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ゲノムのある1塩基の変化が、小型犬・大型犬の違いに関与

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220507

原文:Nature (2022-01-27) | doi: 10.1038/d41586-022-00209-0 | Big dog, little dog: mutation explains range of canine sizes

Ewen Callaway

イエイヌの体の大きさの多様性を説明する変異が見つかった。その遺伝的バリアントは、古代のオオカミに由来するものと考えられる。

チワワもグレートデーンも、体の大きさが随分違うのに、「イエイヌ(Canis lupus familiaris)」という同一の種に属している。 | 拡大する

Brand X Pictures/DigitalVision/Getty

チワワとグレートデーンは、あんなに体の大きさが違うのに、イエイヌ(Canis lupus familiaris)という同一の種に属している。イエイヌは、地球上の他のどんな哺乳類種よりも体の大きさが多様なのだ。このほど、この多様性の背後にある遺伝学的な変化の起源が、意外なところに見いだされた。古代のオオカミだ1

その変異は、IGF1と呼ばれる遺伝子の近くに存在する。IGF1は、イエイヌの体の大きさの多様性に関与するものとして15年前から注目されていた。その類いの遺伝子は20個以上発見されており、IGF1はその先駆けだったのだが、原因となる遺伝子バリアントを特定する研究は、成果が上がっていなかった。

IGF1は苦労の種でした」。NIH国立ヒトゲノム研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の遺伝学者Elaine Ostranderはこう語る。IGF1がイヌの体の大きさに関して果たす役割を初めて明らかにした2007年の研究は、彼女が率いたものである(N. B. Sutter et al. Science 316, 112–115; 2007)2。Ostranderは今回、その探究を完結させ、論文はCurrent Biologyに2022年1月27日付で掲載された。(J. Plassais et al. Curr. Biol. https://doi.org/hfdp; 2022)。

過去3万年の間にオオカミから家畜化された古代のイヌは、体の大きさにある程度の多様性があった。しかし現在では、最大級の犬種の体の大きさは、最小級の犬種の40倍にも達する。体の大きさが極端に多様になったのは過去200年のことで、それは人類が現在の犬種を確立させたことによるものだった。

この研究を率いたOstranderと、INSERM-レンヌ大学(フランス)の遺伝学者Jocelyn Plassaisをはじめとする共同研究者らは、1400頭以上のイヌ科動物(古代イヌ、オオカミ、コヨーテ、および現代の230犬種を含む)のゲノムを解析した。

IGF1遺伝子周辺領域の変動をイヌや野生イヌ科動物の体の大きさと比較すると、1つのバリアント(ゲノムのDNA配列に見られる個体差で、多様体とも呼ばれる)が目に付いた。それは、強力な成長ホルモンであるIGF1タンパク質のレベルの制御に関与する分子(長鎖ノンコーディングRNAと呼ばれるタイプのもの)をコードするDNA領域に位置している。

そのバリアントには2つのバージョン、すなわちアレル(対立遺伝子)が見いだされた。全ての犬種にわたって、その領域のある1カ所が「C(シトシン)」であるアレルを2コピー持つイヌは体重が15kgに満たない傾向があった一方、そこが「T(チミン)」であるアレルを2コピー持つイヌは体重が25kgを超えるものが多かった。また、各アレルを1コピーずつ持つイヌは中型であることが多かったと、Ostranderは話す。体が大きくなるアレルを2コピー持つイヌは、「小型」のアレルを2コピー持つものと比較して、血中のIGF1タンパク質のレベルも高かった。

他のイヌ科動物のゲノムを調べると、同様の関係が認められた。「それはイヌだけの話ではありませんでした。オオカミでも、キツネでも、コヨーテでもそうでした。この関係は、イヌ科全体に広がっていたのです」とOstranderは語る。

小さな祖先

研究チームは、小さな体に関連するアレルは進化的に、大きな体のバージョンよりもはるかに古いものだと考えている。コヨーテやジャッカル、キツネ、そして分析した他のイヌ科動物の大多数は「小型」のアレルを2コピー持っていたことから、そうした動物の共通祖先にはこのアレルが存在していたことが示唆された。

体が大きくなるアレルが進化した時期ははっきりしないが、研究チームは、約5万3000年前にシベリアに生息していた古代オオカミがこのアレルを1コピー持っていたことを明らかにした。別の古代オオカミや現代のハイイロオオカミはそれを2コピー持つ傾向が見られたことから、オオカミには体が大きくなるアレルが有益であり続けた可能性が示唆された。

科学界では、小型の体はイエイヌに特有の性質かもしれず、それ故、比較的新しい遺伝的変化に関連するのだろう、という見方が主流だったと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の進化生物学者Robert Wayneは話す。「今回の研究で、その筋書きが丸ごとひっくり返されました。それが今回の件のすごいところなのです」。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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