を考慮すれば、キログラムの再定義は2015年までに達成できるでしょう」と話す。一方、国際度量衡局の単位諮問委員会の委員長であり、レディング大学(英国)の化学者で物理学者のIan Millsは「プランク定数の不確かさは、すでにキログラムを十分な信頼性で再定義できるほど小さいと思います。国際単位系はすぐにも改定できるかもしれません」と話している。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2011.111031

原文

Physicists count on updated constants
  • Nature (2011-07-28) | DOI: 10.1038/475437a
  • Eugenie Samuel Reich