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家禽類の祖先が示す現生鳥類の初期進化

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200641

原文:Nature (2020-03-19) | doi: 10.1038/d41586-020-00766-2 | Poultry through time

Kevin Padian

ベルギーで、約6670万年前の新種の化石鳥類のほぼ完全な頭蓋が発見された。家禽類の祖先ともいえる独特な特徴を備えたこの化石は、現生鳥類の出現時期と多様化のタイミングを知る上で、これまでで最も優れた証拠となる。

アステリオルニス・マーストリヒテンシスの想像図
アステリオルニスは体重が約400gと小型で、海辺に生息していたと考えられる(背景で砂浜に打ち上げられているのは海生爬虫類モササウルスの死骸)。 | 拡大する

Phillip Krzeminski

現生の鳥類は、種数が約1万種と素晴らしく多様で、その魅力は尽きない。では、そうした鳥類はいつ出現したのか。その答えは、鳥類をどのように定義するか、化石記録の中でどの種を系統樹の最も基部に位置付けるか、そして鳥類進化に関する古生物学的・遺伝学的な空白をどう説明するかによって変わってくる。今回、ケンブリッジ大学(英国)の進化古生物学者Daniel J. Fieldらによって、ベルギーの6680万〜6670万年前(後期白亜紀マーストリヒチアン期)の地層から、家禽類の祖先ともいえる独特な特徴を持つ新たな化石鳥類のほぼ完全な頭蓋が発見され、Nature 2020年3月19日号397ページで報告された1。この年代は、現生鳥類が出現した時期としてはこれまで知られている中で最も古く、現生鳥類の初期進化における重要な空白を埋める貴重な手掛かりをもたらすとともに、鳥類の多様化のタイミングを推定する遺伝学的な手法に対して有用な制約を与えるものである。

鳥類進化の物語の多くは、先駆的存在である始祖鳥(Archaeopteryx)から始まる。後期ジュラ紀(約1億5000万年前)に現在のドイツで初めて空に飛び立ったとされる始祖鳥2は、必要な羽毛を全て身にまとい、翼を羽ばたかせて飛行していた、広義の鳥類である。だが始祖鳥は、現生鳥類のいずれの分類群に対しても、それらに帰属させるに足る特徴を備えていたとは言い難い。始祖鳥に見られる特徴はあまりに一般的で、後の全ての鳥類の祖先であることは否定しないものの、現生鳥類が確実にこの系統から生じたかどうかを示すものではないからだ。

鳥類のような大きな分類群の中で互いの系統の関係性を検討する際には、進化系統樹(図1)においてそれらを「クラウン群」と「ステム群」に区別する考え方が重要になる3。鳥類の場合、クラウン群は、全ての現生鳥類(巨大なダチョウ類から小型のスズメ類まで、古顎類と新顎類に属する全ての現生種)と、それらの最終共通祖先の全ての子孫(絶滅種を含む)からなる。一方のステム群鳥類は、現生鳥類の外に位置付けられるが、他のどの主要な類縁分類群(恐竜類など)よりも現生鳥類に近縁な全ての絶滅種、すなわち、既知最古の鳥類である始祖鳥とそれ以降の全ての鳥類のうち、クラウン群鳥類を除いたものを指す。注目すべきは、今回Fieldらが報告した化石鳥類が、また別のステム群鳥類なのか、それとも初期のクラウン群鳥類を代表する初めての例なのか、そして、その年代から鳥類進化のタイミングに関して何が分かるのか、ということだ。

現在利用可能な全ての証拠は、鳥類がジュラ紀(約2億100万~1億4500万年前)に「獣脚類」と呼ばれる主に肉食恐竜からなる分類群から進化したこと、そして、少なくとも始祖鳥の存在を考えれば、鳥類の飛行がその頃までにすでに進化していたことを示している2。鳥類系統ではその後、白亜紀(1億4500万~6600万年前)を通して、初期の側枝の数々で進化的な「実験」が何度も繰り返された4。そうした側枝には、エナンティオルニス類、ヘスペロルニス類、イクチオルニス類など、多様な分類群が含まれるが、これらの絶滅鳥類はいずれも現生鳥類に特有の構造的・生理学的特徴を欠くため、クラウン群ではなくステム群鳥類に分類される。ステム群鳥類の成長様式は、小型恐竜において三畳紀(約2億5100万~2億100万年前)以降維持されてきたものによく似ており、その成長速度は骨組織の研究結果に基づき、典型的な爬虫類よりは速いが現生鳥類よりは遅く、成熟には数年を要したことが分かっている5

