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多様な群集中で、数百種の微生物を 識別し、空間位置を特定

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210346

原文:Nature (2020-12-24) | doi: 10.1038/d41586-020-03315-z | Bacterial species singled out from a diverse crowd

Jen Nguyen & Carolina Tropini

顕微鏡を用いて微生物のタイプごとに空間分布パターンを明らかにすることは、同時に多くのさまざまな種が観察されてしまうために限界があった。今回、新たな手法によって、この分野の研究が進展した。

ヒトの歯垢を電子顕微鏡で見たもの。糖タンパク質の塊(青色)の中に、細菌(緑色と紫色)が埋まっている。歯垢の中には500種類以上の細菌が生息し、歯垢1mg中には1億個の細菌が存在するという。 | 拡大する

Science Photo Library - STEVE GSCHMEISSNER./Brand X Pictures/Getty

生態系を理解するには、生物がどんな場所に生息して行動しているのかという地図が必要である。例えば、コンブ群生地の海面に生息しているラッコは、海底のコンブを食べているウニを餌としている。生態系における生物の位置は、その生理学的性質や機能を反映している。このことは、とりわけ、微生物に当てはまる。微生物は非常に動的で多様な場所に生息し、生息環境に応答している。例えば、微生物の生息地を特徴付けている典型的な要因に、栄養やpHのマイクロメートル規模の勾配があるが、これらは細菌の空間的な構成や挙動を誘導する1,2。またさまざまな細菌が、他の生物系と関連したりあるいは関連しなかったりして、信じられないほど広範囲にわたって作用している3,4。だが、細菌をはじめほとんどの微生物は形状が類似していて、顕微鏡下では識別できない。このほどコーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)のHao Shiら5は、微生物の自然生息地に見られる数百から数千の細菌種を識別するという難題に取り組む方法を、Nature 2020年12月24/31号676ページで報告している。

生物地理学研究においては、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)と呼ばれる手法が、対象物の空間的位置を評価するための重要なツールとして用いられている。この方法は、以下のような原理に基づいている。まず、対象物のDNAやRNAを存在する位置から動かないように試料中で固定する。次に、対象物のDNAやRNAの特定の部分と相補的な塩基配列(プローブと呼ぶ)を蛍光分子(フルオロフォア)で標識し、これを試料に適用して対象物のDNAやRNAの標的塩基配列に結合(ハイブリダイズ)させる。それを顕微鏡で観察することで、蛍光により対象物の空間的位置を知ることができる。FISHプローブをさまざまな細菌を含む試料に適用すると、細菌が生息する通常の環境下で標的の細菌種を特定でき、顕微鏡下でその種の空間的位置を観察できる6

現在、FISHプローブのDNA構成要素の設計は比較的簡単になっている7。しかし、単一の試料内でFISHによって特定可能な細菌種の最大数には、同時可視化に使用できるフルオロフォアの数が限られているという制約がある。こうした従来の蛍光顕微鏡法の限界を超える方法が、スペクトル画像化とフルオロフォアの組み合わせを用いる手法で、同じ画像に含まれる15〜120タイプの微生物を識別できる8,9。しかし、これらの技術は、必要な蛍光タグ付きプローブの数が非常に多く、費用がかかることがデメリットとなっている。

Shiらは、新しいタイプのプローブ設計とカスタム画像解析を組み合わせることにより、これまでのFISHの基準を超える方法を取り入れた。この技術(図1)は、HiPR-FISH法(high phylogenetic resolution microbiome mapping by fluorescence in situ hybridization)と呼ばれ、その原理は2段階で細菌を標的化・標識する組み合わせ戦略に基づいている10

図1 高い空間分解能で1000以上の細菌種を特定する方法
Shiら5は、HiPR-FISH法(high phylogenetic resolution microbiome mapping by fluorescence in situ hybridization)と呼ばれる技術を示している。この手法では、符号化プローブのDNA配列は、種特異的なRNA配列に対応するように設計する(16SリボソームRNAは、全ての細菌種で標的配列になる)。各符号化プローブには、細菌種特異的な配列の両側に読み出し塩基配列と呼ばれる塩基配列が連結されており、10種類の塩基配列の中から選択する。同じ細菌種に特異的な塩基配列を標的とするさまざまな符号化プローブは、その種ごとに固有となるように読み出し塩基配列の組み合わせを設計する。次に、この10種類の読み出し塩基配列を標的にする塩基配列を持つプローブを作製し、それぞれに異なる蛍光分子(フルオロフォア)を連結させる(読み出しプローブ)。読み出しプローブを加えると、フルオロフォアの異なる各プローブが対応する1つの読み出し塩基配列に対合する。試料を画像化して、各細菌のRNAに結合しているフルオロフォアを記録する。この情報により、個々の細菌の遺伝的特定が可能になる。 | 拡大する

HiPR-FISH法ではまず、標的とする細菌の種に特異的な塩基配列(16SリボソームRNA)と対応するように、DNAプローブを設計する(符号化プローブ)。符号化プローブは、この細菌種特異的な塩基配列の両側に、読み出し塩基配列と呼ばれる不可欠な部分を持つ。この研究では、10種類の読み出し塩基配列が用意されており、符号化プローブは両側にそれぞれ、そのうちの1つを持つ。次に、読み出し塩基配列を標的とする塩基配列に、フルオロフォアを融合した別のDNAプローブ(読み出しプローブ)を作製する。読み出し塩基配列は10種類あるので、読み出しプローブも10種類必要となり、各プローブには異なるフルオロフォアが融合している。これらの読み出しプローブを、符号化プローブの各標的読み出し塩基配列に塩基対合させると、その符号化プローブに固有な蛍光が観察できる。

