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RNAの可逆的なリン酸化修飾を発見

鈴木 勉

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220928

遺伝子を基にタンパク質を合成する過程において、アミノ酸を運ぶ転移RNA(tRNA)。その機能を調節する「RNAの可逆的なリン酸化」という新たな種類の修飾が、鈴木 勉・東京大学教授が率いる研究グループにより発見された。tRNAがリン酸化修飾されると、タンパク質合成の耐熱性が大きく向上することから、RNAのリン酸化修飾は、RNA医薬などへの応用も期待される。

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Meletios Verras/iStock/Getty

―― 長年研究してこられたRNA修飾とは、どういうものですか?

鈴木氏: RNA修飾とタンパク質合成の研究を大学院生の頃から行ってきました。30年以上になります。

生物では、遺伝子からタンパク質が合成される過程で、いろいろな種類のRNA分子が働いています。RNA分子自体も、遺伝子から転写されて生じるのですが、いったん転写された後、多種多様な官能基が酵素により付加されます。これをRNA修飾と呼びます。

付加されるのは、メチル基、アセチル基、アミノ酸や糖など、化学的バリエーションに富んでいて、約150種類がさまざまな生物種から見つかっています。同じく核酸であるDNAにも修飾がありますが、付加されるのは、わずか数種類程度。RNA修飾がはるかに多様なのは、生物の進化過程でRNAが新たな機能を担うために獲得したと捉えることができると思います。

―― RNA修飾はどのような働きをしているのですか?

鈴木氏: 私が研究を始めた当初は、RNA修飾が見つかっても、それがどのような役目を果たしているか、明らかにするのは容易ではありませんでした。しかし2000年代にさまざまな生物のゲノム配列が解読されてからは、遺伝学的技術を用いて、RNA修飾のメカニズムの解明が飛躍的に進展し、次のような事柄が明らかになっています。

物理化学的側面では、RNA修飾は、塩基やリボースの立体的な位置関係を変化させ、局所的な疎水性や親水性の場を提供します。また、RNAの高次構造の形成や安定化にも貢献しています。生化学的側面では、RNA結合タンパク質との相互作用、RNAの成熟や分解の制御、遺伝暗号の解読、遺伝情報の変更、翻訳調節などに関与します。また、RNAの細胞内局在を決定する目印としても働きます。さらに、RNA修飾の欠損は、ヒトで重篤な疾患を引き起こすことから、RNA修飾は生理学的にも重要であることが分かっています1

―― RNA修飾はどの種類のRNAにも見られるのですか?

鈴木氏: はい。RNAにはmRNA、tRNA、rRNAをはじめいろいろな種類がありますが、どの種類のRNAにも修飾が発見されています。

具体例を挙げると、私たちが以前発見したtRNAのタウリン修飾があります2。ヒトのミトコンドリアに含まれるtRNAには、タウリンというアミノ酸の一種が付加しているのですが、MELASというミトコンドリア病の患者の場合、このタウリン修飾が欠損していることが分かりました。tRNAは、遺伝子発現過程において遺伝子配列の設計図通りにアミノ酸を運ぶ役割を担っているのですが、タウリン修飾を欠くtRNAではそれが機能せず、ミトコンドリアのタンパク質合成が低下し、その結果としてMELASが引き起こされるのでした。

リン酸化修飾を見つける

―― 今回は、新しいtRNA修飾を発見されたのですね3

鈴木氏: 「tRNAの47番目の位置に変な修飾があります」と、今回の論文の筆頭著者の1人、助教の大平高之さんが見つけたのが始まりでした。高熱環境で生育するアーキア(古細菌)のtRNAを調べていたときです。今から10年ほど前のことです。

「tRNAの47番目の位置に変な修飾があります」と、今回の論文の筆頭著者の1人、助教の大平高之さんが見つけたのが始まりでした

tRNAは70〜90塩基長の一本鎖の分子が折り畳まれて立体構造を形成していますが、一本鎖の47番目のウリジンが2'リン酸化されていることに、大平さんは気が付いたのです。私たちのラボは高感度な質量分析計を備えていますから、精密質量を測定すれば、どんな修飾がなされているか、元素組成から判明するのです。

―― RNAのリン酸化修飾は新しい発見だったのですね。

鈴木氏: RNA分子の(末端部ではなく)内部のリン酸化修飾は、これまで見つかっていませんでした。タンパク質のリン酸化修飾は、タンパク質による情報伝達において重要な調節機構であることがよく知られています。では、RNAのリン酸化修飾はどんな働きをするのだろうか。期待を胸に、私たちは、それをまず調べてみることにしました。

