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最強磁場中で磁気単極子を探す

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220537

原文:Nature (2022-02-03) | doi: 10.1038/d41586-022-00188-2 | Search for single magnetic charges in the largest of fields

Sonia Kabana

今回、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での鉛イオン同士の衝突によって、これまで宇宙で測定された中で最も強い磁場が生成され、単一の磁荷のみを持つエキゾチック粒子「磁気単極子」の探索が可能になった。

スイス・ジュネーブ近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)。今回の磁気単極子の探索は、LHCb実験施設で行われた。 | 拡大する

2014-2022 CERN

磁石には必ずN極とS極が存在し、いくら細かく砕いても、それぞれの破片はN極とS極を持つ微小な磁石となる。しかし、原子より小さな世界では、単一の磁荷のみを持ち、N極またはS極としてのみ存在する「磁気単極子」と呼ばれるエキゾチック粒子が存在し得るとされている。このたび、ロンドン大学キングスカレッジ(英国)のBobby Acharyaら1は、非常に強い磁場を用いてこうした特殊な粒子の探索を行い、今後の研究に役立つ貴重な限界値を得たことを、Nature 2022年2月3日号63ページで報告した。

磁気単極子が存在することの意義は、実に広範囲に及ぶ。例えば、宇宙のさまざまな力を統一的に説明しようとする一連の「力の統一理論」では磁気単極子の存在が予測されており、そうした予測が動機となって、初期宇宙が指数関数的に膨張したとする「インフレーション模型」が構築された。この模型は現在、初期宇宙の謎を説明する最も有力な宇宙論模型となっている。磁気単極子の存在を示す証拠の探索はこれまで、宇宙の観測や、加速器を用いた高エネルギー粒子の衝突による生成・検出の試みなど、数多くの研究で進められてきた。

力の統一理論の可能性を最初に示唆したのは、英国スコットランドの数学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell)だった。彼は、一連の美しい方程式で、電気と磁気の力を結び付けたのである。マクスウェルの方程式は、宇宙における単一電荷の存在は認めているが、単一磁荷の存在は禁じている。従って、磁気単極子が発見されれば、マクスウェルの方程式に対称性を与える新理論の構築につながるだろう。

磁気単極子の概念は、1894年にフランスの物理学者ピエール・キュリー(Pierre Curie)によって初めて言及され2、その後、1931年に英国の物理学者ポール・ディラック(Paul Dirac)によって、単一の磁荷を持ち得る点状粒子(内部構造を持たない粒子)が存在する可能性を示す理論が考案された3。注目すべきことに、この仮説はまた、電荷の量子化(電荷が特定の離散値のみをとる)という現象が、磁気単極子の存在で説明できることも示していた。

だが、磁気単極子は点状である必要はない。実際、素粒子物理学の標準模型(素粒子世界を記述する広く受け入れられている模型)を超えるものとして提案されている理論の多くでは、磁気単極子は点状として扱われていない。それらの理論では、磁気単極子はさまざまな質量を持ち、粒子加速器で生成されるような質量の小さな磁気単極子でも、内部構造が存在すると予測されている。

粒子加速器を用いた磁気単極子の探索はこれまで、電子やクォークといった素粒子同士の衝突で生成した粒子中に磁気単極子を探す、というものが大半だった。しかし、ディラックの理論で予測されているように、磁気単極子は互いに、そして他の粒子と強く結合するため、予想される単極子の生成数の計算は困難になる。そのため、素粒子の衝突を用いた磁気単極子の探索では、実験によって生成される可能性のある単極子がおそらくは内部構造を持つとしても、その結果は点状の磁気単極子の観点から解釈される。

これに代わる手段として、1951年に米国の物理学者ジュリアン・シュウィンガー(Julian Schwinger)によって報告された現象を用いるものがある4。これは、強い電場中では電場の崩壊によって荷電粒子が生成し得るという現象で、「シュウィンガー機構」として知られる。電場と磁場は電磁双対性の原理を通して結び付いている(すなわち入れ替えが可能)という事実から、十分に強い磁場中では、シュウィンガー機構によって磁気単極子とその反粒子の対が生成される可能性が示唆される。この機構は、素粒子衝突が関わる機構よりも理論的な記述が容易で、より多くの磁気単極子を生成できると予想される5

この磁場の強さは、宇宙で最も強い磁場を持つ中性子星であるマグネターの表面磁場の1万倍以上に相当する。

Acharyaらは今回、欧州原子核研究機構(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)において、鉛イオン同士の衝突(Pb–Pb衝突)により誘起された巨大磁場中で、このシュウィンガー機構を通して生成される磁気単極子を探索した。こうしたPb–Pb衝突によって発生する磁場の強さは最大で1016テスラに達し6、これは、これまで地球上で測定された磁場の中で最も強く、宇宙で最も強い磁場を持つ中性子星であるマグネターの表面磁場の1万倍以上に相当する。

