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検査もできる使い捨てマスク — COVID-19対策にうってつけ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211115a

マスク着用と検査は 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の要だが、この2つをまとめて実行するデバイスが登場しそうだ。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(いずれも米国)の研究者が合成生物学の技術を使って、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を正確に検出するマスクを作った。

SARS-CoV-2 のイメージ画像。 | 拡大する

ANDRIY ONUFRIYENKO/MOMENT/GETTY IMAGES

合成生物学では、遺伝子配列を検出するセンサーなどさまざまなデバイスを生物のパーツを使って作る。従来の取り組みはこうしたセンサーに工学的に改変した細菌を使ってきたが、生きている細胞には困難(例えば栄養を与え続けなくてはならない)とバイオハザードの危険が付きまとう。これに対し今回の研究では、遺伝子や酵素など細胞が含む成分を用いてフリーズドライの“細胞なし”回路を作り、これを多孔質の柔軟な素材に載せてウエアラブルデバイスを作る(この研究チームはそうした回路を紙の上に作る方法を2014年に発表していた)。

「今回の重要な進歩は、実験室で使われている技術をウエアラブルデバイスにしたことです」とマサチューセッツ工科大学の生物工学者Xinyue Liu(生物利用センサーを開発しているが、この研究には関与していない)は評する。こうしたツールは現場での簡易検査を可能にするだろう。

標的DNAを探し当てるとマスクが変色

Nature Biotechnology に掲載された今回の論文には、“細胞なしセンサー”をゴムや布、紙の上に加えて、SARS-CoV-2やエボラウイルス、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、神経ガスなどを検出する方法が記述されている。SARS-CoV-2検出マスクに使われるセンサーを含め、いくつかのセンサーはCRISPR技術を用いている。ガイドRNAが標的の配列を探し当ててくっつくと、その核酸を切断する酵素が活性化する。この酵素は近くにある別の核酸も切断し、蛍光タンパク質が遊離して発光する。この手法は多用途の「プログラム可能な」センサーを作ることができるので、ウイルスに変異株が生じても迅速に対応して検出が可能だ。

試作マスクはボタンを押すとセンサーに水が回って働き始め、ウイルスを分解してそのDNAを検出のために増幅する反応がスタートする。例えば入院患者が着用してスイッチを入れると、90分以内に一連の処理が進んでマスクの色が変わる。「呼気は検体を適切な濃度で非侵襲的に採取するのにうってつけで、こうした応用は現在のニーズにぴったりです」と、フライブルク大学(ドイツ)のセンサー専門家Can Dincer(この研究には加わっていない)は言う。

感度は大半の臨床検査と同等だった。「“標準”となるのは現在も実験室ベースのPCR検査ですが、この新検査法でもほぼ満足できます」と、今回の論文の責任著者である生物工学者のJames Collinsは言う。この使い捨てマスクは電源も専門知識も必要なく、通常の室温と湿度で機能する。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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