News & Views

V(D)J組換えとクラススイッチを支配するのは1つの環

Credit: selvanegra/iStock /Getty Images Plus/GETTY

疾患を引き起こす可能性のある多数の病原体に遭遇した際に、それらと闘う我々の能力は組換えと呼ばれる過程に依存している。組換えはさまざまな方法で生じ、DNA配列を操作することで、我々の体の免疫系の認識を担う構成要素である抗体とT細胞受容体(TCR)の膨大な多様性を生み出すことができる。このほどボストン小児病院、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)およびハワード・ヒューズ医学研究所のFrederick W. Altが率いる研究チームは、B細胞受容体のV(D)J組換えと抗体のクラススイッチ組換えの事象の仕組みに予想外の類似性があることを明らかにし、Nature 2019年9月26日号600ページ(Yu Zhangら1)とNature 2019年11月14日号385ページ(Xuefei Zhangら2)で報告した。

免疫系の発達中の細胞では、V(variable)、D(diversity)、J(joining)と呼ばれる3つのクラスの遺伝子断片の大規模なプールを用いて、V(D)J組換えと呼ばれる過程によってDNA配列が再編成されて、抗体やTCRをコードする遺伝子が組み立てられる。これらの遺伝子断片には、組換えシグナル配列(RSS)と呼ばれる進化的に保存されたDNA配列が隣接していて、酵素RAG(recombination activating gene)はRSSの指示により、V断片の1つとJ断片の1つ、場合によってはD断片の1つを、驚異的ともいえる多様な組み合わせで結合する(通常、生じた結合断片の間に介在していたDNAは欠失するが、2つの遺伝子断片が結合する際に欠失が起こらず、逆位になり保持される稀な場合がある)。V(D)J組換えの過程により、抗体やTCRは、抗原と呼ばれるタンパク質断片を認識する可変領域(多様性に富むタンパク質ドメイン)を持つことができるのだ。抗原を認識する領域に、このような多様性があることで、免疫系は疾患の原因となるさまざまな病原体に効果的に応答できる。

抗体をコードする遺伝子には、抗体の抗原認識能力を高めるために、体細胞点変異(DNAの単一ヌクレオチド塩基を変化させる変異)というさらなる改良が加えられることがある。また、これらの遺伝子のDNAは、抗体のクラススイッチ組換え(CSR)と呼ばれる一連の変化を経ることもできる。CSRは、抗原を認識する可変領域は変化させずに、抗体の定常領域を変化させる組換えであり、これにより抗体は、粘膜表面に結合する能力や感染と闘う他の免疫細胞を助ける能力など、さまざまなエフェクター機能を獲得する。

V(D)J組換えはRAGによって開始するが、抗体をコードする塩基配列の体細胞点変異やCSRは、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)と呼ばれる、DNAに変異を誘導する酵素によって開始する。RAGやAIDはゲノムに広範な変化を引き起こす可能性を持つ危険な酵素であるため、その作用の標的は、DNAの変化を宿主の防御に利用できる塩基配列に限定する必要がある。

DNAとタンパク質の複合体であるクロマチンは、さまざまなサイズの数千のループを形成することで、ヒト細胞の核内に密に詰め込まれており、ループの基部はコヒーシンと呼ばれる環状構造のタンパク質複合体によって係留されている3。これらのループは、コヒーシンの分子モーター構成要素がコヒーシン環を介してクロマチンを積極的に突出させることで形成される。ループ突出が妨げられるのは、おそらくクロマチンが「障害物」に到達した場合で、典型的にはDNAにCTCFタンパク質が結合しているクロマチンがコヒーシン環に入る前あるいは入った際に突出が妨げられる。コヒーシン依存性の大きなループ突出により、クロマチンはTAD(topologically associated domain)として知られる個別の領域に分けられ、またより小さなループ突出により、直鎖状のDNA塩基配列では離れた場所に位置するエンハンサーやプロモーターなどの調節塩基配列が並置されることで遺伝子発現が促される。Zhangらの研究1,2は、クロマチンループの突出がV(D)J組換えとCSRの両方の制御の基礎にもなっていることを示した(図1)。

図1 DNAループ突出は、クラススイッチ組換えと呼ばれる過程を支えている
Zhang ら2は、異なる機能を持つ抗体の産生に役立つ「クラススイッチ組換え(CSR)」と呼ばれるDNA再編成が、コヒーシンタンパク質複合体によって形成される環を介した「DNAの突出」に依存していることを報告した(突出DNAはクロマチンと呼ばれるDNA-タンパク質複合体の形で存在しているが、ここでは示していない)。
a この過程の際には、酵素AIDが、抗体をコードする遺伝子上のスイッチ領域(Sµ)に結合する。これにより、DNAの一部に変異、続いて切断(黒色の星)が生じる。コヒーシンのモーター構成要素は、コヒーシン環を介してDNA突出(矢印)を引き起こす。
b これによって、AIDによるDNA変異と切断が生じた2つの抗体スイッチ領域(Sµ およびSγ)の並置が可能になる。
c これに続いて、この2つのスイッチ領域の結合(組換え)が起こり、コードされた抗体のクラスが切り替わる。組換えの過程で介在DNAは染色体から欠失する。コヒーシン環を介したDNA突出は、遺伝子発現の調節や、免疫系細胞のV(D)J組換えと呼ばれる別のタイプの組換え過程の基礎にもなっていることが、Zhangら1によって明らかになった。