細菌細胞には16S rRNAが数百コピーも含まれているため、読み出し塩基配列は異なるが同じRNA塩基配列を標的にする複数の符号化プローブを、細菌の特定に適用することができる。つまり、この一連の符号化プローブは、同じ細菌種を標的にしている(符号化塩基配列は同じである)が、各々の両側にある読み出し配列の組み合わせが異なるので、さまざまなフルオロフォアを持つ読み出しプローブを特定の種に関連付けることが可能である。こうして、標的とする細菌種に応じて読み出し塩基配列を選択すれば、その種に対応する読み出しプローブの固有の組み合わせを割り付けることができる。各細菌種は、用いる符号化プローブに依存的に最大10個の読み出しプローブに結合できるので、この系では、個々の種を特定するために、1023種類(210-1)の固有の「視覚的バーコード」を作り出すことが可能だ。細菌の種は、スペクトル画像による観察と、機械学習アルゴリズムを用いた画像における微生物の分類によって同時に識別される。HiPR-FISHは、符号化プローブの塩基配列を蛍光標識しないので安価に合成でき、また必要なフルオロフォアも10種類のみであり、これまでの経済的な制約を回避している。

Shiらは、自動化されたプログラムを用いて高密度の細胞集団を多数の単一細胞として表し、HiPR-FISHによって、マウスの腸試料およびヒト歯垢の口腔微生物試料において個々の細菌の位置と種を特定した。この2つの異なる微生物生態系は両方とも、数百種類の種を含む可能性がある細菌群集の例である。

このように単一細胞レベルのマッピングを用いることで、複雑な細胞集団について、これまで不可能だったレベルで解析を行えることが実証された。これによって、宿主に存在している特定の微生物種間の距離を決定するなど、微生物の空間構成を定量的に研究できるようになった。このような高分解能のデータは、どの微生物同士に相互作用があるのか、そのような相互作用はどこで起こっているのかなど、微生物群集の挙動研究で鍵となる課題の解決に重要である。空間的に近接した微生物間で相互作用することは、理論的には可能である。HiPR-FISHは、複雑な微生物群集における数百の種間の空間的距離をマイクロメートル規模でマッピング可能にし、微生物生態学の研究に新しい時代を開いたのだ。

Shiらは、マウスの腸に常在する異なる細菌種の間の距離を評価し、これらの距離が抗生物質投与後にどのように変化するのか測定した。抗生物質による治療は、腸内細菌の種類と量を変化させることが知られている11。Shiらの観察によれば、抗生物質投与により、最も大きな距離の変化が見られたのは、オシリバクター属(Oscillibacter)細菌とベイロネラ属(Veillonella)細菌の間であった。この2つの細菌はそれぞれ、ヒトの腸の健康に有益な効果を与えると考えられている12,13。これらの細菌が機能的に相互作用するかどうか、またどのように相互作用するかは解明されていない。しかし、抗生物質の投与後、これらの細菌の間の空間的距離が4倍も増加することから、抗生物質により宿主に役立つ相互作用が破壊される可能性が浮かび上がる。このような相互作用を特定し、その基盤となる機構を解明することで、微生物群集が環境の攪乱に応答し、攪乱から回復する仕組みについての理解が深まると考えられる。

今回の研究は、微生物の生物地理学的な面を明らかにし、複雑な生態系における微生物の相互作用を調べるための新しい道筋を示している。次に待ち受ける興味深い課題としては、環境の攪乱が微生物の空間構成を変化させる機構や、空間構成の変化が微生物群集の機能に影響を及ぼす仕組みの解明が挙げられる。例えば、オシリバクター属細菌とベイロネラ属細菌の間の距離が抗生物質への曝露によって広がる仕組みは何だろうか? また、特定の細菌間で空間的に近いことが、抗生物質曝露などの攪乱後に細菌群集を回復させるのに重要なのだろうか?

最後に、この技術を応用して転写応答の空間的構成に利用できれば、細菌種とその機能の空間勾配を明らかにする地図の作成が可能になると考えられる。このような今後の応用は、生命の基本である複雑な微生物群集とその空間的多様性の理解に、まさに変革を起こすだろう。

(翻訳:三谷祐貴子)

Jen NguyenおよびCarolina Tropiniは、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)に所属、Carolina Tropiniはカナダ先端研究機構(カナダ・トロント)にも所属。

参考文献

  1. Stacy, A., McNally, L., Darch, S. E., Brown, S. P. & Whiteley, M. Nature Rev. Microbiol. 14, 93–105 (2016).
  2. Tropini, C., Earle, K. A., Huang, K. C. & Sonnenburg, J. L. Cell Host Microbe 21, 433–442 (2017).
  3. Falkowski, P. G., Fenchel, T. & Delong, E. F. Science 320, 1034–1039 (2008).
  4. Donia, M. S. & Fischbach, M. A. Science 349, 1254766 (2015).
  5. Shi, H. et al. Nature 588, 676–681 (2020).
  6. Moter, A. & Göbel, U. B. J. Microbiol. Methods 41, 85–112 (2000).
  7. Beliveau, B. J. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 115, E2183–E2192 (2018).
  8. Valm, A. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 4152–4157 (2011).
  9. Valm, A. M., Oldenbourg, R. & Borisy, G. G. PLoS ONE 11, e0158495 (2016).
  10. Moffitt, J. R. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 14456–14461 (2016).
  11. Ng, K. M. et al. Cell Host Microbe 26, 650–665 (2019).
  12. Li, J. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, E1306–E1315 (2016).
  13. Scheiman, J. et al. Nature Med. 25, 1104–1109 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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