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高解像度3D印刷をわずか数秒で

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210340

原文:Nature (2020-12-24) | doi: 10.1038/d41586-020-03543-3 | High-resolution 3D printing in seconds

Cameron Darkes-Burkey & Robert F. Shepherd

優れた特徴解像度と体積生成速度で3D固体物体を印刷できる、新たなボリューメトリック印刷技術が開発された。この方法は、2種類の光ビームを交差させることで生じる化学反応を利用している。

『スタートレック』の世界では、「レプリケーター」と呼ばれる複製装置を使い、わずか数秒で固体物質を出現させることができる。材料科学の進歩のおかげで、こうしたSF上の装置は我々が考えている以上に実現に近づいているのかもしれない。ボリューメトリック積層造形(VAM)と呼ばれるタイプの3D印刷は、容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させる方法である。今回、ブランデンブルク応用科学大学(ドイツ)の物理学者Martin Regehlyら1は、最大で25µmの特徴解像度と55mm3/sの固化速度で3D固体物体の印刷を可能にする、改良型VAM技術を開発し、Nature 2020年12月24/31日号620ページで報告した。この技術は、異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることから、交差を意味する「x」とギリシャ語で「全体」を意味する「holos」を組み合わせて「xolography」と名付けられた。

従来型の3Dプリンターでは、プリントヘッドまたは印刷物をガントリーで3つの直交方向に動かすことで、プリンターのノズルが次に材料を積層する場所に正しく向くようにして印刷している。一方、光造形と呼ばれる方式の3Dプリンターでは、液体の出発物質に容器の下から光を照射して底面の層全体を重合させ、固化した物体を徐々に引き上げながら積層していく。この方法の改良版である連続液体界面製造(CLIP)法では、500mm/hという印刷速度が達成されており2、光束と重合速度を適切に調整すれば、積層印刷で生じがちなアーチファクトのない、モノリシックな物体を印刷することができる。これに対し、VAM法では液体出発物質から固化した物体を引き上げる必要がないため、印刷機構の単純化や、より高速での印刷が可能になる。VAM法にはさらに、他の方法よりも高い品質の部品を作製でき、支持構造を必要としないため印刷後にそれを除去する手間も省けるという利点がある。

これまでに開発されたVAM法には、二光子光重合(TPP)法3,4や計算軸方向リソグラフィー(CAL)法5,6がある。TPP法では、フェムト秒のレーザーパルス(1フェムト秒は10−15秒)を用いてナノスケールの構成要素が重合・作製され、それらを積層することで微小構造が得られる。現在のところ、TPP法は印刷速度がわずか1~20mm3/hと遅く、一般にミリメートルスケールの物体の作製に用いられているが、特徴解像度は100nmと非常に高い。

一方、CAL法はセンチメートルスケールの物体の高速固化を可能にすることで、VAM法の機能を別方向に進化させた(2019年5月号「立体物を一気に作る待望の3Dプリンター」参照)。CAL法では、回転容器に入った液体前駆体にさまざまな角度から像が投影され、アルゴリズムを用いて個々のボクセル(3Dピクセル)の累積露光量が制御される。この操作は、フリーラジカル種によって不要な重合が開始されるのを溶存酸素で防止するシステムと連動しているため、目的のボクセルのみを固化できる。CAL法は特徴解像度が100µmで、センチメートルスケールの部品をわずか数秒で作製できるが、フィードバックシステムを用いたコンピューターの最適化が必要で、装置コストが高くなり、総印刷時間が長くなるという欠点がある。

今回Regehlyらは、VAM法において固化が起こる液体体積の優れた制御を可能にする、新しい重合開始化学反応を報告している。この手法では、印刷速度を犠牲にすることなく、これまで報告された巨視的VAM技術と比較して、解像度を最大10倍まで高めることができる。

Regehlyらが開発したxolographyの仕組みはこうだ。まず、容器内の粘性樹脂に規定の厚さの長方形の光シートを照射する(図1)。このとき、光シートの波長は樹脂中に溶けている二色光開始剤(DCPI)を励起できるものが選ばれており、この励起は、DCPI分子の骨格に含まれる環の1つが開裂することで起こる(この励起は光シート内でしか起こらない)。

図1 高解像度3D印刷法「xolography」
Regehlyら1は、光を用いて液体前駆体から物体を固化して造形する新たな技術を開発した。xolographyと名付けられたこの手法では、まず、容器に入った粘性樹脂に長方形の光シート(青色)を照射し、樹脂中に溶けている二色光開始剤(DCPI、図には示されていない)の分子を活性化する。次に第二の光ビーム(赤色)を用いて、目的の3D物体のスライス像を光シート面に投影する。この光の波長は、光シートの波長とは異なっており、活性化されたDCPIに作用して樹脂の重合を開始させ、2つの波長の光が交差する部分の樹脂を固化させる。その後、容器入りの樹脂をリニアステージ上で動かし、光シートが照射される樹脂の位置を変えて一連の操作を繰り返すことで、スライスが蓄積されて3D固体物体が形成される。 | 拡大する

