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超巨星ベテルギウスが暗くなったわけ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210806

原文:Nature (2021-06-16) | doi: 10.1038/d41586-021-01633-4 | Why the supergiant star Betelgeuse went mysteriously dim last year

Davide Castelvecchi

超巨星ベテルギウスの2020年の減光は、星が吐き出したダストのためだったとみられることが、高解像度画像とシミュレーションで分かった。

夜空のオリオン座とベテルギウス(赤い円の中心)。ベテルギウスは明るく、赤みがかった星で、狩人であるオリオンの右肩とされる。 | 拡大する

ESO/N. Risinger (skysurvey.org)

地球から近い超巨星ベテルギウスは2020年初め、その明るさが大きく低下し、超新星爆発が近いのではないかとの見方もあった。フランス、ドイツ、英国、米国などの研究者の共同研究グループが、減光前後のベテルギウスの高解像度画像を撮影し、計算機シミュレーションを行った結果、減光は星自身が吐き出したダスト(塵)の雲によって起きた現象だと結論し、Nature 2021年6月17日号で報告した1

ベテルギウスはオリオン座の右肩にあり、通常は夜空で最も明るい10個の恒星の1つだ。ベテルギウスの明るさは周期的に変化しており、約425日の周期で暗くなることが数十年前から分かっている。暗い時期の明るさはピーク時の約4分の3になる。しかし、2019年10月に大きな減光が始まり、2020年2月、その明るさはピーク時の約3分の1に落ちた。これは、肉眼でも十分分かるレベルの低下だ。明るさはその後、数カ月で元に戻った。

この原因不明の減光で、ベテルギウスは超新星爆発が近いのかもしれないという推測が強まった。ベテルギウスは赤色超巨星であり、太陽の約16〜19倍の質量を持つ一方、寿命は1000万年程度と短命だ。今後10万年のうちに超新星爆発を起こして中性子星になると予測されていた。最新の見積もりによると、ベテルギウスは地球から約168パーセク(548光年)のところにある2。地球に近く、超新星爆発を起こせば、数週間にわたって昼間でも見えるほど明るいはずだ。地球で観測された、銀河系(天の川銀河)内での一番最近の超新星爆発は1604年だった。

しかし、天体物理学者の多くは、超新星爆発が近いという推測は、願望の交じった見方だと警告した。彼らは、減光はもっとありふれた機構によって引き起こされた可能性が高いと指摘した。考えられる原因は、対流セルと呼ばれる現象により、星の表面に異常に低温の物質の塊が現れた、ダストの雲が地球からの視線上を通過した、などだ。パリ天文台のMiguel Montargèsらは今回、大きな減光の原因はおそらく、この2つの要因が同時に起こったためであることを見いだした。

解けた謎

研究グループは、チリのアタカマ砂漠にある、欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTを使って、ベテルギウスの高解像度画像を2019年1月、同年12月、2020年1月、同年3月に撮影した。ベテルギウスの直径は太陽の764倍と巨大であり、もしも太陽系の中心にあったら、火星までの全ての惑星の軌道を飲み込むはずだ。Montargèsは「このため、ベテルギウスは光の点ではなく、円盤として解像できる少数の星の1つです」と説明する。

ベテルギウスの観測画像は、星の南半球が暗くなったことを示している。暗い領域の位置は観測期間中、ほとんど変わらなかった。これは、星自身が吐き出したダストの雲によって暗い場所が生じたこと、また、ダストは星の前を通り過ぎるのではなく、ほぼ視線方向に動いていたことを示した。「もしも1つの雲が星の前を横切ったのだったら、雲は通過し終えていたはずです」とMontargèsは話す。

欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLT で撮影されたベテルギウスの高解像度画像。左から、2019年1月、同年12月、2020年1月、同年3月撮影。これらの観測結果から、明るさの大きな低下は、星自身が出したダストによるものだったことが分かった。 | 拡大する

ESO/M. Montargès et al.

研究グループの説明によると、ベテルギウスの通常の約400日周期の変化(脈動)と、対流によって生じた星表面の低温部分が相まって、星の周辺の温度が大きく低下した。このため、星が最近吐き出したガスが急速にダストに凝固し、星からの光を遮った。研究者たちは、計算機シミュレーションを1万回以上行い、このシナリオが観測データに最も合うことを確かめた。「両方の現象が同時に起こったとみられるというのが、シミュレーションによる結論です」とMontargèsは話す。

宇宙望遠鏡科学研究所(米国メリーランド州ボルティモア)の天体物理学者Meridith Joyceは「この結論は、シミュレーションで確かめられていますから納得できるものです」と話す。

Montargèsは、ベテルギウスを10年間にわたって断続的に研究してきた。彼が10歳だったとき、ベテルギウスは夜空で見つけることができる初めての星になり、それ以来、彼はベテルギウスに興味を持ち続けてきたという。

ベテルギウスなどの赤色超巨星は、超新星爆発を起こす時期を予測できるほど詳細には解明されていない。ハートフォードシャー大学(英国ハットフィールド)の天体物理学者・小林千晶は、「もしも、ベテルギウスが超新星爆発を起こすまであと何日、あるいは何年かを知ることができたら素晴らしいことでしょう」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Montargès, M. et al. Nature 594, 365–368 (2021).
  2. Joyce, M. et al. Astrophys. J. 902, 63 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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