V(D)J組換えの際に、RAGは、抗体あるいはTCRをコードするJ遺伝子を含む小さな染色体領域に高レベルで蓄積する、修飾されたDNA結合ヒストンタンパク質に誘導される。これによりVDJ組換え中心が作り出され4、そこでRAGはJ遺伝子断片に隣接するRSSモチーフに結合する。次に、RAGは染色体の残りの部分を染色体に沿って直線的にスキャンし、より離れた場所にある別の遺伝子断片のRSSを見つけ出す5。対になる相補的な2つのRSSが並置すると、RAGはDNAを切断して、これら2つのRSS間の組換えを開始する。RAGはVDJ組換え中心に係留されているため、このクロマチンスキャン過程でDNAが移動する仕組みは分かっていなかった。

Zhangら1は、このDNAの移動をクロマチンループ突出によって説明できるかもしれないと考えた。このモデルでは、コヒーシンが、RSSに結合したRAGを含むVDJ組換え中心に組み立てられた後に、コヒーシン環を介してDNAを「巻き上げ」ることで、おそらくループ内に存在するRSSが、RAGに結合した対になる相補的なRSSを見つけて、組換えが起こる(引用文献1のSupplementary Video 1参照)。このモデルは、Zhangらの実験によって裏付けられていて、コヒーシン環を介したDNAの移動を阻止すると、組換え事象に偏りが生じ、DNAの移動が妨げられた部位の近くのRSSを標的とした組換えが促進されることが実証されている。このモデルで示された方向性のあるDNAスキャン機構により、V(D)J組換えの際には「逆位事象よりも欠失事象が圧倒的に多く生じる」という長年の難問を説明できることも重要だ。Altが率いる研究チームはこれまでの研究6で、コヒーシン結合エレメント(特定の抗体のV遺伝子断片に隣接するDNAモチーフ)が、DNA再編成パターンと、その結果として生じる抗体のレパートリーの主要な決定要因であることを実証していた。これに加えて今回、クロマチンループ突出がV(D)J組換えを支えるという説得力のあるモデルを示した。

CSRは、V(D)J組換えの過程と概念的には似ているが、機能する酵素は異なっている。Zhangら2はまた、コヒーシンが駆動するDNAループ突出がCSRの基礎にもなっているかどうかを調べた。CSRの際には、AIDが、抗体をコードする遺伝子の特定の「スイッチ領域」のDNAのヌクレオチド塩基に複数の点変異を導入し、これが最終的にはDNA切断につながる7。RAGによるDNA切断が1対の相補的なRSSの組み立てに依存しているV(D)J組換えとは異なり、AIDは個々のDNA部位に変異を生じさせ、これがスイッチ領域の並置の前後でのDNA切断につながることで、その後、組換えが起こる7

Zhangらは、VDJ組換え中心で起こる事象と同様に、抗体をコードする遺伝子にある1つの特定のスイッチ領域(Sµと呼ばれる)上にCSR中心が形成されると提案している。彼らはこれまでの研究7では、クラススイッチの際にDNAの並置につながる機構としては拡散を支持していたが、今回の研究では、コヒーシンを基盤とするループ突出が2つのスイッチ領域を並置させることで組換えが可能になるという考えを裏付ける結果を示した(図1)。従って、これら2つの研究は、V(D)J組換えとCSRには統一モデルが存在するという説得力のある証拠を示している。また、クロマチン構造の動的な調節を基盤として、ループ突出が遺伝子発現の調節にも結び付けられた。

このモデルは、検討可能な予測を示し、多くの疑問を浮かび上がらせた。例えば、コヒーシンがVDJやCSRの組換え中心に誘導される仕組みはどのようなものだろうか? 特定の細胞系譜においてコヒーシンを枯渇させると、V(D)J組換えの異常が引き起こされ8、また、コヒーシンを欠損させると染色体にはあらゆるループが見られなくなる9。しかし、このような変化がCSRに及ぼす影響については分かっていない。

ループ突出はDNAにねじり応力を生じさせ10、コヒーシンは酵素であるトポイソメラーゼIIBを誘導して、一過性にDNA切断を起こすことでこの応力を軽減する10。従って、DNAを巻き上げることで、遺伝子発現を調節する、あるいは組換えを基盤とする免疫多様化を可能にするという仕組みは、染色体転座と呼ばれる染色体異常を引き起こし、がんにつながる可能性がある。DNAループ自体と同様に、染色体構造の役割についてのこれらの手掛かりは、これまで別領域と考えられていた学問分野間についても、つながりを明らかにするのに役立つ可能性がある。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200239

原文

One ring to rule them out
  • Nature (2019-11-14) | DOI: 10.1038/d41586-019-03200-4
  • Ferenc Livak & André Nussenzweig
  • Ferenc Livak & André Nussenzweigは、国立衛生研究所(米国メリーランド州ベセスダ)に所属。

参考文献

  1. Zhang, Y. et al. Nature 573, 600–604 (2019).
  2. Zhang, X. et al. Nature 575, 385–389 (2019).
  3. Rao, S. S. et al. Cell 159, 1665–1680 (2014).
  4. Ji, Y. et al. Cell 141, 419–431 (2010).
  5. Hu, J. et al. Cell 163, 947–959 (2015).
  6. Jain, S., Ba, Z., Zhang, Y., Dai, H. Q. & Alt, F. W. Cell 174, 102–116 (2018).
  7. Dong, J. et al. Nature 525, 134–139 (2015).
  8. Seitan, V. C. et al. Nature 476, 467–471 (2011).
  9. Rao, S. S. P. et al. Cell 171, 305–320 (2017).
  10. Canela, A. et al. Cell 170, 507–521 (2017).