今回の探索は、標準模型を超える新たな物理の存在を示すエキゾチック粒子の発見を目的とした「MoEDAL(Monopole and Exotics Detector at the LHC)実験」の一環として行われた。この実験は、LHCb実験施設に設置した、磁気単極子捕捉器(MMT)と核飛跡検出器(NTD)という2つの検出器を用いて実施されており、Acharyaらは今回、このうち前者を用いて磁気単極子の検出を試みた(図1)。MMTはアルミニウム(Al)の安定同位体27Al(天然の存在度は100%)でできており、27Alの核は、磁荷を持つ粒子を捕捉することができる。Acharyaらは、Pb–Pb衝突で発生した巨大磁場にMMTをさらした後、磁荷を直接検知できる超伝導量子干渉素子(SQUID)磁力計でこの検出器を走査し、捕捉粒子を探した。

図1 磁気単極子の存在を証明するための実験
Acharyaら1は今回、欧州原子核研究機構(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のLHCb実験施設において、加速した鉛イオン同士の衝突(Pb–Pb衝突)により発生した強磁場中で、単一の磁荷のみを持つ粒子「磁気単極子」を探索した。こうした強い磁場中では、シュウィンガー機構を通して磁気単極子とその反粒子が生成すると予想される。今回の探索は、「MoEDAL(Monopole and Exotics Detector at the LHC)実験」の磁気単極子捕捉器(MMT)と呼ばれる検出器を用いて行われた(実際には、3つのMMTがLHCbの相互作用領域を三方から取り囲むように設置されている)。MMTはアルミニウム(Al)の安定同位体27Alでできており、27Alの核は磁荷を持つ粒子を捕捉できると予想されている。実験の結果、磁気単極子の存在を示す統計的に有意な信号は検出されなかったが、これによって、強磁場によって生成すると予想される磁気単極子の数の範囲が狭められ、この粒子の質量の下限値が得られた。破線は、Pb–Pb衝突が起こる軸方向を表している。 | 拡大する

この検出方法は、これまでの探索で用いられたものの中で最も明白な方法の1つである。そしてAcharyaらはこれを、内部構造を持ち得る磁気単極子を高い生成率で得るのに最も有望な手段である、シュウィンガー機構を通した磁気単極子の生成という理論的にうまく記述可能なプロセスと組み合わせた。つまり、彼らの手法で得られる結果は、素粒子の衝突によるこれまでの方法のものよりも、はるかに信頼性が高いと言える。

Acharyaらの今回の試みでは、MMTに磁荷を持つ粒子が捕捉されたことを示す統計的に有意な信号は検出されなかった。従って、衝突条件などに基づく計算から、1~3のディラック磁荷と最大75GeV/c2(GeVはギガ電子ボルト、cは真空中の光の速度)までの質量を持つシュウィンガー単極子の存在が、95%の信頼水準で除外された。

磁気単極子の存在を示す信号が見つからなかったことで、強磁場によって生成すると予想される磁気単極子の数の範囲が実質的に狭められたことは重要である。こうした限界値は、標準模型の検証・改良に用いる方法の基盤になるとともに、新たな実験を計画したり、観測結果やそれらが得られなかったことを説明するのに必要な理論的概念を発展させたりする際の、貴重な検討材料になるからだ。

今回のAcharyaらの結果は、磁気単極子の研究に新たな道を開くものであり、素粒子物理学の観点からは大成功と言えよう。また、今回得られた限界値によって、今後磁気単極子を探すべきパラメーター空間がより狭く、明確になった。将来の磁気単極子探索は、それが素粒子の衝突によるものであれ、それ以外の実験によるものであれ、今回Acharyaらによって規定された限界から恩恵を受けることは間違いなく、この興味深くも捉えどころのない粒子の検出につながることだろう。

(翻訳:藤野正美)

Sonia Kabanaはタラパカ大学(チリ)に所属。

参考文献

  1. Acharya, B. et al. Nature 602, 63–67 (2022).
  2. Curie, P. Seanc. Soc. Fr. Phys. 76, 1 (1894).
  3. Dirac, P. A. M. Proc. R. Soc. A 133, 60–72 (1931).
  4. Schwinger, J. Phys. Rev. 82, 664–679 (1951).
  5. Mavromatos, N. E. & Mitsou, V. A. Int. J. Mod. Phys. A 35, 2030012 (2020).
  6. Huang, X.-G. Rep. Prog. Phys. 79, 076302 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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