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米国が気候変動の「公衆への脅威」認定を撤回

この決定により、自動車が排出する温室効果ガスへの規制を緩和する道が開かれた。 Credit: Kevin Carter/Getty

米国環境保護庁(EPA)による温室効果ガスの「危険性認定」は、米国の排出量抑制への取り組みの基礎になってきた。しかし今回、同庁はこの認定を撤回し、17年ぶりに、温室効果ガスを「公衆の健康と福祉に対する脅威」と見なすことをやめた。EPAのLee Zeldin長官は、この決定により過剰な規制が撤廃され、米国は経費を節約できるようになると述べたが、反対派は、気候変動が深刻化する中で、より多くの生命が危険にさらされることになると批判している。

EPAが2009年に出した画期的な危険性認定は、米国の温室効果ガス排出規制の法的根拠として機能してきた。EPAは現時点では、この撤回を利用して、乗用車、トラック、その他の車両の排出規制を緩和しているが、今後、発電などの他の分野にも適用してゆく可能性がある。いくつかの推定によると、車両の規制を廃止するだけでも、今後数十年間で数十億トンの温室効果ガスが大気中に追加で排出されることになるという。

連邦法はEPAに対し、利用可能な最良の科学に基づき決定を行うよう義務付けている。しかし、インペリアルカレッジ・ロンドン(英国)の気候科学者で、極端気象と人為的な気候変動の関連を研究する世界気象分析グループ(WWA)の責任者であるFriederike Ottoは、今回のEPAの決定は「物理学の最も基本的な法則を否定している」と批判する。

テキサスA&M大学(米国カレッジステーション)の気候科学者Andrew Desslerは、この措置について「正当な科学的根拠は存在しません」と述べる。

Zeldinは2026年2月12日にこの決定について発表した際、気候変動の科学には触れず、彼の言う米国史上「最大の規制緩和措置」に重点を置き、「官僚的な形式主義は断ち切られた」と言った。

同年2月18日には、公衆衛生団体や環境保護団体が、この措置に異議を申し立てる訴訟を起こした。こうした訴訟は、最終的には最高裁判所に持ち込まれる可能性がある。

さらなる後退

共和党のトランプ政権は、2015年の気候変動に関するパリ協定から離脱したり、連邦公有地を石油探査と石炭採掘のために開放したりと、気候変動とその原因である温室効果ガス排出に対する対策を後退させる措置を進めており、今回の決定もこれらの動きと軌を一にする。

トランプ大統領はZeldinと共にホワイトハウスで危険性認定の撤回について発表した時、この認定は「公衆衛生とは何の関係もない」と言い、「わが国に対する詐欺だったのだ」と述べた。

EPAは当初、危険性認定を撤回する理由として、米国エネルギー省(DOE)長官のChris Wrightが任命した委員会が作成した2025年7月の報告書を引用していた。委員会のメンバーは気候科学に批判的なことで知られる学者らで、その報告書は、気候変動のリスクを過小評価し、地球温暖化に関する確立された証拠に疑問を投げ掛ける内容だった。

この報告書に対して85人以上の科学者のチームが詳細な批判を提出し、その後、委員会は解散した。2026年1月、連邦裁判官は、この委員会は公の場を経ず違法に組織されたとする判決を下した。NatureはDOEに委員会の正当性について質問したが、回答はなかった。

EPAは最終決定において、この報告書を方針転換の根拠として引用しなかった。フォーダム大学(米国ニューヨーク)の法学者であるAdam Orfordは、これは重大な戦略転換であり、Wrightが任命した委員会に対する科学者らの抵抗が功を奏した証拠だと指摘する。代わりにEPAは、同庁には温室効果ガスの排出を規制する権限はないという法的主張を撤回の根拠としている。

規制権限を失うEPA

危険性認定があったからこそ、EPAは自動車の厳格な燃費基準や発電所の排出規制など、広範な汚染対策を実施することができた。危険性認定の撤回を批判する人々は、これにより、EPAが炭素排出を規制する能力は大きく低下することになると指摘する。米国ニューヨークの環境保護団体である天然資源保護協議会(NRDC)の連邦気候法務ディレクターであるMeredith Hankinsは、「これは気候危機に対処する連邦政府の権限に対する史上最大の攻撃です」と言う。

今回の決定は、米国全体の温室効果ガスの約29%を排出する最大の排出源である乗用車とトラックに適用される。米国マサチューセッツ州ケンブリッジの科学擁護団体である憂慮する科学者同盟(UCS)の会長兼最高責任者であるGretchen Goldmanによれば、これにより2055年までに少なくとも70億トンの温室効果ガスが追加で排出されることになるという。これは、米国の現在の年間排出量を上回る量である。排出規制を撤廃することは、「人々の健康、安全、そして未来を犠牲にすることです」とGoldmanは言う。

危険性認定の撤回は、EPAが米国第2の温室効果ガス排出源で、総排出量の24%を占めている発電所に対する規制を緩和する新たな方法を編み出そうとする可能性があることも意味している。

今回の決定に異議を唱える訴訟が裁判所で審理される間も、EPAは新たな決定に沿って仕事を進めることができる。「最終的に司法がどう判断するかにかかわらず、数年分の規制措置が失われることになります」とOrfordは言う。

極端気象の増加

連邦議会の民主党議員は、この決定を非難した。上院民主党を率いるニューヨーク州選出のChuck Schumer上院議員は、「大手石油会社に対する考え得る限り最大の利益供与であり、その他全ての人々が被る経済的および健康上の影響は深刻なものになるだろう」と批判した。これに対して、テキサス州選出の共和党議員で、下院科学・宇宙・技術委員会の委員長であるBrian Babinは、認定の撤回は「連邦政府の規制権限の適切な限界を取り戻すための、長く待たれていた一歩だ」と語った。

地球温暖化を引き起こす温室効果ガス排出量の増加は、人々の生活や生計、そしてそれらが依存する環境維持システムに重大な混乱をもたらす危険性を増大させる。WWAや他の多くの研究者によれば、炭素排出量の増加に伴い、火災や洪水などの極端気象による被害は世界中で増加し続けているという。世界の海水準は1993年以来10 cm以上上昇しているし、2015~2025年は世界平均で観測史上最も暑い11年間だった。

Ottoは、欧州諸国や中国を含む各国政府は、よりクリーンなエネルギー技術への移行を急速に進めていると言う。「トランプ政権が気候危機の現実を法律で否定しようとしている一方で、世界の他の地域は前に進んでいるのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260518

原文

US repeals key ‘endangerment finding’ that climate change is a public threat
  • Nature (2026-02-12) | DOI: 10.1038/d41586-026-00455-6
  • Alexandra Witze