リサーチハイライト
本物の腺のようにホルモンを分泌する「培養の腺」
重要なホルモンを分泌する器官である副腎の機能の一部を果たすオルガノイドが開発された。 Credit: Sciepro/Science Photo Library/Getty
科学者らが初めて、実験室製の副腎皮質を作り出した。副腎皮質は副腎の外層で、代謝、ストレス、血圧の調節に不可欠なホルモンを分泌する。この「オルガノイド(実際の臓器の解剖学的構造の一部を再現する3D構造体)」は将来、副腎疾患の治療法の開発に用いられるようになるかもしれない。
南昌大学(中国)のQing Liらは、ヒトの副腎腫瘍と共に採取した副腎皮質細胞から、今回のオルガノイドを作製した。オルガノイドの構造は副腎皮質と完全に同じではないものの、副腎を摘出したマウスに移植するとコルチゾール(ストレス反応などに関与するホルモン)の産生を誘発するなど、その機能の一部を果たすことができた。
Liらは別の実験で、クッシング症候群の原因となるコルチゾール産生腫瘍の発生に関連する遺伝子変異をオルガノイドに導入した。このオルガノイドは、クッシング症候群の研究や、コルチゾールの異常産生を抑制する薬剤の試験に使える疾患モデルとなる可能性がある。
Stem Cell Rep. 20, 102679 (2025).
急増する炭素がアマゾンの高木の成長を加速させる
Credit: Pete Oxford/Nature Picture Library
アマゾンの高木は、10年前に比べて大きくなっていることが分かった。
気候変動は世界中の森林の形を変えている。干ばつや山火事の頻発は高木を枯死させるが、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は、植物の成長を促す「大気中の肥料」として機能する。
そのため、アマゾンの熱帯雨林の伐採されていない領域は、長年にわたって着実にバイオマスを増やしてきた。ケンブリッジ大学(英国)のAdriane Esquivel-Muelbertらは、アマゾンの熱帯雨林の周辺にある188の成熟した森林区画における高木のサイズと構造が、30年間でどのように変化したかを調べた。
研究チームは、これらの区画の高木は時間の経過とともに太くなり、胸の高さでの幹の太さの平均サイズは10年ごとに約3.3%ずつ増加していることを発見した。また、大高木は小高木よりも成長が速く、その割合は以前よりも高くなっていた。
今回の知見は、アマゾンの成熟した熱帯雨林が、今のところは気候変動による最悪の影響を免れていることを示唆している。しかしEsquivel-Muelbertらは、気候変動によって、干ばつや落雷など、大高木に対する脅威の発生率が高まることが予想されると注意を促す。
Nature Plants https://doi.org/p69c (2025).
カメムシの耳と思われていた器官の正体は秘密兵器
Credit: GlobalP/iStock/Getty
一部のカメムシの雌は、後脚にある器官で菌類を培養し、その菌を卵に塗布することで、寄生バチの攻撃から卵を守っていることが明らかになった。この器官は、カメムシのごく一部の科の雌の後脚にしかなく、その外見が他の昆虫の感覚器官と似ていることから、以前は聴覚器官だと考えられていた。
しかし、産業技術総合研究所(AIST、茨城県つくば市)の西野貴騎(にしの・たかのり)らがノコギリカメムシ(Megymenum gracilicorne)を詳細に調べたところ、聴覚器官ならあるはずの膜質の構造は見当たらず、分泌細胞につながる多数の小孔があることが分かった。この小孔が菌類にとっての「苗床」となり、カメムシはここで育った菌類を卵に塗布していたのだ。やがて卵の表面から菌糸が伸び出し、数日後には卵塊の全体が菌糸に覆い尽くされる。
実験により、繁茂した菌糸は物理障壁となり、寄生バチがカメムシの卵に自分の卵を産み付けるのを防ぐのに役立っていることが明らかになった。菌糸に覆われていない卵は、寄生バチに卵を産み付けられ、孵化した幼虫によって内側から食べられてしまうことがある。
Science 390, 279–283 (2025).
大気汚染物質に含まれる細菌の内毒素は非常に有害
Credit: Steve Gschmeissner/Science Photo Library/Getty
細菌に由来する毒素が大気汚染物質に占める割合はごくわずかだが、どこにでもある大気汚染物質を格段に有害なものにしていることが分かった。
直径2.5 µm未満の粒子状物質(PM2.5)を含む汚染大気は、毎年数百万人の早死にの原因になっている。PM2.5には、自動車や工場から排出される煤煙(ばいえん)や重金属の他に、細菌、ウイルス、菌類、細胞の残骸なども含まれているが、これらの生体成分が注目されることはほとんどなかった。
香港理工大学(中国)のJinyan Yuらは、香港の大気中に含まれるPM2.5の試料を12カ月にわたって定期的に採取した。そして、このPM2.5のさまざまな成分が、肺の内側を覆う上皮細胞の試料において炎症性タンパク質の産生を誘発する能力を評価した。
その結果、内毒素と呼ばれる細菌由来分子は、PM2.5試料の質量に占める割合は常に0.0001%未満であったものの、PM2.5の成分によって産生が誘発された炎症性タンパク質の合計質量の最大17%が内毒素によって説明できることが分かった。研究チームは、PM2.5の試料中の内毒素が、空気に漂っているある種の細菌に由来していることを突き止めた。
Yuらは、PM2.5に含まれる内毒素の濃度が香港よりも高い地域では、下水処理施設からのこれらの細菌の排出を減らすなどして発生源を減らすことで、人々の健康に恩恵をもたらせる可能性があると示唆している。
Environ. Sci. Technol. https://doi.org/p7fq (2025).
