Editorial

飢餓をなくすには科学研究の重点の置き方を変えねばならない

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210143

原文:Nature (2020-10-12) | doi: 10.1038/d41586-020-02849-6 | Ending hunger: science must stop neglecting smallholder farmers

政策立案者は、飢餓をなくす方策に関する研究を必要としている。しかし、世界の科学文献を検討したところ、ほとんどの研究で、優先事項が間違っていたことが分かった。

ザンビアの小規模農家Imelda Hicoombolwaは、2019年の深刻な干ばつの後、作物を育てるためにWFPから援助を受けている。 | 拡大する

GUILLEM SARTORIO/AFP via Getty Images

飢餓をなくす上で、科学研究はどのように役立つのだろうか。この疑問に答えるための1つの方法は、既に発表された飢餓に関する研究を評価し、どのような介入ならば飢餓に日々苦しむ6億9000万人の生活に効果をもたらせるかを見極めることだ。

これはまさに、Ceres2030という国際的な研究コンソーシアムが行っていることだ1。10万本以上の論文を検討した3年間の努力の結果が2020年10月12〜13日にNature Researchの各誌2に発表された(go.nature.com/3djmppq)。このコンソーシアムの調査結果は、2020年のノーベル平和賞を世界食糧計画(WFP)が受賞することが明らかになってからほんの数日で公表された。この調査結果は意義深い。だが、気掛かりな点もある。

Ceres2030の研究チームは、資金提供者が飢餓問題に取り組む際に役立つ実践的な介入策(10項目)を明らかにしたが、それが記載された文献は、全体のごく一部にすぎなかった。Ceres2030チームのメンバーは、評価対象となった農業研究の論文の圧倒的多数が、特に小規模農家とその家族が直面している課題に対する解決策を提供できていないことを発見したのだ。

WFPは、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をなくす」を2030年までに達成することを目指すなど、飢餓の撲滅に力を尽くしている国連の主要機関だ。

Ceres2030の研究者による文献調査では、小規模農家が農業普及サービス(技術的なアドバイスや情報、アイデアの提供)による支援を受けていれば、新たなアプローチ(具体的には気候変動に強い作物の栽培)を採用する可能性が高くなると結論付けた研究論文が数多く見つかった。

この他にもCeres2030チームの調査では、農家を市場と結び付け、輸送手段や農作物の保管場所の共用ができるようにする組織、例えば、協同組合や自助グループに所属している農家の収入が高いことが明らかになった3。また、生産した農産物を中小企業に非公式に販売できる農家が繁栄することも明らかになった4

一方、Ceres2030チームを驚かせ、悩ませた研究知見が1つあった。それは、飢餓状態にある人々の3分の2が農村部に住んでいるということだ。全世界の約5億7000万カ所の農場のうち、4億7500万カ所以上が2ヘクタール未満の小規模農場だ。農村部の貧困と食糧不安は密接に関連しているが、Ceres2030の研究者たちは、評価した論文の95%以上が小規模農家とその家族のニーズとは関係していないことを明らかにした。さらに、元データを記載した論文はほとんどなかった。Ceres2030チームの調査結果を報告する論文の1 つに「評価対象となった研究の大部分は、研究者のみが関与し、農民が参加していなかった」という特筆すべき記述がある5

なぜ多くの研究者は、小規模農家の参考になる飢餓撲滅に関する実務的な疑問に答えていないのだろうか。その理由は多くの場合、農業研究の助成における優先事項の見直しにさかのぼると考えられる。

ミネソタ大学セントポール校(米国)で科学技術政策を研究しているPhilip Pardeyらの研究によると、過去40年間に、この種の研究に対する資金提供者が民間部門にシフトし、研究資金の半分以上が農業関連企業から提供されている6

小さいことが望まれない

さらに、小規模農家とその家族を対象とした応用研究は、研究者のキャリアにとって直ちに追い風になるわけではない。多くの研究者、とりわけ世界の農業研究センターの連合体である国際農業研究協議グループ(CGIAR)のネットワークに属する研究者の多くは、小規模農家と研究を行っている。しかし、規模の大きな研究集約型の大学では、小さいことが徐々に望まれなくなってきている。大学の研究戦略チームが学内研究者に対し、より多額の助成金を申請することを望む傾向が強まっているからだ。特に、全国レベルの研究評価システムが多額の研究収入をもたらす研究者に報酬を与える方式の場合は、それが顕著である。

出版社も、ある程度の責任を負っている。Ceres2030の共同ディレクターで、コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)のデータ科学者であるJaron Porcielloは、小規模農家に関する研究論文は、学術誌に掲載するのに十分な独創性があり、世界的に有意義で、世界をリードする研究である、と見なされないのかもしれないとNatureに語った。こうした論文が学術誌に温かく迎えてもらえないという問題については、全ての出版社がCeres2030チームの調査結果を踏まえて検討しなければならない。

Ceres2030の共同研究は、このような問題を浮き彫りにした点で高く評価されるべきだ。この共同研究に対しては、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(米国ワシントン州シアトル)とドイツ連邦経済協力開発省が資金を提供している。両者とも、政府間の世界農業食糧安全保障プログラム(GAFSP)への追加資金提供を約束しており、GAFSPにおいて、全世界の資金提供者から受け取った資金を小規模農家に提供している。これは重要なプログラムである。だが、Ceres2030チームの重要な知見、つまり、飢餓に関する大部分の研究は、飢餓を過去のものにするという目標を達成する上でほとんど実用性がない、という点への対処が不十分である。

大学研究者の主要な資金源になっている国の研究機関もまた、Ceres2030チームの研究知見に耳を傾ける必要がある。飢餓をなくすというSDGを達成するには、小規模農家とその家族が関与する研究を現在の10倍に増やす必要がある。小規模農家とその家族のニーズ、ひいては飢餓撲滅への道筋は、あまりにも長い間、なおざりにされてきた。

(翻訳:菊川要)

参考文献

  1. Laborde, D., Porciello, J. & Smaller, C. Ceres2030: Sustainable Solutions to End Hunger (Ceres2030, 2020).
  2. Nature Plants https://doi.org/10.1038/s41477-020-00795-9 (2020).
  3. Bizikova, L. et al. Nature Food https://doi.org/10.1038/s43016-020-00164-x (2020).
  4. Liverpool-Tasie, L. S. O. et al. Nature Sustain. https://doi.org/10.1038/s41893-020-00621-2 (2020).
  5. Stathers, T. et al. Nature Sustain. https://doi.org/10.1038/s41893-020-00622-1 (2020).
  6. Pardey, P. G., Chan-Kang, C., Dehmer, S. P. & Beddow, J. M. Nature 537, 301–303 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度