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2022年注目の科学イベント

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220211

原文:Nature (2021-12-17) | doi: 10.1038/d41586-021-03772-0 | The science events to watch for in 2022

Davide Castelvecchi

月探査や素粒子物理学など進展が楽しみな分野がある一方で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株に引き続き目を光らせることになるだろう。

2022年に運転を再開する予定のCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のビームライン。 | 拡大する

Valentin Flauraud/AFP/Getty

COVIDは続く

SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは3年目に入ったが、終わりはまだ見えない。科学者と公衆衛生当局は、SARS-CoV-2の新たな変異株の出現や、感染から回復した人々の後遺症について監視を続けることになる。

当面の課題は、オミクロン株の影響とその脅威に関する理解を深めることである。この変異株は、2021年11月末に初めて特定されて以来、世界で急速に広まっている。初期の研究結果によれば、既存のワクチンはオミクロン株に対して効果が低いとみられる。科学者たちは現在、この株が引き起こす病態の重症度について解明を急いでいる。

この変異株への懸念の高まりを受け、豊かな国々は自国民に対してブースター接種を始めた。しかし、世界人口の半数近くはまだ一度もワクチンを接種していない。世界における接種率の格差解消は重大な課題であり、低所得国でのワクチン普及のために製薬会社が特許を放棄するかどうかも焦点の1つだ(2021年4月号「COVIDワクチンの公平な配分を成功させなければならない理由」参照)。ウイルスの起源を巡る議論もまだ続くだろう。世界保健機関(WHO)は26人の科学者からなるチームを発足させ、解明に向けて努力を続けている(2021年5月号「SARS-CoV-2の起源を巡る5つの謎」参照)。

ワクチンのアップグレード

急速に進化するSARS-CoV-2に対応するため、次世代ワクチンの開発が進められている。年内にも、特定の変異株を標的とするメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが開発されるかもしれない(2021年11月号「mRNAワクチン完成までの長く曲がりくねった道」参照)。一部の公衆衛生当局者は、他のタイプのワクチンにも期待している。タンパク質をベースとするワクチンは、肝炎や帯状疱疹などの疾患予防に何十年も前から使用されてきた。COVID-19に対するタンパク質ワクチンの第3相臨床試験では2021年に有望な結果が出ている(2022年1月号「タンパク質ワクチンがCOVID-19のパンデミックを収束させるか?」参照)。DNAベースのワクチンは、mRNAワクチンよりも製造コストが安く、冷蔵保存の必要もないため、低所得国でのワクチン普及に貢献すると期待される(2021年11月号「世界初のDNAワクチン、COVID-19に対してインドで承認」参照)。ワクチンの進歩は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスや、マラリアやライム病などの疾患でも期待されている。

ビッグフィジックスの当たり年

欧州原子核研究機構(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、数年にわたる運転停止と広範に及ぶメンテナンスを終え、6月に運転を再開する予定である。LHCの大規模実験ATLASとCMSは、検出器コンポーネントの層が追加され、拡張された。これにより、毎秒4000万回の陽子同士の衝突から生成するデータを、さらに多く収集できるようになる。

世界に4基(日本に1基、イタリアに1基、米国に2基)ある重力波検出器も、それぞれアップグレードを行った後、12月から新たな観測を開始する予定だ(2019年4月号「KAGRAが開く重力波天文学の新時代」参照)。

ミシガン州立大学(米国イーストランシング)では、2022年初頭に希少同位体ビーム施設が稼働する予定である。7億3000万ドル(約840億円)を投じて建設されたこの多段階式加速器は、既知の元素の新しい同位体を何千種類も生成することを目的としており、原子核構造や、中性子星や超新星爆発の物理過程を探ることになる。

月探査

NASAは、宇宙飛行士を再び月面に立たせるアルテミス計画が長年の懸案になっていたが、その打ち上げシステムの最初の試験として、月周回機「アルテミス1号」を打ち上げる予定である。また、同計画の一環であるCAPSTONE実験(Cislunar Autonomous Positioning System Technology Operations and Navigation Experiment)では、月周回機として「CAPSTONEキューブサット」も打ち上げる。NASAはこの小型人工衛星を使って、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の準備に向けた実験を行う。

インドの3番目の月探査ミッション「チャンドラヤーン3号」は、初の軟着陸(機体を損傷させない着陸)を目指し、独自の探査車も搭載する予定である。日本も小型月着陸実証機SLIMで初の軟着陸に挑戦し、ロシアは月着陸機ルナ25号でソ連時代の月探査計画の栄光を取り戻そうとしている。韓国も月探査機「コリア・パスファインダー」によって独自に月探査を開始する。

民間企業では、日本のアイスペース社(ispace;東京)が、アラブ首長国連邦の月面探査車「ラシード」を搭載した着陸機「Hakuto-R」を打ち上げる。米国ではアストロボティック・テクノロジー社(Astrobotic Technology;ペンシルベニア州ピッツバーグ)とインテュイティブ・マシーンズ社(Intuitive Machines;テキサス州ヒューストン)が、NASAの観測機器を月面に輸送する着陸機の準備を進めている。

ロシアの月着陸機ルナ25号は2022年に月への旅に出る予定だ。 | 拡大する

Sergei Bobylev/TASS/Getty

火星探査と宇宙ステーション

もう1つの注目すべき宇宙の旅は、ロシアと欧州宇宙機関(ESA)の共同ミッション「エクソマーズ(ExoMars)」である。打ち上げは9月に予定されており、ESAの探査車「ロザリンド・フランクリン」を火星に運んだ後、過去の生命の痕跡を探すことになる。打ち上げは当初、2020年に予定されていたが、着陸用パラシュートに問題が見つかるなどしたため延期されていた。

中国は、軌道上実験モジュール「天宮」を完成させようとしている。天文観測や地球観測から、微小重力や宇宙線が細菌の成長に及ぼす影響まで、1000以上の実験を予定している。

気候変動の緩和に向けた行動

11月には、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトのシャルムエルシェイクで開催される予定であり、世界各国のリーダーたちが再び集結する。各国には、産業革命前からの地球の気温の上昇幅を2℃より大幅に下回る水準に抑制するという2015年のパリ協定の目標に沿った公約を打ち出すことが期待されている。一方、研究者は、COP26での公約(石炭使用の削減、メタン排出の削減など)を受け、温室効果ガスの排出を監視していくことになる。炭素の排出量は、2020年にはパンデミックにより一時的に減少したが、2021年には元の水準に戻っている(2021年4月号「COVIDは2020年のCO2排出を抑制したが、長くは続かなかった」参照)。

生物多様性の保全に向けた取り組み

生物多様性の損失速度を減少させるため、各国は新しい目標を定めようとしている。生物多様性の保全については2010年に策定された「生物多様性愛知目標」があるが、2020年までの達成目標はほとんど達成できなかった。国連生物多様性条約の次回の締約国会議は、中国の昆明で2020年に開催予定であったが、2022年4月25日〜5月8日に延期された。しかし、オミクロン株への懸念から開催は不透明だ(2020年5月号「中国の生物多様性への影響と保全への取り組みに世界が注目」参照)。人間の活動に関連した生息地の消失などにより、100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しているといわれている(2019年8月号「100万の生物種が絶滅の危機に」参照)。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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