次に、第二の光ビームを用いて、目的の3D物体のスライス像を光シート面に投影する。この光の波長は、最初の光の波長とは異なっており、励起されたDCPI分子に作用してその体積内の樹脂の重合を開始させ、スライスを固化させる。光シートは固定されているため、樹脂の入った容器を移動させて光シートに励起される樹脂の位置を変えることで、新たな体積部分での励起と重合の開始が可能になる。こうした一連の操作を繰り返すことで、スライスが蓄積されて3Dの固体物体が形成される。

Regehlyらは、直径8mmの球状ケージの中に球体が浮いた状態で閉じ込められた造形物を印刷することによって、この手法の有効性を実証した(図2)。従来の積層3D印刷であれば、ケージと球体をつなぐ支持体も同時に印刷する必要があり、それを後から除去するのは困難なことだろう。xolographyは特徴解像度が高いため、液体流中や気流中で軸を中心に回転するブレードなどの機械的システムも直接印刷できる(論文1の図2d–f参照)。

図2 xolographyによって印刷された複雑な物体
Regehlyらはxolographyを用いて、球状ケージの中に球体が浮いた状態で閉じ込められた造形物を高い特徴解像度で印刷した。この物体は、従来の3D印刷では直接印刷することが困難である。aは印刷中の物体を、bは後処理後の物体を示す。ケージの直径は8mm。 | 拡大する

さらに野心的な試みとして、Regehlyらは「パウエルレンズ」と呼ばれる、レーザービームを均一な直線状の光に変換する非球面レンズを印刷している(論文1の図2g–i参照)。得られたレンズは、実際に空気中で、細い緑色のレーザービームを鉛直方向に引き伸ばし、直線状の投影光に変換した。このレンズの光学特性は、印刷された材料の構造が著しく均一かつ無欠陥であることを証明している。Regehlyらはまた、内部の解剖学的特徴(空洞になった鼻腔や食道など)を正確に捉えた、直径3cmの極めて詳細な人間の胸像も印刷した(論文1の図2j–l参照)。

xolographyの現時点での主な欠点は、印刷可能な体積が限られていることだ。これは、光ビームが樹脂中を透過できる距離が制限されていることに起因する。また、この方法では樹脂の入った容器を動かす必要があるため、移動方向の寸法が長い物体は、短い物体よりも相対的に時間がかかる。さらに、今回報告された化学反応は、高解像度印刷を可能にする画期的なものだが、これは同時に、使用できる材料が限られることも意味する。

こうした欠点はあるものの、xolographyをはじめとしたVAM法全般の未来は明るいだろう。光造形方式の一種であるデジタルライトプロセッシング(DLP)法の先駆的な技術も、今では、VAM法に適用できる可能性がある。例えば、グレースケール照射を用いれば剛性勾配を持つ物体を印刷できるようになり、異なる3D印刷部品間の界面の強靭化などへの応用や、リビングヒンジ(接続する堅い部品と同じ材料で作られたフレキシブルな接合部)といった特異な工学機構への応用も可能になるだろう。

Regehlyらは、より強力なレーザーの使用など、光学システムの改良によってxolographyの特徴解像度と体積生成速度をさらに向上させられると予測している。しかし、全てのVAM系には他にも、例えば、印刷体積の立方センチメートルから立方メートルへのスケールアップや、1つの印刷物に複数の材料を用いる方法の探索など、いくつかの課題が残されている。

印刷速度の向上と新材料の出現により、DLP法は既にランニングシューズのミッドソールのマス・カスタマイゼーションに利用されている(go.nature.com/3gy86wp参照)。もしも同様の進歩がVAM法やxolographyでも達成できれば、3D印刷製品の大量生産も可能になるかもしれない。他にも、現在はまだ不可能な応用を含め、数々の機会が近い将来きっと訪れるだろう。今回のRegehlyらの研究が示すように、今はまさにこの分野にとって心踊る時代と言える。

(翻訳:藤野正美)

Cameron Darkes-Burkey & Robert F. Shepherdは、コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)に所属。

参考文献

  1. Regehly, M. et al. Nature 588, 620–624 (2020).
  2. Tumbleston, J. R. et al. Science 347, 1349–1352 (2015).
  3. Baldacchini, T. (ed.) Three-Dimensional Microfabrication Using Two-Photon Polymerisation: Fundamentals, Technology and Applications (Elsevier, 2019).
  4. Geng, Q., Wang, D., Chen, P. & Chen, S.-C. Nature Commun. 10, 2179 (2019).
  5. Loterie, D., Delrot, P. & Moser, C. Nature Commun. 11, 852 (2020).
  6. Kelly, B. E. et al. Science 363, 1075–1079 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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