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最速の乱数生成器を開発

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210503

原文:Nature (2021-03-02) | doi: 10.1038/d41586-021-00562-6 | This is the fastest random-number generator ever built

Davide Castelvecchi

レーザーを使って毎秒250兆ビットの速度で物理的に乱数を作り出す装置が開発された。今後、必要な機能を1つのチップに載せた小さな素子ができるかもしれない。

Caoらが作った乱数生成器の半導体レーザーキャビティ(共振器)の走査型電子顕微鏡画像。キャビティは蝶ネクタイ形で、その長さ(画像の横方向)は400µm。レーザー光は、キャビティの膨らんだ曲線部分から広がったビームとして出る。 | 拡大する

Kyungduk Kim

レーザーを使ってこれまでで最速の毎秒250兆ビット(250テラビット)の速度で乱数を作り出す装置を、米国、フランス、シンガポールなどの共同研究グループが開発した。この装置は、量子力学的なランダム性を利用し、レーザー光強度のゆらぎから物理的に乱数を生成する。将来は、これに必要な機能の全てを1つのコンピューターチップに載せた小さな素子が作られるかもしれない。

この装置を作ったのは、エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の応用物理学者Hui Caoらで、彼らは研究結果をScience 2021年2月26日号で報告した1

高速で乱数を作る技術は、高速・大容量通信におけるデータの暗号化や大規模な科学シミュレーションなどで必要とされる。しかし、真の乱数を得ることは非常に難しい。従来のコンピューターで動くアルゴリズムは、一見ランダムに見える数の配列(疑似乱数列)を作ることができるが、実際には確定的な計算を行っている。疑似乱数列は少なくとも部分的に予測可能であり、それを使った暗号は解読されやすくなる。

暗号化をより安全に行うために、研究者たちは量子力学に目を向けている。量子力学においては、ある測定の結果(例えば放射性の原子がいつ崩壊するかなど)が真にランダムであることは物理法則が保証する。

量子ランダム性を利用するためによく使われる方法は、レーザー媒質の光子放出におけるゆらぎを利用することだ。通常のレーザー素子は、一定強度の光を出すように設計される。

しかし、乱数生成のためには、研究者たちはその逆を狙う。Caoは、「私たちは強度がランダムにゆらぐことを望んでいます。そして強度をデジタル化して乱数を作り出すのです」と話す。

蝶ネクタイ形のキャビティ

Caoらのグループは、半導体でできたレーザーキャビティ(共振器)を蝶ネクタイ形に設計し、多数の発振モードの干渉で複雑な強度ゆらぎが起こるようにした。さらに量子力学的な自然放出が雑音として加わり、強度ゆらぎを予測不可能かつ再現不可能にした。

光は、キャビティの湾曲した壁の間で複数回跳ね返った後、広がったビームとして出てくる。この光を高速カメラで捉え、その強度を独立した254ピクセル(画素)の出力として記録する。この結果、毎秒約250テラビットのランダムなビット列が得られた。これは、一度に1ピクセルだけを記録するこれまでの装置よりも数桁速い。

国立標準技術研究所(NIST;米国コロラド州ボールダー)の物理学者Krister Shalmは、「この発明は乱数生成器の性能における大きな飛躍です」と話す。

Caoらの装置は、高速カメラの代わりに単純な光検出器を使うことにより、もっと小さくできるかもしれない。「将来は、全ての機能を1つのコンピューターチップに搭載した、小さくて実用的な乱数生成素子を作れるかもしれません」とCaoは話す。そうした素子は、携帯電話で使われる暗号化技術などの有用な応用が見つかる可能性がある。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Kim, K. et al. Science 371, 948–952 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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