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全能性幹細胞の誘導と維持が可能になるかもしれない

発生中の胚において、細胞が有する一過性の全能性(新しい個体を生み出すのに必要な全細胞種を形成する能力)を研究するのは難しい。全能性細胞を培養して増殖させる方法が発見できれば、初期発生の研究に新たな道が開かれる。さらに培養全能性細胞は、研究や農業バイオテクノロジーのための遺伝子改変動物、あるいは絶滅危惧種の保護にとって強力なツールになる可能性があり、ヒトの生殖補助医療技術の向上に役立つ可能性もある。このほど清華大学(中国北京)の胡妍妍(Yanyan Hu)、楊媛媛(Yuanyuan Yang)および譚彭丞(Pengcheng Tan)ら1は、実験室での培養で自己複製可能な全能性幹細胞を作製するという目標に大きく近づく成果を、Nature 2023年5月25日号792ページで報告している。この論文に先立ち、中山大学(中国広東省広州市)の楊明珠(Mingzhu Yang)、余漢文(Hanwen Yu)、および喩秀(Xiu Yu)ら(Cell Stem Cell 2022年3月3日号400ページ)2や、中国科学院広州生物医学健康研究院(中国広東省)のMd. Abdul Mazid、Carl Wardと駱志偉(Zhiwei Luo)、およびBGI社(中国広東省深圳〔しんせん〕市)の劉伝宇ら(Chuanyu Liu)ら(Nature 2022年5月12日号315ページ)3も、清華大学の研究チームと同様の全能性細胞に類似した細胞の作製について発表している。

図1 全能性
哺乳類の卵が受精すると、単一細胞である接合子は、全能性、つまり繁殖能力のある成体個体を生み出す能力を獲得する。全能性は、哺乳類では種によって2〜8細胞期まで持続するが、胚盤胞と呼ばれる構造が形成されると失われる。こうした胚の細胞は迅速に特殊化を開始して、栄養膜細胞(胎盤前駆細胞)、原始内胚葉細胞(卵黄のう前駆細胞)、胚盤葉上層細胞(生殖系列の細胞を含む、全ての体組織を生み出す多能性細胞)を形成する。今回、3つの研究チーム1–3が、in vitroでマウスやヒトの全能性細胞株を誘導する目的で細胞培養技術を開発した。

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翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230842

原文

A step closer to making the mother of stem cells
  • Nature (2023-05-25) | DOI: 10.1038/d41586-022-01932-4
  • Martin F. Pera
  • ジャクソン研究所(米国メイン州バーハーバー)に所属

参考文献

  1. Hu, Y. et al. Nature 617, 792–797 (2023).
  2. Yang, M. et al. Cell Stem Cell 29, 400–418 (2022).
  3. Mazid, M. A. et al. Nature 605, 315–324 (2022).
  4. Baker, C. L. & Pera, M. F. Cell Stem Cell 22, 25–34 (2018).
  5. Posfai, E. et al. Nature Cell Biol. 23, 49–60 (2021).
  6. Mitchell, L. E. HGG Adv. 3, 100067 (2022).