News in Focus

トランプ政権が環境規制を弱める5つのやり口

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200813

原文:Nature (2020-04-28) | doi: 10.1038/d41586-020-01261-4 | Five ways that Trump is undermining environmental protections under the cover of coronavirus

Jeff Tollefson

トランプ米政権は、さまざまな手で米国の環境規制を後退させつつあり、批判が高まっている。

米国オハイオ州の石炭火力発電所。2020年4月撮影。トランプ米政権は同月、発電所からの排出物の規制を弱めかねない政策変更を行った。 | 拡大する

DANE RHYS/BLOOMBERG VIA GETTY

米国のトランプ政権は、自動車の排出ガス規制の基準を緩和した他、科学的データを環境規制の決定に反映する方法を変えるなど、さまざまな手で米国の環境規制を後退させており、産業界の利益を優先していると批判と懸念が高まっている。

2つの後退

2020年3月末、トランプ米政権は、新たに製造される乗用車と小型トラックから排出される二酸化炭素量の基準を、2012年に定められた毎年約5%ずつの削減から毎年1.5%ずつの削減に緩和する計画を最終決定した。燃費は、毎年約5%ずつの向上を年1.5%ずつに緩和する。

米政府は、これにより、自動車会社の開発コストが下がり、新車価格が下落し、販売台数が増え、新しく安全な車の使用によって事故が減るとしている。一方、この緩和により、2029年までに製造される自動車から大気中に放出される二酸化炭素は、約8億6700万t増える可能性があることを米国環境保護庁(EPA)が認めている。

2020年4月中旬、EPAは、発電所の水銀排出基準に関して、基準決定のルールを変更した。水銀排出基準はオバマ前政権で初めて設けられたもので、EPAは既存の規制をそのまま残したものの、基準の根拠になる費用と効果の計算方法を変更した。2012年の規制決定時には、水銀の排出削減に伴って粒子状物質の排出も減ることから、これによる健康面のプラス効果を考慮していた。

この変更は、規制の経済的な正当性を弱める結果になる。テキサス大学オースティン校の政治学者で法律学者のDavid Spenceは、「付随する効果を考慮しないと、規制が費用ばかりかかるものに見えてしまいます」と指摘する。この変更によって、今後、水銀などの規制が弱められる可能性がある。

粒子状物質は据え置き

さらに懸念されるのは、EPA長官のAndrew Wheelerが2020年4月中旬に公表した粒子状物質に関する基準案だと、公衆衛生の専門家は指摘する。粒子状物質濃度基準値の再検討が行われてきたが、EPAは、現在の基準を据え置く案を公表した。

ハーバード大学公衆衛生大学院が米国の公的医療保険データなどを分析した結果、大気中の微小粒子状物質(PM2.5)が大気1m3当たり10µg増加すると、死因を問わない死亡率が約1.07倍になると報告している(Q. Di et al. N. Engl. J. Med. 376, 2513-2522; 2017)。EPA職員が2019年9月にまとめた検討報告書の草稿は、疫学的な証拠などを挙げ、PM2.5の最大許容平均濃度を、現在の大気1m3当たり12µgから9~11µgに引き下げることを提案した。

一方、EPAは2018年10月、この問題について専門家らが話し合うEPAの粒子状物質検討委員会を解散した。委員会のメンバーらは独自に検討グループを発足させ、PM2.5の最大許容平均濃度を8~10µgに引き下げるべきとする報告書を2019年10月に公表した。

ノースカロライナ州立大学(米国同州ローリー)の環境工学者Christopher Freyは、以前はEPAの大気汚染科学諮問委員会の委員長を務め、また、解散した粒子状物質検討委員会の一員だった。Freyは「規制の強化を避けた今回の決定のプロセスは、初めから公害の原因企業の利益を優先していました。独立した立場での科学的な検討はないに等しいものでした」と話す。

政策決定ルールの2つの変更

さらにEPAは、政策決定に関して2つのルール変更案を打ち出し、科学的証拠をどのように使い、評価するかを変えようとしている。その第一は「透明性」ルールだ。EPAは、科学的評価を行い、環境基準を設定する際に、公表されているデータや数理モデルでなければ重視しないか、考慮から外す方針という。

このルール変更によって、公衆衛生に関する研究結果の使用が制限される可能性がある。非公式な健康管理データは公表されていないことが多いからだ。例えば、EPAが粒子状物質の基準を設定するためにこれまで使ってきた疫学研究は、その多くの使用が制限される可能性がある。

2つ目のルール変更案は、水銀排出基準の再検討で行ったように、EPAが環境と公衆衛生に関する規制の費用と効果を評価する方法を変更するもので、現在、ホワイトハウスで検討中だ。この2つのルール変更は、トランプ政権による規制の緩和を正当化し、将来の政権による規制の妨げになる可能性がある。

(翻訳:新庄直樹)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度