News in Focus

中国の生物多様性への影響と保全への取り組みに世界が注目

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200516

原文:Nature (2020-02-14) | doi: 10.1038/d41586-020-00362-4 | China takes centre stage in major biodiversity push

Smriti Mallapaty

生物多様性条約第15回締約国会議(CBD–COP15)では、議長国である中国による野心的な目標に向けた要求が見込まれるとともに、中国自体の保全の取り組みにも注目が集まるだろう。

2016年には、ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)の保全状況が絶滅危惧(endangered)から危急(vulnerable)に改善された。 | 拡大する

STEPHANE DE SAKUTIN/AFP/GETTY

世界の生物種と自然生態系が危機的状態に陥っている。2020年2月24〜29日、200カ国近くの代表者が一堂に会して、種の激減をくい止める主な計画についてじっくりと検討した。今回の会合は、2020年10月に中国の昆明で開催される生物の多様性に関する条約(CBD)第15回締約国会議(COP15)に向けての準備会合である。CBD–COP15のホスト国は中国であり、初めて環境関連の国際交渉を率いることになる中国には、重要な役割を担うことが期待されている(編集部註:7月28日、中国生態環境省は新型コロナウイルス感染拡大を受けて、当初10月に予定していたCBD-COP15開催を2021年5月17〜31日に延期することを発表した)。

世界的インフラを構築しようとする大規模な「一帯一路」構想をはじめとする、中国の国際的影響力が拡大する中、CBD–COP15には、中国が生物多様性に及ぼす影響と、中国の生物多様性保全の取り組みにスポットライトを当てる役目がある。

「私たちは、地球環境で喫緊に解決が必要な問題の一端が中国にあることをよく知っています。自然と地球上で暮らす人々のために、中国は、問題の一端を担う存在から解決策の一部を担う存在へと変わる必要があります」と、グリーンピース中国(北京)の政策アドバイザーLi Shuo(李碩)は言う。

この会合は第2回ポスト2020作業部会(OEWG2)と呼ばれ、2021年以降の生物多様性の世界目標を設定する3回の作業部会のうちの2回目である。この目標を基礎とする、法的拘束力のある国際的な取り決めがCBD–COP15において採択される予定であり、2010年に採択された現行の取り決めに代わるものとなる。2月24~29日の会合は、当初、中国の昆明で開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生を受けて、開催地がローマに変更された。

CBDへの国際的な合意は、次の10年間、署名国に生物多様性保全の責任を負わせる主要な枠組みであると、CBDの共同議長Basile van Havreは言う。190カ国以上がこの条約に署名している。

各国は、現在のCBD目標(種の絶滅の防止、全ての魚種資源の持続可能な収穫など)の期限内の達成にほぼ失敗してきたため、今回は特に関心が高まっているとLiは言う。

生態系は急速に消失しており、100万種近くの動植物が絶滅に瀕している。もしこの傾向が続けば、人間や食糧生産に大きな影響が及ぶかもしれないとvan Havreは言う。しかし、目標が曖昧で実行しにくく、進捗状況の追跡が困難なこともあり、各国が現在の目標を達成できずにいると彼は言う。

ホスト国である中国は、CBD議長国を引き継ぎ、10月のCOP15で交渉を率いる。中国の外交官は、評価できる野心的な目標に向けて世界を合意に導くという重要な仕事をすることになると、研究者らは言う。2月のOEWG2では、中国は、10月に採択される協定の土台となる「ゼロドラフト」という草案の修正を巡る交渉において、大きな役割を担うことが期待される。

中国は国内の環境問題で顕著な進歩を遂げており、このことが中国の外交官に何らかの影響力を持たせることになるだろうとLiは言う。中国政府は、この10年間で数千の自然保護区や自然公園を設立し、また、人間活動や産業活動を制限する「生態保護レッドライン」を画定していて、その面積は国土の約4分の1に及ぶ。2016年には、ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)の保全状況が絶滅危惧から危急に改善された。「COP15のホスト役を務めることは、中国がますます真剣に環境保護に取り組むようになったことをアピールする1つの方法といえるでしょう」Liは言う。

しかし、中国は大きな失敗もしている。2019年11月、中国の長江に生息するシナヘラチョウザメ(Psephurus gladius)が絶滅したと発表された(H. Zhang et al. Sci. Total Environ. 710, 136242; 2020)。また、2002年以降、ヨウスコウカワイルカ(Lipotes vexillifer)が目撃されていない。この種も絶滅してしまった可能性がある。

