News Scan

ウイルスを検出するDNAの罠

血液の中を流れるデングウイルス(イメージ図)。 Credit: SCIEPRO/SPL/GETTY

デングウイルスを捕まえる罠が作られた。DNA断片を組み合わせた星形の骨組みのような構造物で、血流中のデングウイルスを探し出して正確にくっ付くように作られている。蚊が媒介するこの病原体を検出する強力だが簡便な検査ツールになる。

デング熱は世界で最も急速に広がっている蚊媒介性感染症で、2019年には重大なアウトブレイク(集団発生)が何度も起こった。重症になると内出血が起こり、死亡することもある。広く認められたワクチンも的確な治療法もないため、正確な早期発見が重要だ。

抗原の配置を反映した骨組み

デングウイルスの球状の表面には抗原が散在している。抗原は、ウイルスが感染相手の細胞に付着するために使う特別なタンパク質だ。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の生化学者Xing Wangが率いる研究チームは、DNAナノテクノロジーを使って、デングウイルスの半球表面の抗原の配置を反映した柔軟な骨組みを作った。5つの突端を持つこの「星形DNA」の頂点は、抗原と位置的パターンが一致しており、そうした位置に抗原がつかむ分子を配置してある。複数の付着点があるので、デングウイルスと強く、そして非常に正確に結合するという。この星形DNAが結合するのは、抗原の配置がその特定パターンと一致するウイルスだけだ。星形DNAがウイルスに結合すると蛍光を発し、ウイルスの存在を知らせる。

「これはDNAナノテクノロジーが現実の問題解決に役立つことを示す素晴らしい例です」とマサチューセッツ大学アマースト校(米国)で核酸化学研究グループを率いるMingxu You(この研究には加わっていない)は言う。「現在のデングウイルス検出技術と比べ、このDNAプローブの感度と簡易性は極めて優れています」。

デング熱の検査法として現在最も望ましいとされる方法は、高度な検査装置と訓練を必要とする。これに対しWangは、「私たちの方法は非常にシンプルです。1回の検査が1~2分で済み、費用はわずか50セントです」と言う。彼らは、今回の方法が現在の臨床検査法と比較して感度と正確さの両方に優れることを示し、Nature Chemistry に1月に発表した。この方法は、症状が表れる前にデングウイルスを検出できる上、このDNAナノ構造は、毒性がなくヒトの組織に優しいという。

他のウイルスや細菌にも応用可能

デングウイルス表面の抗体パターンは複雑なので、DNA ナノ構造もそれに合わせて幾何学的に複雑な形にする必要があったが、もっと単純なウイルスであれば、DNA ナノ構造も単純な形で済むだろうとWangは言う。

彼は現在、米国ノースカロライナ州にあるアトムバイオワークス社の最高経営責任者Sherwood Yaoと共同で、今回の手法をジカ熱やインフルエンザなど他のウイルスに拡張しようとしている。

さらに細菌やがん細胞の検出も視野に入れている。Yaoは人工知能(AI)に詳しく、今回の手法が用いているパターン認識法がAIの顔認識技術に匹敵すると考えて興味を持った。Yaoは、この技術が「生物学にプログラム可能なインターフェース」を提供しているという。

「病原体の検出だけでなく、それを阻害するための基本的な手段になる可能性があります」。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200519a