Research Highlights

リサーチハイライト

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220302

大洪水と待望の湖水をもたらした 「空の川」、瞬発力で空に舞い上がった巨大翼竜、信号をやりとりするブロックでできた「生きた壁」、デジタル批評家が絵画と作者をマッチング、他(2021年12月2日〜12月23/30日号)

大洪水と待望の湖水をもたらした 「空の川」

はるか彼方から運ばれてきた水蒸気がイランのウルミア湖に水を補給した。 | 拡大する

L TO R: PABLO PORCIUNCULA BRUNE/AFP/GETTY;

2017年にイランを襲い、大きな被害をもたらした洪水は、数百、数千kmも離れた所から水を運んでくる「空の川」によって引き起こされた。

「大気の川(atmospheric river)」とは大気中を流れる水蒸気の帯のことで、海の水分を大陸に送り込んでいる。この現象に関する研究のほとんどは北米と欧州で行われているが、ある研究で、2019年に中東各地で発生した記録的な大洪水に大気の川が関与していることが指摘されている。

これに触発されたNASAのゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)のAmin Dezfuliらは、衛星データを利用して、2017年に48人の犠牲者を出したイラン北西部の洪水について調べた。この年の降水量は比較的少なかったが、水蒸気の測定値から、長さ5500kmに及ぶ大気の川が地中海と紅海の水分をイランに運んでいたことが明らかになった。

大気の川が運んだのは災害だけではない。重要な湿地帯を支えるウルミア湖はダムや地下水の汲み上げによって水量が激減していたが、大気の川によって待望の水がもたらされた。

Geophys. Res. Lett. https://doi.org/g8vf (2021).


異例なほど 平穏な過去を持つ惑星系

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NASA/JPL-Caltech

多くの惑星が彗星や小惑星に衝突されてきた。若き日の地球も例外ではない。しかし、ある特徴的な惑星系に属する7個の地球サイズの惑星は、比較的静穏に暮らしてきたことが、研究によって明らかになった。

恒星TRAPPIST-1と7個の惑星からなる惑星系は、地球サイズの惑星の集まりとしては最も大きい。

ボルドー大学(フランス・ペサック)のSean Raymondらは、TRAPPIST-1の7個の惑星(画像はそのうちの4個の想像図)の形成中および形成後に多数の小型天体が衝突するとどうなるかをシミュレーションした。その結果、これらの惑星は、地球の月よりも大きい天体に衝突されたことがあるとは考えられないと分かった。7個の惑星間の軌道関係は極めて脆弱であるため、これだけの大きさの天体が衝突していたら崩れていたことだろう。

地球や他の惑星に存在する水は、宇宙から飛来した天体の衝突によって供給されたと考えられている。しかし、TRAPPIST-1の7個の惑星がたどってきた比較的平穏な歴史は、そこにある水が、惑星ができた時から(おそらく惑星の溶融した内部に)存在していたものであり、惑星の形成後に彗星などの天体の衝突によってもたらされものではないことを示唆している。この研究は、惑星が水や生命に必要な他の成分を獲得する方法はいくつもあることを示している。

Nature Astron. https://doi.org/g767 (2021).


瞬発力で空に舞い上がった巨大翼竜

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JAMES KUETHER

翼竜ケツァルコアトルス・ノルトロピ(Quetzalcoatlus northropi)が、7000万年前に今日のテキサスに当たる地域の空を飛翔していたときには、地上に恐ろしい影を落としたに違いない。ノルトロピは、翼長11~12mと小型飛行機並みの翼を持っていて、既知の飛行生物の中で最も大きいが、比較的少数の骨しか発見されておらず、これに関する論文はほとんど出版されていない。

このたび、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のKevin Padianらは、数百点の骨が発見されている近縁の小型種ケツァルコアトルス・ラウソニ(Quetzalcoatlus lawsone)を分析することにより、ノルトロピに関する詳細を明らかにした。研究チームは、ノルトロピが、まるで巨大なサギのように、歯のない細い先細りの長い顎を箸のように使って湿地や草地で獲物を取っていた可能性を示唆している。

研究チームの分析によれば、この動物の前肢は歩行時に推力を生み出すことはできず、不格好なスキーのストックのように使われていた可能性があるという。この翼を持つ爬虫類が空中に飛び上がる際には、おそらく身を屈めてからジャンプすることで、大きく羽ばたく翼端が地面に触れないようにしていたと考えられる。

J. Vertebr. Paleontol. 41, 218–251 (2021).


信号をやりとりするブロックでできた「生きた壁」

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R. M. McBee et al./Nature Mater.

細菌と菌類からなる「生きた」ブロックは、頑丈な構造物の構成要素として機能しながら、自己修復したり、シグナルをやりとりしたりすることができる。

生きた微生物を植え付けた材料は、周囲の変化を感知することができる大規模構造物の材料として有望視されている。しかし、このような機能を持つ「バイオコンポジット」材料はほとんどない。

そこでエコベイティブ・デザイン社(Ecovative Design;米国ニューヨーク州グリーンアイランド)のDamen Schaakと、コロンビア大学(米国ニューヨーク)のHarris Wangらは、マンネンタケ(Ganoderma)属の菌類に、麻を加工する際に出る木質廃棄物を餌として与えた。菌類は、数週間のうちに麻の廃棄物の中に広がり、ブロック状の型の中でこれらを結び合わせて頑丈なネットワークを作り上げた。この材料は自ら亀裂を修復できるだけでなく、隣接するブロックと融合してヒューマンスケールの構造物を形成することもできる。

研究者らは、この菌類のネットワークの中でパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)という細菌が豊富に増殖していて、構造物の生合成に関わっていることを発見した。この細菌にセンシング–シグナリング機能を追加することを思い付いた研究チームは、この細菌を改変して、シグナル伝達分子を産生する菌株と、シグナルに曝露すると蛍光タンパク質を産生する菌株を作出した。一方の菌株を植え付けたブロックを他方の菌株を植え付けたブロックの隣に置くと、応答側のブロックは、シグナルを検出したときに顕微鏡下で発光した。

Nature Mater. https://doi.org/g8vg (2021).


