Editorial

健全な地球における海洋の役割に気付いた各国首脳

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210349

原文:Nature (2020-12-02) | doi: 10.1038/d41586-020-03301-5 | World leaders are waking up to the ocean’s role in a healthy planet

14カ国の首脳が、持続可能な形で海洋生態系を利用するという前例のない約束をした。歓迎すべきことだが、約束を確実に履行させる仕組みの確立が同じくらい大事だ。

ボスポラス海峡に潜り、海洋のプラスチック汚染に注意を喚起するトルコ人ダイバー、シャヒカ・エルジュメン(Şahika Ercümen)。彼女はフリーダイビングの世界記録保持者だ。 | 拡大する

Sebnem Coskun/Anadolu Agency/Getty

2021年は、地球にとって重要なイベントが毎月のように開催される予定になっている。食料と農業、生物多様性、気候の将来に関する重要な会議が、全て当初の予定を1年先延ばしして、2021年に行われる。しかし、ここには、2020年にリスボンで開催される予定だった国連海洋会議が入っていない。それどころか2021年の開催すら予定されていないのだ。

地球表面の71%を占めるocean(海洋)とsea(海)は、世界で最も影響力のある地球環境政策プロセスの一部であまりにも長い間、過小評価されていた。今、その状況が変わりつつある。それを後押しするのが、世界の指導者14人が主導する強力なイニシアチブだ。そして、このイニシアチブにより明らかにされた重要な知見がNature 2020年12月3日号に掲載された。国連が他の多くの国々と共に、より強力な行動を提唱するための準備をしているときであった(研究者、非政府組織、国連は、この地球生態系を「海」ではなく「海洋」と呼び、その連続性を強調している)。

海洋政策が軽視されている理由の1つは、拘束力のある決定を行えるハイレベルの政府間プロセスがないことだ。海洋環境に関する議論が行われるのは、国連の生物多様性条約や気候変動枠組条約の会議に世界の指導者が集まるときだが、優先議題になることは、ほとんどない。

こうした状況を受けて、健全な海洋に対して経済的に依存しているノルウェーとパラオの首相が共同議長となり、カナダ、インドネシア、ケニアなど14カ国の首脳が参加するHigh Level Panel for a Sustainable Ocean Economy(持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル)が2018年に設立された(Nature 同号9ページ参照)。参加各国は、海洋の健全性を保ち、向上させ、人間が海洋環境から得る利益を守るために、さらなる措置を実施することに合意した。このハイレベル・パネルの参加各国は科学的な助言を必要とし、海洋科学のさまざまな分野の研究者を頼って、海の状態と海がもたらす恩恵に関する文献の調査を要請し、その結果を受けて今後の措置を決定することにした。

こうした研究者の成果を報告する論文が、2020年12月3日号のNature や他のNature 関連誌に掲載された(go.nature.com/3kyd0dx参照)。これらの論文には、海洋の健全性が悲惨な状態にあることが記述されている一方で、希望を与える内容にもなっている。もしこれまでより持続可能な形で海洋を管理すれば、生物種や生態系を復活させることが可能となり、さらには、持続可能な食料、エネルギー、物資、生活、そして最終的には地球の安寧の源泉としての、海洋の質を高めることが可能だとされる。

このパネルの研究顧問の共著によるComment(Nature 同号30ページ)に記述されているように、気候変動によって海洋の温暖化と酸性化が起こり、海洋の酸素量が減少した。それに加えて、乱獲によって食物連鎖上の重要な生物種がいなくなり、生物多様性の減少が加速した。さらに、沿岸地帯での持続不可能な産業開発、つまり、これまでより規模の大きな港、ホテル、住宅団地の新設もまた、海洋汚染に拍車をかけている。著者らは記事の中で「こうした脅威の全ては、栄養価の高い食料、雇用、薬物や医薬品を供給し、気候を調節するという海洋の能力をむしばんでいる。その影響を最も受けているのは女性、貧困層、先住民族、若者である」と述べている。

それでも、海洋は、気候変動の緩和に寄与する可能性を秘めている。もしこれまでより持続可能な形で海洋を管理すれば、2015年のパリ協定に定められた目標を達成するために2050年までに必要な排出削減量の6~21%に貢献でき、地球温暖化を産業革命以前のレベルから1.5℃の上昇に抑えられると論文著者は予測している(速報推定値)。

また海洋は、洋上風力発電と波浪発電の強化を通じて、2018年実績の数倍の再生可能エネルギーを供給できる可能性を秘めている。そして、軟体動物や海藻などの食料として普及していない生物の養殖を通じて、食料増産に役立つ可能性もある。

このハイレベル・パネルに参加した各国首脳は、2025年までに自国の国家管轄権内の全海域を持続可能な形で管理することを約束した。この海域には、領海だけでなく、沿岸から370 kmまでの排他的経済水域も含まれる。これらの約束は、科学に基づいた直接的な約束であり、称賛に値し、歓迎すべきだ。しかし、こうした約束が確実に守られるようにするためのプロセスを伴う必要がある。

約束の履行を担保する仕組み

国家元首による約束にモニタリングや説明責任のメカニズムが付随することは、ほとんどない。しかし、国際条約や法律にはこのような仕組みが明記されているからこそ、世界の指導者たちは、生物多様性の保全、気候やその他環境悪化の影響を受ける分野に関する約束の履行あるいは不履行の状況について定期的に報告することが義務付けられる。

次に、モニタリングと説明責任には、成功か失敗かを示す指標が必要だ。研究者と各国の統計当局は、2021年3月に国連統計委員会で採択予定の国際標準SEEA EEA (System of Environmental-Economic Accounting - Experimental Ecosystem Accounting;環境・経済統合勘定-実験的生態勘定)の更新作業を進めている。今回Nature およびNature 関連誌に掲載された研究論文の1つでは、既存の全球海洋データを用いて海洋生態系の状態を測定するための枠組みが提案されている(E. P. Fenichel et al. Nature Sustain. 3, 889-895; 2020)。生物多様性や生態系の適性、海洋の温室効果ガス保有能力の指標などについては、ある程度のコンセンサスが得られている。

より強力な行動への機運は高まっている。国連は、第2次「世界海洋アセスメント」を2021年に出版するための準備をしている。また2021年には、国連の「海洋科学と持続可能な開発の10年」が始動する。国連生物多様性条約については、生物多様性の減少を抑制するための目標を更新する準備が進められていて、沿岸域と海域の保護に関する目標の更新もこの中に含まれている。

ハイレベル・パネルのように世界の指導者たちが先頭に立って行動することは稀であり、持続可能な海洋管理を約束したことは称賛に値する。しかし、政府の考え方は不変ではない。そして、パネルの参加者は、自らの責務を後継者に引き継ぐ日が来ることを知っている。その場合に前任者の方針が継承されることもあれば、されないこともある。私たちもそれを、うんざりするほど見てきた。

だからこそ、合意されたデータに基づいて約束の履行を監視する仕組みが必要なのであり、その仕組みを研究コミュニティーのコンセンサスによって検証しておくことが必要なのだ。研究者は、そうした活動に参加する用意ができている。しかし、このような重要な約束が確実に守られるようにするためには、持続可能な海洋管理のガバナンスの仕組みを持続可能なものにすることが必要だ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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