News in Focus

JETでトリチウムと重水素の核融合実験を近く開始

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210608

原文:Nature (2021-02-22) | doi: 10.1038/d41586-021-00408-1 | Fuel for world’s largest fusion reactor ITER is set for test run

Elizabeth Gibney

大型核融合炉ITERでの実験に向け、英国にある実験炉JETでトリチウムと重水素を核融合させる実験が近く始まる。

欧州トーラス共同研究施設(JET;英国カラム)のトカマク型核融合炉の内部。 | 拡大する

EUROFUSION (CC BY 4.0)

英国にある核融合実験炉「欧州トーラス共同研究施設」(JET)で、トリチウムと重水素を核融合させる実験が近く始まる。この燃料は、2025年の運転開始に向けてフランスで建造中の世界最大の核融合炉「ITER」(国際熱核融合実験炉)で使われるものと同じで、実用化に最も近い燃料であり、今回の実験はITERのためのデータ取得が目的だ。

核融合は太陽のエネルギー源であり、地球上で利用できれば、ほぼ無限のエネルギー源になる。JETは英国南部のカラム核融合エネルギーセンター(CCFE)にある。JETと、フランス南部のカダラッシュで建造中のITERは、いずれもトカマク型と呼ばれる設計を採用している。

トカマク型核融合炉は、プラズマを強力な磁場でドーナツ状領域に閉じ込め、核融合反応が起こる高温に加熱するもので、核融合エネルギーの実用化を目指して最も研究されてきた。JETのプラズマ温度は、太陽の中心核(約1500万K)よりも高い1億Kに達する。

さまざまある核融合反応のうち、最も実用化に近いのが、トリチウム(水素の同位体で三重水素とも呼ばれる)と重水素(水素の別の同位体でジュウテリウムとも呼ばれる)が反応してヘリウム4と中性子が生じる反応だ。他の核融合反応に比べて比較的低い温度で反応が起こりやすい。

ITERは、同量のトリチウムと重水素からなる燃料を閉じ込めて加熱し、注入したよりも多くのパワー(出力)を核融合反応で生み出すという、これまで実現したことがない試みに挑む。さらに核融合炉は、核融合で生じた熱で核融合反応を維持することが必要になる。ITERのプラズマ体積はJETの10倍近くあり、建設費は220億ドル(約2兆4000億円)に上る。

JETは2020年12月、トリチウムを使ってプラズマを生成する実験を開始した。2021年6月からは同量のトリチウムと重水素を核融合させる実験を始める。トカマク型の炉で相当量のトリチウムを使って実験が行われるのは、世界的にも1997年のJETでの実験以来だ。1997年のJETでのトリチウムを使った実験の目標は、核融合出力の最高記録を更新することだった。JETは当時、外部から入力したパワーに対する、核融合で得られたパワーの比(パワー増倍率、Q値)で0.67を達成した。これは世界最高記録で今も破られていない。Q値が1になることを臨界プラズマ条件という。

2021年の実験の目標は、同様のレベルの核融合出力を5秒以上維持すること、その実験から可能な限り多くのデータを手に入れること、長時間持続するプラズマの振る舞いを解明することだ。JETの科学プログラムを共同で指揮するJoelle Maillouxは、「長年準備してきたものをとうとう実行に移すことができ、すごくワクワクしています」と話す。

ITERは、2025年に初のプラズマ生成を行う。2035年からはトリチウムと重水素の50:50混合物での核融合を始める予定になっている。JETの実験結果は、ITERのトカマク型炉の中でプラズマがどのように振る舞うかを予測し、ITERの運転設定を決めるのに役立つはずだ。ITERの主席科学者Tim Luceは、「今回のJETの実験は、現在ある実験装置で実現でき、ITERの実験条件に最も近い実験です。約20年間の研究の到達点です」と話す。

放射性物質

トリチウムを使う研究には特有の難しさがある。トリチウムは放射性物質で崩壊が速く、自然界にはわずかな量しか存在しない。通常は核分裂炉での副産物として得られ、現在、世界で利用可能なトリチウムの量はわずか20kgほどだ。

トリチウムと重水素の反応は、重水素と重水素の反応よりも起こりやすいが、発生する中性子の運動エネルギーが高い。商業用核融合炉は、その中性子のエネルギーから電力を得る。しかし、高エネルギーの中性子は実験装置の内壁にぶつかり、測定システムを損傷する。CCFEを率いるIan Chapmanによると、このため、JETはカメラやその他の装置をコンクリート遮蔽壁の背後に移動させなければならなかったという。

「私たちは、燃料の貯蔵から取り扱いまで、プロセスの全てを新しくしなければなりませんでした」とChapmanは話す。トリチウムを使った実験がいったん始まれば、中性子の照射が装置内部を放射性にし、人間は18カ月間にわたり装置内部に立ち入れなくなる。このため研究員らは、宇宙に宇宙船を送るエンジニアと同様の考え方に慣れなければならなかった。「実験が始まれば装置の中に入って直すことはできません。装置は1回目できちんと動作しなければならないのです」とChapmanは話す。JETの研究者らは、実験装置の各要素を改修し、放射性物質を扱う準備をするのに2年以上を費やした。

JETの今回の一連の実験は、60g未満のトリチウムを使い、それを再利用する。1gに満たない量のトリチウムを含んだ燃料のパルスが、1日に3~14回、トカマクに送り込まれる。Maillouxによると、燃料の注入ごとにパラメーターがわずかに異なる実験が行われ、3~10秒間の貴重なデータが得られる。

重いトリチウム

一部の実験は、トリチウムだけを使い、その他の実験は、トリチウムと重水素を同じ割合で核融合させる。質量の大きなトリチウムがプラズマの振る舞いに及ぼす影響を理解することが目的なので、両タイプの実験が重要だという(トリチウム原子核は2つの中性子を、重水素原子核は1つの中性子を含む。水素原子核は中性子を含まない)。実験結果は、ITERでさまざまな同位体を使う場合の影響を予測するのに役立つはずだ。

同位体の質量は、プラズマを閉じ込めるために必要な条件(磁場、電流、外部からの加熱など)に影響する。閉じ込め状態では、エネルギーの高い粒子も電離ガスの中にとどまる。これはプラズマの温度を維持するために重要だ。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のプラズマ物理学者Anne Whiteは「私たちは閉じ込めに必要な条件を調べ、その理由を理解したいのです」と話す。

1997年の実験と今回の実験のもう1つの大きな違いは、熱と中性子照射から核融合装置を保護し、プラズマから不純物を取り除くためのJET内壁の材料を、ITERと同等のものに変更したことだ。炉内壁の材料は、プラズマ中に混じり、プラズマの温度を下げる可能性がある。炉内壁の材料が核融合プロセスとどのように相互作用するかを理解することは核融合の実用化に不可欠だ。Chapmanは今回の実験について、「最も若い世代の核融合研究者はトリチウムで実験を行ったことがありません。だから、この実験を行うことはいっそう重要なのです」と指摘する。

(翻訳:新庄直樹)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度