中国が研究不正を放置する大学に制裁政策
中国政府は、研究不正を理由に撤回される研究の数を減らすことを目指している。 Credit: Designer491/Getty
中国科学技術部(MOST)が、重大な研究不正に関与した科学者に対して調査や処分を行わなかった大学への厳重な取り締まりを始めようとしている。これは、中国の学者とその所属機関に、科学における研究公正をより重く受け止めさせるための新たな取り組みの一環としての措置である。
MOSTはその公式サイト上で、各機関に対し、国際的な科学誌で研究不正により撤回された論文の調査に注力することを求めた。
抑止力を高めるため、この調査結果は公表される。研究者の不正行為を隠蔽(いんぺい)または黙許した所属機関には厳しい制裁を科すとされているが、制裁の具体的な内容は明らかにされていない。
復旦大学(中国上海)の科学・イノベーション政策研究者であるLi Tangは、機関に責任を負わせることは、学者による研究不正を抑制する効果的な方法となり得ると指摘する。彼女によると、研究公正は機関レベルで管理される場合に最も効果的に管理できることが多いという。
中国は、長年にわたって続く研究不正の問題に対処しようとしてきた。2023年には出版社ワイリー(Wiley)の子会社ヒンダウィ(Hindawi)が9600本以上の論文の撤回を発表した(2024年3月号「2023年の撤回論文数が1万本突破で新記録」参照)が、そのうちの約8200本に中国の共著者がいた。2024年には中国政府が撤回された論文に関する初の全国規模の監査を実施し、大学に対し、論文が撤回された理由を説明し、研究不正があった場合にはその調査をするよう求めた。
これを受けて、MOSTは重大な研究不正の事例を記録する全国規模のデータベースを構築した。当局は、研究資金配分、プロジェクト申請、人材プログラム、院士(中国科学院のメンバー)選挙、および賞の選考における適格性を判断する際に、これを利用できる。
Tangによれば、これまでは、研究不正を適切に調査しなかった機関の職員が処分されたり大学が罰金を科されたりする事例はほとんどなかったという(L. Tang et al. Sci. Eng. Ethics 29, 39; 2023)。
長期的な目標
今回の政策は、「研究公正に関するガバナンスの強化を目指す中国政府が、より長期的に積み重ねてきた取り組みの一部として理解されるべきです」とTangは言う。
しかし、この政策にはより広い意味合いもあると彼女は言い、「中国で、研究不正に関連して撤回された論文は、主に国際的な学術誌や自然科学分野に関わるものでした」と指摘する。これに対して、中国国内の学術誌や人文社会科学分野の研究は国際的な注目度がそれほど高くないため、問題があっても指摘されることはないかもしれないとTangは言う。
ブラッドリー大学(米国イリノイ州ピオリア)の図書館・情報科学者であるXiaotian Chenは、MOSTの計画は研究公正にとって「さらなる前進」だと評価する。「これは、AIの時代において、特に重要になる可能性があります。AIは、世界中で研究論文を『製造』する新たな手段となっているからです。私は学術誌の編集長として、他国の著者がAIを使って生成した投稿論文を何度も目にしてきました。中国も、この新しいタイプの論文製造法の影響を受けないわけにはいかないでしょう」。
しかしChenは、研究不正を行った科学者に科される研究資金や賞への応募資格の剝奪などの制裁は国際的な基準からすれば軽い方で、国によっては、特に医学研究などの影響の大きい分野では、公的資金に関連した重大な不正行為は刑事責任を問われることもあると言う。彼はまた、研究不正に対してほとんど、あるいは全く対処しなかった機関に制裁を科すというこの政策が効果を上げるためには、全国的に実施する必要があるとも付け加える。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2026.260520
原文
China to punish universities that fail to sanction research misconduct- Nature (2026-02-11) | DOI: 10.1038/d41586-026-00321-5
- Mohana Basu
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