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ミトコンドリアDNAが切断されると始まる免疫応答

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210635

原文:Nature (2021-03-18) | doi: 10.1038/d41586-021-00429-w | Breaks in mitochondrial DNA rig the immune response

Nandhitha Uma Naresh & Cole M. Haynes

ミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官のDNA(mtDNA)が損傷を受けると、細胞は核内で免疫応答を開始する。今回、細胞がmtDNAの損傷を感知して核に伝える仕組みが明らかになり、細胞内で起こる細胞小器官と核の協調した免疫監視機構が見えてきた。

放射線照射などで誘発されるDNA損傷は、核(薄青)だけでなく、ミトコンドリア(赤)でも起こっていることが示唆された。今回明らかになった細胞内の細胞小器官と核のコミュニケーションは、自己免疫疾患やがんの治療にも関わってくる可能性がある。 | 拡大する

HeitiPaves/Stone/Getty

ミトコンドリアは、膜に包まれた細胞小器官で、細胞において代謝や自然免疫のシグナル伝達の拠点として機能する。ミトコンドリアは、1つ1つがミトコンドリアゲノム(mtDNA)のコピーを複数含んでいて、mtDNAは外部環境からのストレス要因あるいは内在する遺伝的変異によって損傷を受けることがある。mtDNAは損傷を受けると、それが引き金となって分解されることがあり、その結果mtDNAコピーの総数が減少すると、ミトコンドリアの機能不全につながる。こうしたことに加えて、健康なミトコンドリアの機能は、ミトコンドリアと核の間のクロストークに大きく依存していることが分かっている1,2。このほどニューヨーク大学医学系大学院(米国)のMarco Tiganoらは、細胞がmtDNAの有害な損傷を感知して核内で免疫応答を開始させる機構を明らかにし、Nature 2021年3月18日号477ページで報告した3

細胞は、ウイルス感染や放射線照射などの急性ストレスを受ける条件では、細胞死(アポトーシス)を促進する経路を活性化することがある。これらの経路においてミトコンドリアは重要な役割を担っている。ミトコンドリアの膜にBAKとBAXと呼ばれる孔形成タンパク質が蓄積すると、ミトコンドリアはその内膜を押し出す「ヘルニア形成」と呼ばれる過程4を介して、細胞死因子を細胞質ゾルへと放出することがある。細胞死因子が活性化されない場合もあり、この場合は細胞死因子ではなく、ミトコンドリアの内容物(DNAやRNAなど)が細胞質ゾルに放出される4。そして細胞質ゾルにmtDNAやmtRNAが蓄積すると、細胞は強力な抗ウイルス応答を開始する5–7。しかし、ミトコンドリアのヘルニア形成や、細胞質へのミトコンドリア内容物の蓄積が、ミトコンドリアの機能不全のどの側面により引き起こされるのか、正確には分かっていない。

Tiganoらは、細胞ストレスの1つであるmtDNA切断の影響について調べることから始めた。ミトコンドリアを標的としたTALEN(mitochondria-targeted TALEN;mTLN)と呼ばれる「分子的はさみ」のコンストラクトを用いることで、哺乳類細胞のmtDNAに二本鎖切断(DSB)を引き起こした。mTLNによる操作を行った細胞について、遺伝子発現の変化をRNA塩基配列解読により解析すると、自然免疫応答に関与する核遺伝子の転写が上昇していることが分かった。これらの遺伝子にはインターフェロン応答遺伝子群が含まれていて、この遺伝子群は通常、ウイルス感染との闘いに関与する。また、転写因子STAT1がリン酸化され、核移行していることも分かった。これは、インターフェロン応答の重要な過程の一部である8

mtDNAの切断は、毒性のある薬剤や、DNAに損傷を誘導する薬剤、複製エラーなどによっても起こり、ミトコンドリアの機能障害につながることも多い9。しかしTiganoらは、mTLN操作を受けた細胞ではmtDNA数は約60%しか減少しないこと、また、mtDNAの切断が引き起こされても、ミトコンドリアの機能にすぐには影響が及ばないと考えられることを見いだした。つまり、ミトコンドリアの形態や、膜の内外のプロトン(H+イオン)勾配、活性酸素種の生成など、ミトコンドリアの正常な機能を示す重要な指標には、変化は観察されなかった。これらのデータは、mtDNA切断が抗ウイルス応答の重要な開始因子であることを示している。