ところが白亜紀の末期になると、そうしたステム群鳥類の中から、成長速度がはるかに速く、概して1年以内、あるいはさらに短期間で成熟する系統が出現する2,5。これが後にクラウン群鳥類となったのだが、この系統と近縁なステム群鳥類との関係については、一般に化石鳥類が希少でその保存状態が良くないこともあり、いまだ明確になっていない4

この問題は、今回Fieldらによって報告された化石鳥類の重要性を如実に物語っている。現生鳥類の究極の起源を特定するための手掛かりをもたらす化石標本はこれまでにもいくつかあったが、Fieldらの今回の発見は、既知最古のクラウン群鳥類がいつどのように進化したかを示す、これまでで最も優れた証拠だからだ。この化石標本は、ウズラに姿を変えたとされるギリシャ神話の女神アステリアと化石産地の累層名にちなんで「アステリオルニス・マーストリヒテンシス(Asteriornis maastrichtensis)」と命名された。

アステリオルニスの化石標本は、ほぼ完全な頭蓋といくつかの断片的な肢の骨からなる(参考文献1のFig. 1参照)。頭蓋の化石は、保存状態が極めて良好で三次元的構造が保持されており、その解剖学的特徴からは、この化石鳥類がクラウン群鳥類であること、そして、現生のキジ類とカモ類の両方の特徴が組み合わさった前例のない独特な姿をしていたことが明らかになった。Fieldらによると、アステリオルニスは「キジカモ上目」の最終共通祖先の近くに位置付けられるという。キジカモ上目は、ニワトリやウズラからなるキジ目と、アヒルやガチョウからなるカモ目を含む分類群で、これらは「家禽類」と見なすことができる。また、系統発生解析からは、アステリオルニスをキジ目の基部に位置付ける結果が得られたが(図1)、利用可能な情報があまりに少なく断片的なため、不確実性は残る。既知の他の化石鳥類の大半は、現生鳥類の絶滅種か、クラウン群から完全に外れたステム群鳥類のいずれかに分類されている4。そんな中、今回のアステリオルニスは、鳥類系統樹において実に興味深い位置を占めている。クラウン群鳥類で最初に分岐した主要な分類群は平胸類(ダチョウなどの地上性の大型鳥類)だが6,7、アステリオルニスは、そうした系統樹の外側の原始的な枝ではなく、キジカモ類というより内側の進化的な枝に「巣ごもり」していたのだ。

図1 鳥類の系統樹
鳥類は、クラウン群鳥類(全ての現生鳥類、およびそれらの最終共通祖先の全ての子孫)とステム群鳥類に区別される。ステム群鳥類はクラウン群鳥類の外に位置付けられるが、他のどの主要な類縁分類群(恐竜類など)よりもクラウン群鳥類に近縁である。ステム群鳥類には、始祖鳥、エナンティオルニス類、ヘスペロルニス類、イクチオルニス類などが含まれる(これらの化石鳥類には翼はあったが、クラウン群鳥類に特有な特徴の一部が欠けていた)。Fieldら1は今回、「アステリオルニス・マーストリヒテンシス(Asteriornis maastrichtensis)」と名付けた6680万〜6670万年前のクラウン群鳥類の化石について報告した。その形態的特徴と系統解析から、アステリオルニスは系統樹においてカモ目(アヒルやガチョウなど)とキジ目(ニワトリやウズラなど)の近くに位置付けられたが、どちらにより近縁なのかなど、その詳細を決定付けるには至っていない。とはいえ、アステリオルニスの化石からは、カモ類とキジ類、平胸類(ダチョウなどの地上性の大型鳥類)とその他の現生鳥類からなるクラウン群鳥類が、少なくとも6670万年前には出現していたことが明らかになった。アステリオルニスは現在のところ、既知で最古のクラウン群鳥類である。 | 拡大する

