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ロイシンが重要なシグナル伝達を調節する仕組み

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211135

原文:Nature (2021-08-12) | doi: 10.1038/d41586-021-01943-7 | How the amino acid leucine activates the key cell-growth regulator mTOR

Tibor Vellai

細胞は栄養素を感知することにより、現在置かれている状況に合わせて増殖を調整できる。今回、タンパク質複合体であるmTORC1によって、特定のアミノ酸のレベルに合わせて細胞の増殖を調整できることが明らかになり、特にロイシンを感知してmTORC1が活性化される仕組みがより明確になった。

mTORタンパク質はキナーゼと呼ばれるタイプの酵素であり、mTORC1およびmTORC2という2つの異なる複合体として機能する。mTORC1は、栄養素の利用性や、細胞分裂を促進するホルモン依存性シグナルに応答して、細胞の成長や増殖を促す。このほど北京大学および北京大学–清華大学生命科学研究所(共に中国)のJie Chen(陳杰)ら1は、mTORC1が特定のアミノ酸ロイシンによって調節される仕組みについての手掛かりを、Nature 2021年8月12日号281ページで報告している。

mTORC1の機能は、特定の同化(合成)過程や異化(分解)過程を調節することである。これらの過程には、タンパク質合成、リボソームの形でのタンパク質合成装置の産生、脂質合成、オートファジー(リソソームと呼ばれる細胞小器官が仲介する分解過程2)が関与している。mTORC1の欠損は、がん、神経変性、代謝性疾患、筋萎縮など、さまざまなヒト疾患に関係しているだけでなく、老化過程に関わる変化にも結び付けられる3。このようにmTORC1は、生理学的および臨床的に非常に重要であるにもかかわらず、mTORC1シグナル伝達が上流の調節因子によってどのような影響を受けるかは完全に解明されているわけではない。

アミノ酸の1つであるロイシンは、mTORC1を強力に刺激する。mTORC1を活性化するGATOR2複合体4はセストリン2タンパク質に抑制されているが、ロイシンによりこの抑制効果が遮断されることで、mTORC1が活性化するのだ。このような調節は、細胞の栄養状態(細胞内のアミノ酸レベル)を細胞増殖の制御に結び付けている(図1)。

図1 特定のアミノ酸の細胞内レベルに依存するmTORC1複合体活性化機構
mTORC1複合体は細胞増殖を調節し、その活性はアミノ酸の細胞内利用性によって調節される。Chenら1は、この経路においてSAR1Bタンパク質が機能することを見いだした。
a 細胞内のアミノ酸レベルが低い場合、SAR1Bと他の2つのタンパク質(CASTOR1とセストリン2)は、GATOR2複合体(MIOS、SEH1L、WDR24、SEC13、WDR59のサブユニットタンパク質で構成される)を阻害する。SAR1BはMIOSを阻害し、セストリン2はSEH1Lを阻害する。一方、GATOR1複合体(図ではサブユニット名を示していない)はRagA、RagB、RagC、RagDという酵素を阻害し、また、不活性なmTORC1複合体はリソソームと呼ばれる細胞小器官に誘導されない。
b ロイシン(Leu)の細胞内レベルが高い場合にはSAR1Bとセストリン2が阻害され、アルギニン(Arg)の細胞内レベルが高い場合にはCASTOR1が阻害される。その結果、GATOR2はGATOR1を抑制できるようになり、Rag酵素群の阻害が遮断される。するとRag酵素群はリソソームにmTORC1を誘導し、mTORC1はRhebタンパク質(エネルギーレベルなど細胞の機能面を感知できる)によって活性化される。こうして、細胞内の栄養やエネルギーなどの情報が統合され、条件が適切な場合に増殖が開始する。 | 拡大する

Chenらはまず、哺乳類細胞ではロイシンが別の調節因子であるSAR1Bタンパク質(低分子量GTPアーゼと呼ばれるタイプの酵素)によっても感知されることを示した。彼らは、SAR1B遺伝子の発現が低下すると、細胞がロイシン欠乏を感知しなくなり、mTORC1経路が活性化されることを報告している。SAR1Bは、セストリン2が機能する過程と同様に、ロイシンが存在しないとGATOR2と物理的に相互作用し、GATOR2の機能を抑制する。今回、SAR1Bとセストリン2はGATOR2の異なるサブユニットにそれぞれ結合する、つまり、SAR1BはMIOSタンパク質、セストリン2はSEH1Lタンパク質に結合することが分かった。細胞内のロイシンレベルが十分に高い場合、ロイシンはSAR1Bに結合してそのコンフォメーション変化を引き起こすので、SAR1BがGATOR2から解離する。遊離したGATOR2は、別のタンパク質複合体GATOR1を阻害する。これにより、4つのRag GTPアーゼ酵素5(RagA、RagB、RagC、RagD)がmTORC1をリソソームの表面に誘導できるようになり、酵素Rheb GTPアーゼがリソソーム上でmTORを活性化する(図1)。このように、Rag GTPアーゼに及ぼすGATOR1の阻害機能は、SAR1Bに依存している。SAR1B機能が喪失すると、ロイシンが枯渇した条件下でも、mTORC1はリソソームに局在できる。

