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謎の三元系材料から現れた室温超伝導

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210107

原文:Nature (2020-10-15) | doi: 10.1038/d41586-020-02895-0 | First room-temperature superconductor excites — and baffles — scientists

Davide Castelvecchi

超伝導転移温度の象徴的な壁が打ち破られ、念願の室温超伝導が実現した。だが、超高圧下という条件がその解析を困難にしている。

ロチェスター大学(米国ニューヨーク州)の超伝導研究室。 | 拡大する

ADAM FENSTER

最高287.7K(約15℃)という極めて高い温度で電気抵抗がゼロになる「謎の材料」が、ロチェスター大学(米国ニューヨーク州)の物理学者Ranga DiasらによってNature 2020年10月15日号373ページで報告された1。超伝導転移温度の記録を大きく塗り替えた今回の成果は、念願の室温超伝導の実現を意味している。しかしながら、この新たな超伝導体には、267GPaという地球の中心部(外核)に相当する極めて高い圧力が必要という重大な欠点がある。また、この材料自体も不明な点が多く、正確な組成すら分かっていないため、すぐに実用化には結び付かないだろう。それでも物理学者たちは、今回の成果がより低い圧力でゼロ抵抗を示す超伝導材料の開発に道を開くと期待している。

超伝導体には、磁気共鳴画像化(MRI)装置から携帯電話の中継塔まで、数多くの技術的応用があり、風力タービン用の高性能発電機での使用に向けた実験も進められている。しかし、一般的な超伝導体は大気圧では絶対零度に近い極低温まで冷却する必要があり、最も優れた銅酸化物超伝導体でも大気圧では133K(−140℃)未満の温度でないと機能しない。このため、超伝導体の使用には大型の冷却装置が必要で、現状では有用性が限られている。室温で機能する超伝導体があれば、例えば電子機器を過熱せずに高速動作させることができ、大きな技術的影響をもたらす可能性がある。

今回の研究1では、高温超伝導の出現を示す十分に説得力のある証拠が提示されているようだと、マックス・プランク化学研究所(ドイツ・マインツ)の物理学者Mikhail Eremetsは語る。それでも、実験の「生データ」はもっと見てみたいと彼は続ける。Eremetsの研究チームは2015年、硫化水素において、約150GPaという高圧下でそれまでで最高の203K(−70℃)という転移温度を観測したことを報告し2、注目を集めた(2015年11月号「硫化水素が最高温度で超伝導に」参照)。Diasらの今回の研究は、この成果に端を発した一連の「高圧下の水素化物における高温超伝導」研究の正当性を証明するものだと、Eremetsは話す。水素化物に関してはその後、2018年に、水素化ランタン化合物が260K(−13℃)で超伝導を示すことが、アルゴンヌ国立研究所(米国イリノイ州レモント)の高圧材料科学者Maddury Somayazuluらによって示されている3

これに対し、今回のDiasらの研究では、水素化物として2種類ではなく3種類の元素(炭素、硫黄、水素)からなる化合物が検討された。こうした三元系において高温超伝導が確認されたのは、これが初めてである。今回の論文の共著者である、ネバダ大学ラスベガス校(米国)の物理学者Ashkan Salamatは、第三の元素の存在によって、今後検討できる元素の組み合わせが大幅に広がったと説明する。「超伝導体の探索において、また1つ新たな道が開かれたのです」。

高圧であっても超高圧までは必要としない超伝導材料なら、すぐにでも使用できるだろうと、Somayazuluは言う。彼によれば、今回の研究は、超伝導体を構成する「第三、第四の元素を賢く選択すれば」原理的には動作圧力を下げられることを示しているという。

今回の研究はまた、2004年にコーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の理論物理学者Neil Ashcroftが発表した「水素を豊富に含む材料を高圧下で金属化すれば、高温超伝導を示す可能性がある」という予測4の正当性を証明するものでもある。「当時、彼のこの予測を真面目に受け止めた人は、高圧科学分野以外ではほとんどいなかったと思います」とSomayazuluは振り返る。

謎の超伝導材料

Diasらは今回、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて研究を行った。彼らはまず、先端面(キュレット)にベベル加工を施した2個のアンビルの間の試料空間に、元素状の炭素と硫黄の混合物を配し、そこに分子状水素を導入した。次に、試料を4GPaに加圧した状態でレーザー光を照射し、化学反応を誘発して、結晶が形成される様子を観察した。DAC内で結晶形成が確認された後に、圧力と温度をさまざまに変えて実験を行ったところ、140〜275GPaという広い圧力範囲にわたって超伝導が発現し、その転移温度は220GPaを超えると急激に上昇することが分かった。転移温度の最高値は、267GPa(大気圧の約264万倍)での287.7K(約15℃)だった。

Diasらはさらに、外部磁場への応答を調べることで、超伝導に特有の「マイスナー効果」も確認した。今回の成果は実に画期的だが、この最新の超伝導材料については不明な点がまだ多いと、研究者たちは注意を促す。「やるべきことはたくさんあります」とEremets。今回の三元系に関しては、結晶の正確な構造はもとより、化学式すら分かっていないのだ。「圧力が高くなるにつれ、試料のサイズは小さくなります」とSalamatは言う。「そのため、構造や組成を決定するための測定が非常に難しいのです」。

水素を含む二元系の高圧超伝導体については理解が進んでおり、炭素と水素と硫黄の高圧混合物についてのコンピューターシミュレーションも既に存在すると、ニューヨーク州立大学バッファロー校(米国)の計算化学者Eva Zurekは説明する。しかし、そうした研究では、今回Diasらが観測した極めて高い転移温度は説明できないと、彼女は言う。「とても興味深い問題です。この論文を目にする多くの理論研究者、そして実験研究者が、きっとすぐに飛びつくことでしょう」。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Snider, E. et al. Nature 586, 373–377 (2020).
  2. Drozdov, A. P., Eremets, M. I., Troyan, I. A., Ksenofontov, V. & Shylin, S. I. Nature 525, 73–76 (2015).
  3. Somayazulu, M. et al. Phys. Rev. Lett. 122, 027001 (2019).
  4. N. W. Ashcroft Phys. Rev. Lett. 92, 187002 (2004).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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