死んだ星が新しい系外惑星を育む
Credit: Photostock-Israel/Science Photo Library/Getty
惑星系にどのような惑星が形成されるかは、投入される材料によって変わってくるようだ。天文学者の報告によると、星の周りに形成される惑星の構造は、星の周囲を漂う元素によって大きく異なってくる可能性があるという。
星の中には、もっぱら酸素やケイ素のような軽い元素を作るものもあれば、鉄やニッケルのような重い元素も作るものもある。星が死ぬと、これらの元素が撒き散らされて、次の世代の星や惑星に取り込まれる。
ネバダ大学ラスベガス校(米国)のJason Steffenらは、惑星の内部構造がその原料にどのように依存するかを調べるために、軽元素を多く含む古い惑星系から重元素を多く含む若い惑星系まで、複数のタイプの惑星系をモデル化した。
研究チームは、重い元素の多い材料から生まれた惑星は中心核が大きく、密度が高くなることを見いだした。天文学者らはこれまで、さまざまな年齢の惑星系に散らばる惑星を発見してきたが、今回の知見により、こうした惑星の構造を説明することができると、Steffenらは述べる。
Astrophys. J. 991, L33 (2025).
遺伝解析によって蚊の系統樹が書き換えられた
Credit: Marc Deville/Gamma-Rapho/Getty
新たに修正された蚊の系統樹は、この昆虫の出現時期がこれまで考えられていたよりも1億年遅く、現生の蚊の祖先が出現した時期は、マラリア原虫を含むプラスモジウム属(Plasmodium)の祖先が出現した時期とほぼ同時だったことを示唆している。
蚊が媒介する疾患に罹患する人は、毎年数億人に上る。蚊の進化史を理解することは、蚊の最善の防除法を知る上で重要である。香港大学(中国)のMac Pierceらは、蚊のゲノムにちりばめられたDNAマーカーの違いを分析することによって、その歴史を追跡した。
研究チームは、化石蚊と、現生の約68種の蚊科(Culicidae)の公開遺伝データを分析し、さらに15種の蚊のDNAマーカーの塩基配列を解読した。その結果、長い間信じられてきた蚊の系統樹が再編成され、現生の蚊の出現時期は約7300万年前の白亜紀後期であり、これまで考えられていたよりも約1億年遅いことが明らかになった。
現生の蚊の属の多くは、約6600万年前に起こった大量絶滅イベントの後に初めて出現した。プラスモジウム属を媒介する蚊が出現した時期は約4600万年前で、プラスモジウム属の出現時期とほぼ同時であり、寄生者とその宿主が長年にわたり絡み合うように進化してきたことを示唆している。
Proc. Natl Acad. Sci. USA 122, e2519291122 (2025).
母クジラの体長が長いほど、より多くの雌を産む
Credit: Robert Smits/500px/Getty
体長の長い母クジラは、体長の短い母クジラに比べて雌を産む可能性が高いことが観察された。
雄たちが雌を巡って競争する種において、資源を豊富に持つ母親は、他の雄との競争に勝つ可能性の高い息子を産む方が有利なのか、それとも仔を産むことができる娘を産む方が有利なのかについて、科学者の意見は分かれている。
ワシントン大学(米国シアトル)のZoe Randらは、クジラにおける仔の性比の不均衡を調査するため、ナガスクジラ(Balaenoptera physalus、写真)を含む7種の大型のヒゲクジラの約21万頭の胎児に関する捕鯨記録データを分析した。
体長が長い雌は、妊娠と育児という多くの資源を必要とする営みに必要な脂肪をより多く蓄えている。Randらが調べた7種のヒゲクジラの全てにおいて、体長の長い母親は雌を多く産む傾向があった。
この傾向は、捕鯨によるダメージからの回復を遅らせる恐れがある。捕鯨は大きな個体を標的とするからだ。生き残った小さな雌がより多くの雄を産むなら、仔を産むことができる雌は減ることになる。
Proc. R. Soc. B. 292, 20251437 (2025).
欧州に降る雹の故郷はサハラ砂漠
Credit: Nicolò Campo/Lightrocket/Getty
科学者らが、サハラ砂漠の砂嵐と、アルプス山脈の高地を含む欧州の雹(ひょう)嵐とを関連付けた。
大気中の砂塵粒子はしばしば水や氷の層に包まれ、雨滴や雹や雲の核としての役割を果たす。その結果の1つとして、アフリカから北に向かって漂う砂塵が、欧州全域の気象パターンに影響を及ぼす可能性がある。
チューリヒ工科大学(ETH、スイス)のKilian Brennanとベルン大学(スイス)のLena Wilhelmは、特に雹に注目した。彼らは主に2013〜2021年の期間に焦点を絞り、衛星による砂塵濃度の観測データを、欧州全土の気象記録や雹の報告と比較した。
その結果、雹が降った日の大気中の砂塵の量は、雹が降らなかった日の約2倍であったことが分かった。しかし、この関係はあるレベルまでしか当てはまらず、砂塵の量がそのレベルを超えると、雹の発生は減少し始めた。
砂塵の影響は、フランス、ドイツ、オーストリアの一部と東欧の広い地域で特に顕著であった。砂塵が雹嵐に影響を及ぼす仕組みを知ることは、科学者が異常気象の発生確率をより正確に予測するのに有用かもしれないと、Brennanらは言う。
Atmos. Chem. Phys. 25, 10823–10836 (2025).
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2026.260102
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