毒性金属を利用してライバルに対抗する微生物

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BSIP/Contributor/Universal Images Group/Getty

土壌中や水中に生息する細菌の一種が、銅を強力な抗生物質に変えることでライバルを撃退していることが分かった。

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)という微生物(写真)は、抗生物質耐性を持ち、多剤耐性感染症を引き起こすことで悪名高い。抗生物質耐性を持つ微生物の中でも、緑膿菌はひときわ異彩を放っている。高濃度の銅はほとんどの微生物に害を及ぼすが、緑膿菌はそれに耐えられるだけでなく、銅を含む抗生物質フルオプシンCを合成するのだ。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)のBo Liらは、その仕組みを解明するため、銅を含む溶液中で緑膿菌が増殖する様子を観察した。その結果、緑膿菌は大量のフルオプシンCを産生するが、これにより増殖が抑制されることはないのに対して、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など他の多剤耐性菌の増殖は抑制されることが明らかになった。

研究チームは、緑膿菌がフルオプシンCを合成するのに用いる5つの酵素を特定し、関係する生化学反応をつなぎ合わせていった。研究チームは、これらの酵素をコードする遺伝子が、既知の緑膿菌4955株のほとんど全てのゲノムに含まれていることを明らかにした。このことは、緑膿菌が銅を武器にすることで、競合する微生物を撃退するように進化してきたことを示唆している。

Science 374, 1005–1009 (2021).


押しつぶされても元に戻るスーパーゼリー

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Z. HUANG ET AL./NATURE MATER

アイスホッケーのパックのような形をしたこのガム状の物質は、4000kgの重りでつぶされても、2分以内に元の形に戻ることができる。

普通のゼリーはスプーンの背で強く押すと崩れてしまう。ケンブリッジ大学(英国)のOren Schermanらは、押すとつぶれるが力を取り除けば元に戻る、弾力のある柔らかいゲルを作ろうと考えた。

ほとんどのゲルでは、長いポリマー分子が互いにじかに結合して三次元ネットワークを形成している。そこでSchermanらは、ポリマー鎖を間接的に結合させることにした。彼らのゲル(写真)のポリマー鎖は2種類の「ゲスト」分子で修飾されている。ポリマーからぶら下がる2種類のゲスト分子は、ペアになって円筒状の分子の中に封入されることで、ポリマー鎖の編み目となる。

ゲルに圧力をかけると、円筒の中に封入されていたゲスト分子がゆっくりと外に押し出され、ゲルは液体のように広がっていく。完全につぶれると、ゴム状の物質は硬い飛散防止ガラスのような物質へと変化する。

このゲルで作った圧力センサーを人の足の裏に取り付けると、歩いたりジャンプしたりする動作を記録することができた。研究チームは、このゲルは義肢やロボットの皮膚に利用できるのではないかと考えている。

Nature Mater. https://doi.org/g688 (2021).


脂質を含む分子がサルをHIV様ウイルスから守る

HIV(黄色)に感染したヒトT細胞。 | 拡大する

NIAID

脂質を含むデザイナーズ分子は、サルがHIV様ウイルスに感染するのを防ぐことができ、エイズの治療やHIVの感染予防に利用できる可能性がある。

既存薬は、ヒトの体内のHIVの量を減らすが、ウイルスを完全になくすことはできないため、服用し続けなければならない。中国医学科学院(北京)のJing XueとYuxian Heらは、より効果的な薬を求めて、ウイルスが細胞膜に融合するのを阻害するペプチドを脂質の一種であるコレステロールで修飾したリポペプチドLP-98という分子を作り出した。

LP-98をアカゲザル(Macaca mulatta)に投与したところ、HIVと近縁のサル免疫不全ウイルスへの感染を防ぐことができた。この化合物は、HIVとSIVの要素を組み合わせたハイブリッドウイルスへの感染も防ぐことができた。さらに、このハイブリッドウイルスに感染したサルにLP-98を投与すると、体内のウイルス量は検出不可能なレベルまで低下し、数匹の動物では、化合物の投与を中止した後も検出不能のままであった。

Cell https://doi.org/g9gs (2021).


デジタル批評家が絵画と作者をマッチング

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F. JI ET AL./HERIT. SCI. (CC BY 4.0)

人工ニューラルネットワークは、画家の筆使いの3Dトポグラフィーを利用して絵画の作者を識別できることが、研究により明らかになった。この技術は、贋作を見破ったり、昔の巨匠の工房で分業制で制作された絵画の中で個々の職人が描いた部分を識別したりするのに役立つ可能性がある。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国オハイオ州クリーブランド)のKenneth Singerらは、あらかじめ100万枚以上の写真の画像データベースで学習させてあるニューラルネットワークを使用した。このニューラルネットをトポグラフィカルな詳細について訓練するため、研究チームは、美術を専攻する大学生4人が同じ花を同様の様式で描いた絵画を数枚用意した。そして、試料の表面粗さを測定できる顕微鏡を使って、花の絵の小さな範囲をスキャンした。

このシステムに、この4人が描いた他の絵画を検討させたところ、わずか1cm四方のスキャン画像に基づいて95%の精度で作者を当てることができた。このニューラルネットは、絵筆の毛1本の直径ほどの筆使いから作者を認識したとみられる。

Herit. Sci. 9, 152 (2021).

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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