COVID患者の重症化・死亡に自己抗体が関連か
1型インターフェロンは、ウイルスとの戦いで重要な役割を果たす血中タンパク質だ。このほど、新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)感染後の重症化や死亡には、1型インターフェロンを攻撃する「自己抗体」が大きく絡んでいることが、大規模な国際研究で明らかになった。このような「悪玉」抗体は、ごく一部ではあるが健康な非感染者でも保有している場合があり、その保有率は年齢と共に増加する。高齢者で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高い理由の1つは、これなのかもしれない。この研究結果1をScience Immunology の2021年8月19日号に発表したのは、ロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の免疫学者Jean-Laurent Casanovaらである。この研究チームは2020年10月に、COVID-19の重症患者の約10%が、血中の大量の1型インターフェロンを攻撃して阻害することができる自己抗体を保有していることを発見していた2。今回の結果はそれを裏付ける確かな証拠となる。
エール大学医学部(米国コネチカット州ニューヘイブン)の免疫学者Aaron Ringは、「2020年の最初の報告は、パンデミック下でおそらく最も重要な論文の1つでした。今回の研究では、これらの自己抗体を一般の人々がどのくらいの頻度で保有しているかを詳しく調べています。その結果、驚くほど高い頻度で保有していることが分かったのです」と説明する。
研究チームは、より生理的条件に近い濃度のインターフェロンを中和できる自己抗体の検出に取り組んだ。調査した38カ国のCOVID-19重症患者3595人のうち、全体では13.6%が自己抗体を保有しており、その割合は9.6%(40歳未満)から21%(80歳以上)まで幅があった。また、COVID-19で死亡した患者の18%が自己抗体を保有していた。
Casanovaらは、この「悪玉」抗体はCOVID-19の重症化の結果ではなく、むしろ原因なのではないかと考えた。パンデミック前に採取した健康な人の検体でも、1000人に4人程度の割合で自己抗体が検出されていたからだ2。また、1型インターフェロンの活性を阻害する遺伝子変異がある人は、COVID-19の重症化リスクが高いことも知られていた3,4(2021年9月号「COVIDのリスクに関連する遺伝的バリアントが分かってきた」参照)。
この関連性をさらに詳しく検討するために、研究チームはパンデミック前に採取した約3万5000人の健康な人の血液検体で、自己抗体の有無を調べた。その結果、18~69歳の人の0.18%が1型インターフェロンに対する自己抗体を保有しており、その割合は年齢と共に上昇し、70歳代では1.1%、80歳以上では3.4%が保有していることが分かった。
「保有率は年齢と共に大幅に増加します。高齢者でCOVID-19の重症化リスクが高いのは、そのためかもしれません」とCasanovaは話す。今回の発見は臨床的にも重要で、COVID-19の患者がこれらの自己抗体を保有していないかどうか、また、1型インターフェロンを阻害する変異がないかどうかをチェックすべきだとCasanovaは付け加える。
3万人以上の検体から得られた結果は「無視するには大き過ぎます」とRingは言う。そして、自己抗体が他の感染症に関与していないかどうかも検討する必要があると付け加えて言う。Ringの研究チームは、免疫系のさまざまな構成要素に対する自己抗体をCOVID-19の患者から検出しており5、さらに詳しい検討を進めているところだ。「まだ表面を掘り始めたばかりだと思っています」とRingは話す。
翻訳:藤山与一
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11
DOI: 10.1038/ndigest.2021.211108
原文
Rogue antibodies involved in almost one-fifth of COVID deaths- Nature (2021-08-31) | DOI: 10.1038/d41586-021-02337-5
- Diana Kwon
参考文献
- Bastard, P. et al. Science Immunol. 6, eabl4340 (2021).
- Bastard, P. et al. Science 370, eabd4585 (2020).
- Asano, T. et al. Science Immunol. 6, eabl4348 (2021).
- Zhang, Q. et al. Science 370, eabd4570 (2020).
- Wang, E. Y. et al. Nature 595, 283–288 (2021).