特殊な脱リン酸化酵素を使ってリン酸化修飾を取り除いたtRNAを調製し、リン酸化修飾の有無で性質がどう変化するかを調べてみました。すると、tRNAの耐熱性がリン酸化によって大きく向上していることが分かりました。リン酸基が1個付くと、tRNAの融点が6度以上も上昇したのです。

RNA分解酵素に対する耐性についても調べました。RNAは細胞内で常に分解酵素の脅威にさらされているからです。すると、リン酸化によって分解が遅くなる、つまり分解酵素に対して耐性を持つことが分かりました。

これら2つの実験結果は、このリン酸化修飾がさらに詳しく解析するに値するものであることを、私たちに示していました。

―― 詳しい解析はどのように行ったのですか?

鈴木氏: リン酸化修飾が生じると、どうして熱や分解酵素に耐性ができるのか。構造生物学の観点から調べ、そのメカニズムを解明しようと考えました。そこで、構造生物学の専門家である富田耕造教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)に共同研究をお願いし、tRNA分子を結晶化して、X線結晶構造解析を行いました。その結果、tRNAが熱崩壊する過程の「準安定な構造」を見いだしました。

つまり、温度が上がるとtRNAの立体構造が崩壊して変性が起こるのですが、リン酸化修飾を持つtRNAの場合、親水性のリン酸基がtRNAの中心から外側(溶媒側)に突出しており、RNA主鎖の回転を食い止めていることが分かったのです。熱により立体構造が崩壊しかけても、このリン酸基のおかげで崩壊に歯止めがかかるのです。

―― リン酸化修飾を触媒する酵素の研究も行ったのですね。

鈴木氏: RNA修飾の性質を調べていく上では、修飾される分子の他に、修飾を導入する酵素とそれを取り除く酵素を見つけることが重要になってきます。

私たちは、修飾を導入するリン酸化酵素(ArkI)と、それを取り除く脱リン酸化酵素(KptA)をそれぞれ突き止めることができました。ArkIについては、その立体構造も明らかにして、タンパク質キナーゼに類似していることを示したり、RNAのリン酸化に関する分子機構について理解を深めることができました。また、酵素の反応速度論的な解析から、tRNAのリン酸化修飾は細胞のエネルギー状態(ATP濃度)に応じて可逆的に調整されると推測できました。つまり、環境の変化に応じて、エネルギー状態が良いときには、tRNAを安定化させてタンパク合成を活発化させるのではないかと考えています。

図1 tRNAのリン酸化修飾という、新たな種類のtRNA修飾を発見
a 研究に用いたアーキアのtRNAの二次構造をヌクレオチドの並びで示した図。質量分析により、47番目のウリジン(U)部位に未知の質量(324Da)を検出した(N324)。さらなる解析で、これがウリジンのリン酸化修飾であることを解明。
b X線結晶構造で得られた立体構造で、赤がリン酸化ウリジン。 | 拡大する

Ref.1

―― Nature のNews & views4では、今回の研究を「完璧な解析」、 RNAの結晶構造解析を「驚くべき偉業」とたたえていました。

鈴木氏: 今回は、tRNAの新しい修飾を見つけたのが私たちで、未発表でしたので、競合相手はいないと考えて腰を落ち着けて解析することにしました。機能や生理学的な意義なども明らかにして、しっかりとした論文にまとめてから発表することにしたのです。

結晶構造解析は確かに大変な作業ですが、今回は富田教授に全面的な協力をいただき、私のラボの大学院生が何名も、富田教授とスタッフの方に直接ご指導いただきました。富田教授とはもともと私と研究室が一緒で、いわば同じ釜の飯を食った間柄。研究の興味や価値観を共有しています。

研究の過程では、苦労したことがたくさんありました。そもそも好熱性アーキアからtRNAを単離するには、かなりの工夫が必要でした。また、アーキアの遺伝学的解析も大変な実験でした。それに関しては、共同研究者である福居俊昭教授(東京工業大学生命理工学院)と研究室の方々に協力していただきました。

―― Nature への投稿から受理まで、スムーズでしたか?