次にTiganoらは、mtDNAが不安定であることを核に伝えるシグナル伝達分子を特定することにした。mTLN操作を受けた細胞では、ミトコンドリア機能は無傷であり、アポトーシスは起こらなかった。しかし、ミトコンドリアの膜にはBAK-BAX孔が形成されていて、この状態は、ミトコンドリアのヘルニア形成と一致していることが分かった。そしてTiganoらは、このような細胞の細胞質ゾルには、mtDNAではなくmtRNAが蓄積していることを見いだした。mtRNA分子は、RIG-Iと呼ばれるRNA感知タンパク質によって検出される。RIG-Iは細胞質ゾルにおけるウイルスRNAの感知因子としてよく知られている10。RIG-Iは、ミトコンドリア外膜上のMAVS(mitochondrial antiviral signalling)と呼ばれるアダプタータンパク質と共に、核においてインターフェロン応答遺伝子群を活性化するシグナル伝達経路を開始させる10。これらの結果から、細胞がミトコンドリアのシグナル伝達分子を免疫監視機構に関与させる枠組みが示された(図1)。

図1 細胞小器官の間で損傷が起こったことを伝達する
Tiganoら3は、ミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官のDNAに損傷が起こったことを核に伝える機構について報告している。Tiganoらの研究グループは、ミトコンドリアを標的とするTALEN(mTLN)と呼ばれる「分子的はさみ」のコンストラクト、あるいは電離放射線を用いることで、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に切断を誘導した。これらの操作によってmtRNAは、ミトコンドリアの膜にあるBAKとBAXというタンパク質から構成される孔を介して、細胞質ゾルへと放出される。細胞質ゾルでは、RNAセンサーのRIG-Iと、RIG-Iのアダプタータンパク質であるMAVSという2つのタンパク質の協働によりmtRNAが感知され、シグナル伝達経路が開始する。すると、インターフェロン応答(破線は間接的な影響を示している)と呼ばれる免疫応答に関与する遺伝子群の発現上昇が始まる。また、転写因子STAT1がリン酸化されて(Pで表す)核に移動する。STAT1は核において、インターフェロン応答遺伝子群の活性化に役割を果たす可能性がある。 | 拡大する

放射線などによるDNA損傷の誘発は、がんの治療に用いられていて、全身性の免疫応答を誘導する。この免疫応答は、核内のDNA損傷によって引き起こされると考えられている。Tiganoらは、放射線によってmtDNA数が40%減少し、mTLNを使用したときと同様の免疫応答が誘導されることを見いだした。これは、DSBが放射線照射後に核DNAだけでなくmtDNAでも起こっていることを示唆している。一方、mtDNAを欠損する細胞では驚いたことに、放射線照射に伴うインターフェロン応答の誘導がほぼ完全に消失した。この観察結果は、放射線によって引き起こされるmtDNAの損傷が、インターフェロン応答のドライバーである可能性を示している。特に、mtDNAを欠損する細胞において他のいくつかの自然免疫応答が誘導されることは重要で、このことからmtDNAの除去によって、インターフェロン応答が特異的に損なわれることが示唆される。

この研究は、mtRNAの免疫刺激の役割を明らかにしている。しかし、疑問は残されている。例えば、本来、非常に不安定であるmtRNA分子11が細胞質ゾルに蓄積することが今回の研究で観察されているが、mtRNAはどのように安定化されるのだろうか? また、mtDNAの切断が起こった後に生じるBAK-BAX孔の形成にはどのような刺激が必要なのか、掘り下げるのも面白いだろう。それから、この孔形成を阻害する薬剤が炎症性免疫応答を抑制できるかどうかを調べることも非常に興味深い。今回、細胞がミトコンドリア由来の自己RNAを認識して免疫応答を開始する機構が発見されたことで、この経路が自己免疫疾患に関与する可能性があるかどうかという疑問も浮かび上がる。最後に、人工的に誘導されたmtDNA損傷を用いて、がんに対する標的免疫療法の有効性を高めることができるかどうかを調べることも興味深いと考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Nandhitha Uma Naresh & Cole M. Haynesは、ともにマサチューセッツ大学医学系大学院(米国ウースター)に所属。

参考文献

  1. Shpilka, T. & Haynes, C. M. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 19, 109–120 (2018).
  2. Guo, X. et al. Nature 579, 427–432 (2020).
  3. Tigano, M., Vargas, D. C., Tremblay-Belzile, S., Fu, Y. & Sfeir, A. Nature 591, 477–481 (2021).
  4. McArthur, K. et al. Science 359, eaao6047 (2018).
  5. White, M. J. et al. Cell 159, 1549–1562 (2014).
  6. West, A. P. et al. Nature 520, 553–557 (2015).
  7. Dhir, A. et al. Nature 560, 238–242 (2018).
  8. Majoros, A. et al. Front. Immunol. 8, 29 (2017).
  9. Alexeyev, M., Shokolenko, I., Wilson, G. & LeDoux, S. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 5, a012641 (2013).
  10. Rehwinkel, J. & Gack, M. U. Nature Rev. Immunol. 20, 537–551 (2020).
  11. Borowski, L. S., Dziembowski, A., Hejnowicz, M. S., Stepien, P. P. & Szczesny, R. J. Nucleic Acids Res. 41, 1223–1240 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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