次にChenらは、SAR1Bとセストリン2がロイシンと結合する際、ロイシンの構造の異なる部分を認識することを見いだした。これまでの研究から、セストリン2はロイシンのアミノ基とカルボキシル基を認識することが知られている6が、Chenらは今回、SAR1Bはロイシンのアミノ基と側鎖を認識すると報告している。これら2つのロイシンセンサーは、異なる親和性でロイシンに結合する。SAR1Bはセストリン2よりも、高いロイシン結合親和性を持つのだ。こうした特徴によって、細胞内の異なるロイシンレベルでGATOR2から連続的にSAR1Bとセストリン2の解離が促されるという、2段階でのmTORC1活性化が起こるようになる。さらに、細胞内のSAR1Bとセストリン2の相対レベルは、組織によって異なる可能性がある。また細胞内では、一部のSAR1Bはリソソームに局在しているので、ロイシンはGATOR2とリソソームの両方からのSAR1Bの解離を促す。これらの証拠から、SAR1BはGATOR2の調節を介してmTORC1活性を調節する、これまで知られていなかったロイシンセンサーであることが示された。

続いてChenらは、線虫の一種Caenorhabditis elegansにおいて、ヒトのSAR1Bに相当するSAR-1タンパク質を阻害すると、CeTORC1と呼ばれる線虫のmTORC1が栄養の枯渇をGATOR2依存的に感知しなくなることを発見した。そこで、SAR-1産生が起こらない線虫にヒトSAR1B遺伝子を導入すると、CeTORC1の栄養制限に対する感受性が回復した。C. elegansでは、老化におけるCeTORC1の機能と一致して7、長期の飢餓状態下でSAR-1は寿命に影響を及ぼすことも分かった。これらの結果からは、mTORC1の制御を担うSAR1Bの役割が進化的に保存されていることが示唆される。

さらに、mTORC1の活性亢進とがんの間には関連があることと一致して2、Chenらは、肺扁平上皮がんや肺腺がんと呼ばれる肺腫瘍においてSAR1B遺伝子が頻繁に欠失していることを報告している。また、SAR1B欠損ヒト細胞にmTORC1阻害剤であるラパマイシンを加えて培養すると、増殖が有意に抑制されることや、ヒト腫瘍細胞を移植したマウスでSAR1B活性を除去すると、腫瘍の増殖が促進されることも明らかになった。これらの知見は、SAR1Bが抗腫瘍療法の強力な標的になる可能性を示唆している。

以前の研究から、アルギニンは、mTORC1経路を活性化するもう1つの必須アミノ酸であることが示されている8,9(図1)。アルギニンはCASTOR1タンパク質によって感知され、CASTOR1もGATOR2と直接相互作用する8,9。CASTOR1機能が喪失する、あるいはアルギニンが豊富に存在すると、mTORC1の活性化につながる。

このようにロイシンとアルギニンという2つのアミノ酸は、GATOR2を調節する異なる因子によって感知される4,9。このことを考慮した上で、ロイシンとアルギニンがmTORC1シグナル伝達の制御に特異的な役割を持つと考えられる理由は何だろうか?生物では、3つのヌクレオチドが1組みになったトリプレット(コドン)が異なっても同じアミノ酸を指定できる。つまり、遺伝暗号には冗長性がある。メチオニンとトリプトファンはそれぞれ単一のコドンによってコードされるが、他の全てのアミノ酸は複数のコドンによって指定される。興味深いことに、ロイシンとアルギニンは、指定されるコドンの種類が最も多い(合計6種類)3つのアミノ酸のうちの2つである。タンパク質に含まれる特定のアミノ酸の相対的な割合は、そのアミノ酸をコードできるコドンの数の影響を受ける(go.nature.com/36xqd3l参照)。

従って、タンパク質に最も高頻度で使用されるアミノ酸が、細胞増殖の重要な調節因子である、mTORC1の活性を決定するシグナル伝達因子としても機能する系が進化した可能性がある。実際、6種類のコドンによって指定される3つ目のアミノ酸はセリンであり、セリンもまたmTORC1制御に関与しているという証拠がある10。一方、タンパク質にあまり含まれていないアミノ酸の1つであるメチオニンの細胞内レベルは、SAMTORタンパク質によって感知されるが、SAMTORはGATOR1を誘導してmTORC1シグナル伝達を抑制する11

総合的に、これらのデータは、mTORC1活性を調節する調節因子が、タンパク質合成の速度を制限する特定のアミノ酸の細胞内レベルを感知できるというモデルを裏付けている。この戦略を使うことで、細胞は全てのアミノ酸の細胞内レベルを監視しなくても、タンパク質合成で使用頻度が最も高いアミノ酸と最も低いアミノ酸を追跡するだけで十分になったのだろう。こうして、細胞はタンパク質の合成と分解のバランスを維持するための、比較的単純でロバストかつ無駄のない調節ネットワークを進化させ、また運用することが可能になったと考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

エトヴェシュ・ロラーンド大学(ハンガリー・ブダペスト)に所属

参考文献

  1. Chen, J. et al. Nature 596, 281–284 (2021).
  2. Saxton, R. A. & Sabatini, D. M. Cell 168, 960–976 (2017).
  3. Liu, G. Y. & Sabatini, D. M. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 21, 183–203 (2020).
  4. Wolfson, R. L. et al. Science 351, 43–48 (2016).
  5. Bar-Peled, L. et al. Science 340, 1100–1106 (2013).
  6. Saxton, R. A. et al. Science 351, 53–58 (2016).
  7. Vellai, T. et al. Nature 426, 620 (2003).
  8. Saxton, R. A., Chantranupong, L., Knockenhauer, K. E., Schwartz, T. U. & Sabatini, D. M. Nature 536, 229–233 (2016).
  9. Chantranupong, L. et al. Cell 165, 153–164 (2016).
  10. Maddocks, O. D. K. et al. Nature 493, 542–546 (2013).
  11. Gu, X. et al. Science 358, 813–818 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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