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クォーク4個からなるエキゾチックな粒子をLHCで発見

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211104

原文:Nature (2021-08-10) | doi: 10.1038/d41586-021-02174-6 | Exotic four-quark particle spotted at Large Hadron Collider

Davide Castelvecchi

クォーク4個からなる粒子「テトラクォーク」の新種がLHCで発見された。強い相互作用の理論の検証に役立ちそうだ。

LHCの検出器の1つ、LHCb。地下約100mに設けられており、陽子ビームの方向(写真の左右方向)で約20mの大きさがある。2014年9月撮影。 | 拡大する

Harold Cunningham/Contributor/Getty Images

クォーク4個からなるテトラクォークと呼ばれる稀な粒子の新種が、欧州原子核共同研究機関(CERN;スイス・ジュネーブ近郊)にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使って発見され、2021年7月に公表された。このテトラクォークは、そのクォークの構成がこれまでに発見されたテトラクォークとは異なっており、強い相互作用の理解を進めそうだ。

素粒子物理学の現在の標準的理論(標準模型)に登場する粒子群は、物質を構成する粒子と、基本的な力を媒介する粒子であり、6つのフレーバーのクォークとその6つの反粒子、電子や光子などがある。クォークは、4つの基本的な力の1つ、強い相互作用によって1つにまとまる。標準模型は、クォークがハドロン(陽子や中性子など、クォークからできた複合粒子)を形成する際の規則も含んでいる。陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個で、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個でできている。

陽子は、孤立した状態で安定である唯一の既知のハドロンだ。中性子は、原子核の中でのみ安定だ。他のハドロンは、粒子の衝突などで生じるが、全てわずかな時間で崩壊する。LHCは、陽子同士の高エネルギーの正面衝突を起こすことにより、新しい種類のハドロンを作り出している。

シラキュース大学(米国ニューヨーク州)の素粒子物理学者Ivan Polyakovは2021年7月29日、欧州物理学会のオンライン高エネルギー物理学会議で、4個のクォークでできた、これまで知られていなかったハドロンの発見を報告した。彼と理論・実験物理学研究所(ロシア・モスクワ)のVanya Belyaevらは、LHCでの陽子衝突の破片のデータを調べ、Tcc+と呼ばれるテトラクォークのサインを発見したのだ。

クォークカルテット

テトラクォークは非常に変わった粒子だ。通常のハドロンは、3個のクォークでできたバリオン(陽子など)か、クォークと反クォークの対である中間子(パイ中間子など)だ。それ以外はエキゾチックハドロン(異種ハドロン)と呼ばれる。テトラクォークは、クォーク4個(クォーク2個と反クォーク2個)でできている。

テトラクォークは、2003年に高エネルギー加速器研究機構(KEK;茨城県つくば市)で初めて発見され、LHCの検出器の1つ、LHCbもその後、いくつかのテトラクォークを発見した。これまでに発見されたテトラクォークはほとんどが、チャームクォークなどの重いクォークとその反クォークの対(cとcなど)を含んでいた。しかし、今回のTcc+は、重いチャームクォーク2個と軽い反アップクォーク、反ダウンクォークでできていると考えられている(ccud)。重いクォーク2個と軽い反クォーク2個という構成のテトラクォークは、比較的安定で寿命が長い可能性があるとみられていたが、発見されたのは今回が初めてだ。

テトラクォークは、2つの中間子が二原子分子のように緩く結合したもの(ハドロン分子)か、4つのクォークが近距離で密接に結合したものかも議論されてきた。後者であれば、クォークの新しい結合形態になるからだ。これまでに発見されたテトラクォークの多くは、その質量が中間子2個の質量に近く、ハドロン分子の可能性が高いとみられている。しかし、テルアビブ大学(イスラエル)の理論物理学者Marek Karlinerは、今回のテトラクォークは部分的に、密接に結合した本物の4つ組かもしれないと考えている。彼は、Tcc+などの質量を2017年に予測した(M. Karliner and J. L. Rosner Phys. Rev. Lett. 119, 202001; 2017)。このとき、密接に結合した粒子だと仮定して予測したTcc+の質量が、今回の観測結果とほぼ一致したためだという。「今回の粒子の状態は、ハドロン分子の状態と、密接に結合した粒子の状態が混じっている可能性があります」とKarlinerは話す。

新粒子の存在は、非常に明瞭にデータに現れ、Belyaevを驚かせた。彼は「私は当初、これは何かの間違いだと思いました」と話す。新粒子の質量は陽子の約4倍の3875メガ電子ボルト(MeV)だが、その崩壊幅(質量の広がり)は約0.4MeVと非常に狭い。狭い崩壊幅は粒子の寿命が長いことを意味する。Belyaevによると、Tcc+は、LHCの初期の運転年のデータからも発見された可能性があるという。しかし、探すべき粒子は他にもたくさんあったため、今まで見つかっていなかった。

テトラクォークはおそらく、自然界では宇宙の最初の瞬間にのみ存在した。そのとき、あらゆる物質は極めて狭い空間に詰め込まれていたとBelyaevは話す。テトラクォークをもう一度作り出すことは、粒子が強い相互作用でどのように相互作用するかに関する理論の検証に役立つ。

無数の可能性

LHCは全周27kmの円形の加速器で、標準模型に登場する粒子のうち、最後の空席だったヒッグス粒子の存在を2012年に実証したことで有名だ(2012年9月号「ヒッグス粒子の発見と今後」、2013年12月号「ヒッグス機構の提唱者に物理学賞」参照)。しかしLHCは、ハドロンを数十個も発見してきたハドロン発見装置でもある。LHCで発見された新種のハドロンのほとんどはLHCbで発見された。Polyakovが報告した新粒子もその1つだ。

オランダ国立素粒子物理学研究所(Nikhef;アムステルダム)の素粒子物理学者Patrick Koppenburgがまとめている集計によると、今回の発見により、LHCで発見されたハドロンの数は62個になった(「LHCで発見されたハドロン」を参照)。「これらは全て、世界初の発見です」とKoppenburgは話す。

LHCで発見されたハドロン
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、2012年にヒッグス粒子を発見した。しかし、ハドロンと呼ばれる複合粒子もこれまでに62個発見した。この中には、テトラクォーク(4つのクォークからなる粒子)とペンタクォーク(5つのクォークからなる粒子)が含まれる。 | 拡大する

SOURCE: PATRICK KOPPENBURG

新たなハドロンの探索は今後も続くだろう。ハドロンを形成し得るクォークの組み合わせは多い。Karlinerによると、存在する可能性のある、クォーク2個でできたハドロンは50個あり、そのうち1つを除いて観測されている。また、存在する可能性のある、クォーク3つでできたハドロンは75個あり、そのうち50個近くが観測されている。

さらに、クォークの各組み合わせについて、ほとんど無数のより重い「励起状態」が存在し得る。それらは角運動量の大きさなどで区別され、別の粒子として分類される。その多くが実験的に発見され、実際、Koppenburgのカタログの粒子の大多数が励起状態だ。「どれだけ多くの他の状態が、観測データの中に隠れているか、誰にも分かりません」とKoppenburgは話す。彼はPolyakovとBelyaevと同様、LHCbコラボレーションの一員だ。

しかし、Koppenburgは、発見された粒子の全てを別々の粒子として取り扱うべきかについては疑問を抱いている。「粒子とは何なのか、もっといい定義が必要だと思い始めています」と彼は話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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