鈴木氏: はい、非常に短期間のやりとりでアクセプト(受理)されました。レビューワーのコメントは公開されていて、この論文を読んでくれた彼らの興奮が伝わってきます。

奇遇だったのは、明け方にアクセプトのメールが届いたのですが、ちょうどその日が、もう1人の筆頭著者である蓑輪恵一さんの博士論文の本審査当日だったのです。そのことをNature のエディターに伝えると、とても喜んでくれて、審査会の発表資料に「Nature in press(印刷中)」というスライドを1枚追加したらとアドバイスしてくれました(笑)。

エピトランスクリプトミクスの潮流

―― RNA修飾の研究は最近活発化しているようですね。

鈴木氏: 近年、mRNAのメチル化の研究から、エピトランスクリプトミクスという概念が誕生し、RNA修飾に関心を寄せる研究者が急増しました。2016年にNature Review Genetics でエピトランスクリプトミクス特集号が出版された際、著者の1人として私も執筆しましたが5、その少し前から、こうした関心の高まりを実感していました。

エピトランスクリプトミクスというのは、RNAの修飾がダイナミックに制御されることにより、遺伝子発現が調節されるという考え方です。DNAの修飾による遺伝子発現の調節をエピジェネティクスと呼びますが、それに対比させた考え方でもあります。生物の発生や分化、あるいは高度な精神機能などが達成されるためには、これらの調節機構によって環境要因などに対応し、遺伝子発現を微細に調整することが必要なのではないかと考えられています。

こうした潮流により、mRNA修飾がまず大きな注目を浴び、やがて、tRNAやrRNAの修飾にも注目が集まってきました。今回の私たちの研究も、そうした観点からの関心も高いと思っています。私たちは、mRNA、tRNA、rRNAの修飾を長年研究してきましたが、今回のブームの大きさに驚いています。

―― ところで質量分析を行うRNAの専門家は多いのですか。

鈴木氏: いえ、多くはありません。世界を見わたしても、質量分析の専門家はタンパク質やメタボローム(代謝物質)を測定する人がほとんどです。RNAを専門に測定する人は非常に少ないです。

測定では試料の前処理などが重要なのですが、私たちは長年RNA試料に特化した工夫を重ね、質量分析により、新しい修飾を発見したり、また、修飾が分子のどこに存在するかを特定したりできるようになりました。質量分析は、私たちの研究における大きな武器になっています。

私たちの研究スタイルは、仮説ベースではなく、発見ベースです。質量分析によって新しいRNA修飾を発見し、そこから研究をスタートさせます。発見したもの次第で、まさに出たとこ勝負。毎回新たな研究の旅に出る感覚です。とても楽しく研究を進めています。

―― RNA修飾の医学応用にも期待を寄せられている?

鈴木氏: mRNAワクチンの開発で著名なカタリン・カリコ(Katalin Karikó)氏は、mRNAを修飾することにより、ワクチンが人体の自然免疫から回避されるのを防ぎました。またもっと広い概念から言うと、mRNAよりもずっと小さい分子であるtRNAの方が人体に入れやすいだろうと、tRNAを使った医薬品を開発しようとしているグループもあります。このようにRNAを人為的に操作する場合にも、RNA修飾は重要になるでしょう。RNA医薬は今とても注目を浴びているのです。

私たちは、今回の発見をMELASに代表されるミトコンドリア病の治療に生かせないだろうか、と考えています。MELASは、tRNAの変異が原因でタウリン修飾が欠損することで発症します。私たちは、患者細胞にタウリン修飾酵素を過剰発現させて、人為的にtRNAにタウリン修飾を導入することに成功しています。実際、部分的にミトコンドリアの機能が賦活化することが確認できています。しかし、MELASの変異tRNAは、そのものが不安定で分解されやすくなっているため、タウリン修飾を導入できても、tRNA自体を安定化させるには至りません。そこで、私たちが発見したリン酸化酵素を利用すれば、この変異tRNAを安定化できるかもしれないと考えています。tRNAは、アーキアでもヒトでも、基本的には同じ構造をしていますから、このようなアプローチに可能性があると思っています。また、これ以外でも、RNA修飾には大きな可能性があると考えているので、私たちの研究を病気の治療に役立たせる方法を開拓していきたいと思っています。

―― ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

Author Profile

鈴木 勉(すずき・つとむ)

東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 教授
1996年東京工業大学大学院生命理工学研究科修了。博士(理学)。三菱化学(株)を経て、1997年より東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻助手、1999年講師、2004年助教授を経て、2008年より現職。2012年日本学術振興会賞受賞。2018年木原記念財団学術賞受賞。2020年より、JST ERATO鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト研究総括に就任。

鈴木 勉

参考文献

  1. Suzuki, T. Nature Rev. Mol. Cell. Biol. 22, 375-392 (2021).
  2. Suzuki, T., Suzuki, T., et al. EMBO J. 21, 6581-6589 (2002).
  3. Ohira, T., Minowa, K., et al. Nature 605, 372-379 (2022).
  4. Mark Helm & Yuri Motorin Nature 605, 234–235 (2022).
  5. Frye, M., et al. Nature Rev. Genet. 17, 365-372 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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