では、アステリオルニスの化石の年代からは、鳥類の多様化のタイミングについて何が分かるのか。わずか1個体の情報から多様化の多くを語るのは難しいが、今回の標本の年代は白亜紀の終焉の約70万〜80万年前であることから、クラウン群鳥類が白亜紀の末期にすでに存在したことが分かる。ただし、その出現時期がそれより大きくさかのぼることはないと考えられる。また、アステリオルニスは系統樹の基部に位置することから、後期白亜紀のクラウン群鳥類の多様化は限定的だった可能性や、白亜紀末の大量絶滅事象を生き延びられたのはそれらの一部だった可能性も示唆される。一方で、同地域の同年代の地層からは以前、イクチオルニス様の化石鳥類も見つかっており、これは白亜紀の末期にクラウン群鳥類とステム群鳥類とが共存していたことを意味する。

これらの知見は、現生鳥類の起源と多様化に関する、分子系統解析に基づく従来の推定に修正を加えるものである。これまでの推定では、現生鳥類の分岐年代は古いもので1億3900万年前、新しいもので9500万年前あるいは8900万年前と、研究によって大きな開きがあった。なお、これらはほんの数例にすぎない8-11。もしもこれらの年代があまりに分散していると感じるなら、その解析方法を思い出すといい。分子系統解析では通常、わずか数種類の遺伝子についてDNA配列の変化を調べており、分子の進化速度は比較的一定であるという仮定に基づいている。つまり、こうした間接的な証拠を用いて進化的分岐を解き明かそうという試み自体が、大胆なものなのだ。

古生物学的な証拠が、分子的な証拠よりも「スマート」であるべき理由を考えてみよう。化石標本は、分子に基づく分岐年代推定の極めて重要な検証材料である。例えば、分子系統解析でとある分類群の出現年代が推定された場合、その時間枠の化石にはその分類群だと同定できるだけの形態的特徴があるはずであり、もしも該当年代の化石に期待どおりの新たな進化的証拠が認められなければ、その分子的予測は裏付けを失うことになる。今回Fieldらが報告したアステリオルニスの証拠は、クラウン群鳥類が、白亜紀が終わりに差し掛かっていたときに出現したことを示している。この結果は、クラウン群鳥類の最も古い系統分岐の年代に関する仮説の数々に強力な制約を課すものだが、これで終わりではなく、新たな化石は今後も発見され続けるだろう。

(翻訳:小林盛方)

Kevin Padianは、カリフォルニア大学バークレー校(米国)に所属。

参考文献

  1. Field, D. J., Benito, J., Chen, A., Jagt, J. W. M. & Ksepka, D. T. Nature 579, 397–401 (2020).
  2. Padian, K. & de Ricqles, A. C.R. Palevol 8, 257–280 (2009).
  3. Budd, G. E. & Mann, R. P. Sci. Adv. 6, eaaz1626 (2020).
  4. Chiappe, L. M. & Witmer, L. M. (eds) Mesozoic Birds: Above the Heads of Dinosaurs (Univ. California Press, 2002).
  5. Padian, K., Horner, J. R. & de Ricqles, A. J. Vert. Paleont. 24, 555–571 (2004).
  6. Prum, R. O. et al. Nature 526, 569–573 (2015).
  7. Hackett, S. J. et al. Science 320, 1763–1768 (2008).
  8. Pereira, S. L. & Baker, A. J. Mol. Biol. Evol. 23, 1731–1740 (2006).
  9. van Tuinen, M. & Hedges, S. B. Mol. Biol. Evol. 18, 206–213 (2001).
  10. Jarvis, E. D. et al. Science 346, 1320–1331 (2014).
  11. Cracraft, J. & Claramunt, S. Sci. Adv. 1, e1501005 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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