中性子星の奇妙な核心に迫る
高速で自転する中性子星のコンピューターシミュレーション。中性子星の強力な磁場と電場が、荷電粒子を猛スピードで周回させている。 Credit: NASA’S GODDARD SPACE FLIGHT CENTER
大質量星が超新星爆発を起こして死んでゆくとき、爆発は終わりの始まりにすぎない。星を作っていた物質の大半ははるか彼方まで吹き飛ばされるが、鉄でできた核はその場に残る。核には太陽2個分もの質量が詰め込まれていて、急激に収縮してマンハッタン島(南北方向に約20km)ほどの直径の球体になる。星の内部は、エベレストを角砂糖の大きさにするほどの恐ろしい高圧になっていて、原子を構成する陽子と電子が融合して中性子になっている。
中性子星は天文学者が直接観測できる最も密度の高い物体だ。マンハッタン島と同程度の直径の球に、地球の質量の50万倍の質量が詰まっている。 Credit: NASA's Goddard Space Flight Center
中性子星の誕生について天文学者が知っているのはここまでで、その後、超高密度の核の内部で厳密に何が起こるかについては、いまだに謎のままである。表面から中心まで中性子がほとんどを占めているのではないかと言う研究者もいれば、信じられないほど大きな圧力が物質を圧縮し、異常に潰れて変形した、もっとエキゾチックな粒子や状態を作り出しているという仮説を立てる研究者もいる。
中性子星の謎については、この数十年間は推測するしかなかったが、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられた中性子星内部組成観測装置NICER(Neutron Star Interior Composition Explorer)などを使った近年の研究により、解明に近づきつつある。
NICERは2019年12月に、中性子星の質量と半径をこれまでで最も精密に測定し1,2、その磁場についても予想外の発見をしたと発表した1,3。NICERチームは、数カ月後には他の中性子星の観測結果も公開する予定である。重力波望遠鏡を使った観測からは、中性子星同士が衝突して変形する様子を観測したデータも得られている。研究者らは、これらの観測結果を考え合わせることにより、中性子星の内部を満たす物質の正体に迫ろうとしている。
中性子星研究者の多くにとって、続々と報告される観測結果は、宇宙で最も奇妙な天体の1つに関する研究の転機となるものだ。ゲーテ大学(ドイツ・フランクフルト)の理論物理学者Jürgen Schaffner-Bielichは、「中性子星物理学の黄金時代の始まりです」と言う。
NICER打ち上げの様子。 Credit: NASA/GSFC
6200万ドル(約66億円)の費用を投じて製作され、2017年にスペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられたNICER望遠鏡は、宇宙ステーションの外側に取り付けられて、パルサーから来るX線を集めている(2017年9月号「中性子星の核心に迫るNICER」参照)。パルサーは高速で自転する中性子星で、海を照らす灯台のように、荷電粒子とエネルギーを巨大な円柱状に放射している。X線はパルサー表面のホットスポットから出ている。ホットスポットの温度は100万度で、強力な磁場が星の表面から荷電粒子を剥ぎ取り、反対側の磁極にこれを叩きつけている。
NICERは金で被覆した56台の望遠鏡を使って中性子星からのX線を検出し、その到達時刻を100ナノ秒以内の時間分解能で記録する。この装置を使うことで、研究者は1秒間に1000回近く回転する中性子星のホットスポットを正確に追跡できるようになった。回転する中性子星の表面にあるホットスポットが地球の方を向いたときには、そこからの光は当然検出できる。しかし中性子星は時空を強く曲げるため、NICERは地球の方を向いていないホットスポットから出た光も検出する。アインシュタインの一般相対性理論を使うと、光がどの程度曲がっているかに基づいて星の質量-半径比を計算することができる。つまり、NICERなどによる観測から、天体物理学者は死んだ星の質量と半径を特定できるようになる。星の質量と半径からは、その核で起きていることを解明するのに役立つ情報が得られる。
深く暗い謎