絶滅の恐れがあるヨウスコウカワイルカ(Lipotes vexillifer)。 | 拡大する

STEPHANE DE SAKUTIN/AFP via Getty Images

生物多様性に関していえば、中国のエコロジカル・フットプリント(人類が地球環境に与えている負荷を示す指標)は国境を越えて顕著に増え続けているため、中国が真のリーダーになるにはその削減に取り組む必要があるだろうと、持続可能開発・国際関係研究所(フランス・パリ)の環境科学者Aleksandar Rankovicは言う。

中国は、パーム油などの環境破壊につながる製品を大量に輸入しており、インドネシアを含む熱帯諸国の森林破壊に寄与している。傾向の推定は困難だが、世界の野生生物の不法取引の多くが、伝統薬や珍味を求める中国の需要によるものと広く理解されている(2018年6月号「ジャガーの牙が狙われている」、2019年9月号「国際疾病分類に伝統医学を組み入れることへの懸念」参照)。

北京師範大学の保全生物学者Li Zhang(張立)は、中国の野生生物の取引と消費が現在のコロナウイルス発生の一因であると考えている。このウイルスは、感染の発生地である武漢の市場で売られていた動物(おそらくセンザンコウ)からヒトに移ったと考えられている。中国政府は野生生物取引を一時的に禁止した。しかし、こうした措置では別の感染症の発生を阻止できないとして、彼は野生生物取引の恒久的禁止を求めている〔編集部註:SARS-CoV-2の自然宿主はコウモリとみられているが、ヒトへの感染を仲介した別の宿主の存在についても研究が進められている。Nature News(nature.com/articles/d41586-020-00548-w)参照。2020年3月26日には、中国に密輸されたマレーセンザンコウ(Manis javanica)からCOVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に関連する系統のウイルスが検出されたことが、Nature オンライン版で報告された(T. T.-Y. Lam et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-020-2169-0; 2020)〕。

インフラの影響

自然保護活動家は、中国の「一帯一路」構想(Belt & Road Initiative;BRI)の環境影響についても懸念している。一帯一路は、中国と世界の多くの地域を結ぶ大規模なインフラ建設プロジェクトであり、現代のシルクロードに例えられている。東南アジアにおいて計画された道路と鉄道の多くは、生物多様性ホットスポットに深刻なリスクをもたらすとともに、野生生物の不法取引を助長する可能性があることが、2019年の研究によって見いだされた(A. C. Hughes Conserv. Biol. 33, 883–894; 2019)。一帯一路プロジェクトでは、特に発展途上国において、生態学的に脆弱な地域を保護するための十分な監視が行われていなかったと、論文著者で中国科学院西双版納熱帯植物園の保全生物学者でもあるAlice Hughesは言う。

一帯一路は、研究者らが昆明での取り決めの一環として中国に支持されることを望んでいる生物多様性保全アプローチと同調したものではないと、「触媒計画(Project Catalyst)」を率いるロンドン在住のSimon Zadekは言う。触媒計画は、国連開発計画(UNDP)のイニシアチブであり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて活動を促す役割を果たしている。

多くの国々が、10月のCOP15を利用して一帯一路が環境に及ぼす影響を浮き彫りにしようとしていると、グリーンピース中国のLiは話す。「中国側から有効な政策反応が打ち出されるかどうかが、注意すべき重要問題となるでしょう」と彼は言う。

中国だけでなく、あらゆる国が、投資や貿易などの活動で発生させた国際的な環境負荷の減少に取り組む必要があり、そのためには新たな生物多様性条約が必要だと研究者らは考えているとHughesは言う。「国際開発プロジェクトは、どの側面からも監視を受けていませんから」。

しかし、CBDには、外国からの投資で推進されるプロジェクトに起因する環境破壊を考慮する余地はないとvan Havreは言う。彼によれば、主権国家とその国土内における責任のみを考慮しているという。

OEWG2では各国内の環境保護の枠組みが検討され、2020年のゼロドラフトには、他国の投資を受ける国が自国の環境影響を評価する必要性に関して具体的に言及した記述が初めて盛り込まれると、van Havreは言う。例えば、中国が他国で鉄道敷設を望む場合、その国は、プロジェクトを進める許可を出す前にそうした評価をする必要があると、彼は説明する。

2020年のCBD–COP15では、中国は一帯一路関連の環境問題に真剣に取り組まないだろうとLiは考えている。一帯一路に対して考えを表明している当局者は昆明会議の運営者ではないからだと彼は言う。「各国の国外フットプリントについて多くの非公式情報が飛び交うと予想されますが、具体的な政策の進展はあまり期待していません」。

(翻訳:藤野正美)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度