中性子星は深部ほど複雑になる。ほとんど水素とヘリウムからなる薄い大気の下、恒星の残骸は、原子核と自由電子を含む厚さわずか1〜2cmの外殻を持つと考えられている。研究者は、次の層には電離した元素がぎゅうぎゅうに詰め込まれて、内殻の中に格子を形成していると考えている。さらにその下に行くと圧力が猛烈に高くなり、ほとんど全ての陽子が電子と結合して中性子に変わっているが、その先で何が起こるのかはよく分かっていない(「中性子星内部の高密度物質」参照)。
中性子星内部の高密度物質
中性子星の密度は、深い所ほど高くなる。外側の層の組成はよく分かっているが、超高密度の内核の組成は謎に包まれている。 Credit: SOURCE: ADAPTED FROM NASA GODDARD SVS
カリフォルニア州立大学フラトン校(米国)の天体物理学者Jocelyn Readは、「材料を知っていることと、レシピを理解し、材料がどのように相互作用するかを知ることは別なのです」と言う。
地上の粒子加速器のおかげで、物理学者は中性子星の内部で起きていることについて、ある程度の見当をつけてきた。研究者はブルックへブン国立研究所(米国ニューヨーク州アプトン)やCERNの大型ハドロン衝突型加速器(スイス・ジュネーブ近郊)などの施設で、鉛や金などの重イオン同士を衝突させて、超高密度物質の集合を短時間だけ作り出している。しかし、衝突実験で生じるのは10億度、ひいては1兆度の閃光であり、ここまで高温になると陽子と中性子は融解し、その成分であるクォークとグルーオンのスープになってしまっている。中性子星の内部でよく見られる数百万度の比較的温和な条件を地球上の実験施設で作り出すのは、かえって難しいのだ。
中性子星の内部の様子については、仮説がいくつか提案されている。そこではクォークとグルーオンが自由に飛び回っているのかもしれない。あるいは、極端な高エネルギーによりハイペロンと呼ばれる素粒子ができているのかもしれない。ハイペロンは中性子のように3個のクォークからなるバリオンで、中性子がアップクォークとダウンクォークという最も基本的で最もエネルギーの低いクォークからなるのに対して、ハイペロンは少なくとも1個以上の「ストレンジ」クォークを持っている。もう1つの可能性は、中性子星の中心がボース・アインシュタイン凝縮という状態にあり、全ての素粒子が単一の量子力学的な存在のように振る舞っているというものだ。理論家は、さらに奇妙な予想も提案している。
金で被覆された望遠鏡を備えるNICER。 Credit: NASA/GSFC
重要なのは、こうした仮説が提案する機構が、それぞれ特徴的なやり方で中性子星の巨大な重力を押し返していることだ。それぞれの機構は異なる内圧を生み出すため、質量が同じであっても半径が大きくなったり小さくなったりする。例えば、ボース・アインシュタイン凝集体からなる核を持つ中性子星の半径は、中性子のような一般的な物質でできた中性子星の半径よりも小さくなるだろう。柔らかいハイペロン物質からなる核を持っているなら、半径はさらに小さくなるだろう。
NICERチームのメンバーであるアムステルダム大学(オランダ)のAnna Wattsは、「素粒子と、これらの間に働く力の種類が、物質の柔らかさや潰れやすさに影響を及ぼすのです」と言う。
モデル同士の違いを見極めるためには中性子星の大きさと質量を正確に測定する必要があるが、研究者の技術はまだ、最も可能性が高そうなモデルを特定できるほどのレベルには達していない。典型的には、連星になっている中性子星を観測することで質量を見積もる。天体がお互いの周りを回るときには重力によって引き合うため、これを利用して質量を決定できるのだ。すでに約35個の中性子星の質量がこの手法で測定されているが、測定値には太陽の質量ほどの大きさのエラーバーがついていることもある。半径も計算されている中性子星は10個強にすぎないが、多くの場合、こうした手法では数km以内の誤差で決定することはできない。数kmと言ったら、中性子星の半径の5分の1にもなる。
NICERのホットスポット法は、1999年に打ち上げられて今でも運用されている欧州宇宙機関(ESA)のX線観測衛星XMM-ニュートンで用いられてきた。しかし、NICERの感度はXMM-ニュートンの4倍で、分解能は数百倍である。研究チームは今後2、3年でNICERを使ってさらに6個の中性子星の質量と半径を明らかにし、その半径を0.5km以内の誤差で特定したいと考えている。この精度で特定できれば、中性子星の質量と半径(別の言い方をするなら内圧と密度)を関連付ける「状態方程式」を導き出せるようになる。
科学者たちが素晴らしい強運の持ち主で、自然が特別に良いデータを提供してくれれば、NICERでの観測により、現在提案されている方程式のどれかを却下することもできるかもしれない。しかし、ほとんどの物理学者は、謎めいた天体の核で起きていることに関するモデルを絞り込むことができるだけで、完全に否定することはできないだろうと考えている。「それでも、私たちの現状を大きく前進させてくれます」とWattsは言う。
予想外の磁力線
NICERの最初のターゲットとなったのは、うお座のパルサーJ0030+0451だった。これは地球から337パーセク(1100光年)の距離にある単独のパルサーで、1秒間に約200回転している。
アムステルダム大学を中心とするグループ1とメリーランド大学カレッジパーク校(米国)の研究者が率いる別のグループ2は、850時間に及ぶ観測データを独立に調べた後、お互いのチェックを行った。
ホットスポットの光度曲線は非常に複雑であるため、2つのグループはそれぞれスーパーコンピューターを使ってさまざまな構造のモデルを作り、どの構造がデータに最もよく合うかを計算した。その結果、J0030の質量は太陽の1.3または1.4倍、半径は約13kmという、よく似た結果が得られた。

NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab
これらの結果は確定的なものではなく、中性子星の内部に関する常識的な予想と荒唐無稽な予想の両方の裏付けになり得る。テネシー大学(米国ノックスビル)の天体核物理学者Andrew Steinerは、「ファンキーなもの、クレイジーなもの、エキゾチックなものは、まだ必要ありません」と言う。
研究者たちを驚かせたのは、ホットスポットの形状と位置に関する発見だった。中性子星の標準的な理解では、その磁力線は棒磁石の周りにできる磁力線に似た形をしていて、北側の磁力線と南側の磁力線はそれぞれ星の両側にある円形のホットスポットから出ているとされている。これに対して、オランダのチームのスーパーコンピューターによるシミュレーションでは、J0030のホットスポットは2つとも南半球にあり、そのうちの1つは細長い三日月形をしているという結果になった1。メリーランド大学のチームは、南の方に楕円形のものが2つ、南極点付近に円形のものが1つ、合計3つのホットスポットがあるかもしれないとしている3。
こうした可能性を示唆するモデルを作っていた天体物理学・惑星学研究所(フランス・トゥールーズ)の宇宙物理学者Natalie Webbは、「ビームが180度離れていないパルサーが初めて実際に検出された可能性があります」と言う。「本当なら素晴らしいことです」。
今回の結果は、太陽の1兆倍も強い中性子星の磁場が、一般に考えられているよりも複雑であることを示唆する過去の観測や理論を補強するものだ。パルサーは最初に形成されてから数百万年かけて自転速度を落としていくと考えられている。しかし、パルサーの周りを回る伴星があれば、伴星から物質と角運動量を奪い、自転を超高速に加速させることができるかもしれない。一部の理論家は、星の表面に物質が堆積すると、表面下の中性子が液体のようになっている層に影響を及ぼして巨大な渦を発生させ、中性子星の磁場を奇妙な形に歪ませる可能性があると提案している。伴星は最終的に食い尽くされるか、多くの質量を失って重力的な束縛を解かれて飛び去ってしまう可能性がある。現在は単独で存在しているJ0030では、過去にこのようなことがあったのかもしれない。
新しい観測装置
NICERは、J0030の半径の測定精度をさらに向上させるための観測を続けると同時に、第2のターゲットからのデータの解析も始めている。第2のターゲットはやや重いパルサーで、白色矮星の伴星を持っている。このパルサーについては、すでに他の天文学者が、伴星との軌道運動のダンスの観測に基づいて質量を決定しているので、NICERの研究者は独立の測定値との比較によって自分たちの発見を検証することができる。
研究チームは、少なくとも2個の高質量パルサーをNICERのターゲットに入れようとしている。そのうちの1つは、太陽の2.14倍の質量を持つ、現時点で最も質量の大きい中性子星である。研究者はこのパルサーを観測することで、中性子星が崩壊してブラックホールになる上限を探ることができる。理論家にとっては、太陽の2.14倍の質量の天体でさえ、説明するのが難しいのだ。質量がほぼ同じで半径が大きく異なる2つの中性子星をNICERが見つけてくれることを期待する研究者もいる。そのような中性子星は、わずかな違いから2種類の核が生まれる転移点があることを示すものだ。例えば、一方の中性子星はほぼ中性子からなり、他方の中性子星はもっとエキゾチックな物質からできているのかもしれない。
NICERは最先端を走っているが、パルサーの内部を調べている観測装置は他にもある。2017年には、米国のレーザー干渉計重力波観測所(LIGO)とイタリアの重力波検出器Virgoが、2つの中性子星が衝突して合体するときの信号を捉えた(2017年12月号「重力波源を光で観測」参照)4。2つの中性子星は、衝突前はお互いの周りを回っていたが、やがて衝突して、星の大きさや構造に関する情報を含む重力波を放出した。それぞれの星の巨大な重力は、相手の星を引っ張り、球形から涙形へと変形させた。これらの最後の瞬間の歪みの大きさは、物理学者が中性子星の内部の物質の変形しやすさを探るための手掛かりとなる。
ルイジアナ州リビングストンにあるLIGOの施設は、2019年4月にも中性子星の衝突を捉えていて、次のイベントもそのうち検出するだろう。これまでの2回の衝突イベントの観測は、中性子星の内部の様子をかすかにほのめかしている程度であるが、中性子星は特に変形しやすいわけではなさそうだ。しかし、この世代の観測施設では、歪みが最大になり、内部の状態が最も明瞭に見えるようになる、最後の決定的な瞬間を観測することはできない。
日本の重力波望遠鏡KAGRA(かぐら;岐阜県飛騨市)は2020年2月末に観測を開始し、インド重力波観測イニシアチブ(マラスワダ地方アウンダ・ナガナス近郊)は2024年の稼働を予定している。これらをLIGOやVirgoと組み合わせることで感度が向上し、衝突に至る瞬間の詳細まで捉えられるようになるかもしれないと期待されている。
もっと先のことになるが、NICERや現在の重力波観測装置では不可能な観測を可能にするような観測装置も複数計画されている。2027年打ち上げを予定している中国と欧州のeXTP(enhanced X-ray Timing and Polarimetry;増強型X線タイミング・偏光観測衛星)ミッションは、単独星および連星の中性子星を調べて、その状態方程式を決定しようとするものである。研究者たちはまた、2030年代の宇宙ミッションSTROBE-X(Spectroscopic Time-Resolving Observatory for Broadband Energy X-rays;広帯域X線時間分解分光観測衛星)も提案している。このミッションは、NICERのホットスポット技術を用いて、20個以上の中性子星の質量と半径をより正確に突き止めようとするものだ。
おそらく今後も、中性子星の核を巡る謎の全てが解明されることはないだろう。けれども物理学者たちは今、謎解きに着手できるところまで来ているようだ。LIGOチームのメンバーであるReadは、2030年代と2040年代に重力波検出器を使って挑戦できる科学的問題にはどのようなものがあるかを想像するプロジェクトに協力していると言う。彼女はその過程で、中性子星研究を取り巻く状況、特に状態方程式の問題は、その頃には全く違ったものになっているはずだと気付いたという。
「この問題はずっと前からあり、いつまでも残っているだろうと思われていました」と彼女は言う。「けれども今の科学界は、中性子星の構造の謎を10年以内に解決できそうなところまで来ているのです」。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200624
原文
The golden age of neutron-star physics has arrived- Nature (2020-03-05) | DOI: 10.1038/d41586-020-00590-8
- Adam Mann
- Adam Mannは、米国カリフォルニア州オークランドを拠点とするフリーランスのジャーナリスト。
参考文献
- Riley, T. E. et al. Astrophys. J. Lett. 887, L21 (2019).
- Miller, M. C. et al. Astrophys. J. Lett. 887, L24 (2019).
- Bilous, A. V. et al. Astrophys. J. Lett. 887, L23 (2019).
- Abbott, B. P. et al. Phys. Rev. Lett. 119, 161101 (2017).
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