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C型肝炎ウイルス発見の陰の貢献者

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201203

原文:Nature (2020-10-19) | doi: 10.1038/d41586-020-02932-y | The unsung heroes of the Nobel-winning hepatitis C discovery

Heidi Ledford

この致死性ウイルスの同定を成し遂げたのは、固く結束した3人の科学者のチームだった。だが、ノーベル賞を授与されたのは1人のメンバーだけだった。

C型肝炎ウイルスの透過型電子顕微鏡画像。 | 拡大する

BSIP/Universal Images Group via Getty Images

ウイルス学者のQui-Lim Choo(朱桂霖)は、1980年代の大半を週7日、午前8時から午後11時まで研究に捧げていた。しかし、研究は順調とは言い難かった。輸血用の血液を汚染する致死性ウイルスを2人の同僚と共に追い求めていたが、探索は行き詰まっていた。ウイルスの検査手段がない現状が続けば続くほど、さらに多くの人々が感染してしまう。

同僚研究者のGeorge Ching-Hung Kuo(郭勁宏)も、当時は深夜の帰宅が続いた。だが、2人は口をそろえて、それは人生で最高の時代だったと言っている。「いろいろと苦労もしましたし、本当によく働いた。でも、毎日がとても充実していました」とChooは話す。ついに探索は成功し、チームはC型肝炎ウイルス(HCV)を同定することができた。この発見は、輸血用の血液に混入したHCVのスクリーニング検査法と、感染者の大部分を治癒に導く治療薬の開発につながった。

2020年10月5日、彼らの研究プロジェクトの責任者だったマイケル・ホートン(Michael Houghton)が、HCVの発見でノーベル医学・生理学賞を受賞した。しかし、ChooとKuoは受賞者として名を連ねることはできなかった。ホートン自身、HCVの研究に対する同僚2人の貢献を認めてほしいと以前から主張してきた。「賞をもらうたびに、発見全体の価値がちょっと傷つけられたような気持ちになるんですよ」とホートンは言う。

塩基配列のスクリーニング

ホートンは1982年、バイオテクノロジー企業のカイロン社(米国カリフォルニア州エメリービル)でウイルスの探索を開始した。当時の米国では輸血用血液の3バッグに1バッグは、現在ではC型肝炎ウイルスとして知られているウイルスに汚染されていた。輸血で感染した患者が治療を受けないままでいると、ウイルスが肝臓を傷つけて肝臓がんの原因となることがある。病原体の正体はまだ知られておらず、科学者たちはこの感染症を「非A非B型肝炎」と呼んでいた。

DNAを簡単に増幅する手段がまだ存在しなかった時代である。2020年の初めに重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)に対して行われたように、新しいウイルスが出現してから数週間以内にそのゲノム塩基配列を決定するようなことは想像すらできなかった。感染したチンパンジーと感染していないチンパンジーからの検体を用いて、ホートンはウイルス由来の核酸のスクリーニングを開始した。Chooは1984年にホートンの研究室に加わり、2人は友人となった。血液中の病原体の探索は大変な作業で、数千万もの塩基配列をスクリーニングしたにもかかわらず、何の成果も得られない状況が何年も続いた。

ホートン研の隣の研究室では、1981年にカイロン社に入社したKuoが腫瘍壊死因子と呼ばれるタンパク質の研究プロジェクトを進めていた。ある日、研究の行き詰まりに悩んでいたChooを間近で見ていたKuoは、方針を変える必要があるのではないかと助言した。そして、感染したチンパンジーの検体からRNAの断片を分離し、その断片を細菌で発現させて増幅することを提案した。そうすれば感染者の血液から得た抗体を使って、これらの「ライブラリー」をスクリーニングすることができる。

3人は昼も夜もなく働いた。ホートンは感染者の血清からライブラリーを作製するために、検体を超遠心分離機にかけて遠心管の底に溜まった糊状のペレットとしてDNAとRNAを分離していた。ある日、処理がうまくいかなかったことがあった。「何かいつもとは違う油状の核酸抽出物が得られたのです」と彼は言う。研究助手はそれを流し台に捨ててしまおうとしたが、ホートンはとにかく使ってみることにした。Chooが大発見をしたのはそれから間もなくのことだった。油状の抽出物からホートンが作製したライブラリーの中に、ウイルス由来のものと思われる核酸の断片を見つけたのだ。研究チームはその断片の塩基配列に隣接する配列をウイルスゲノムから探し出し、最終的に一連の塩基配列を決定することに成功した。

その情報を利用してKuoは血液で感染の有無をスクリーニングできる検査法を考案した1, 2。彼らの発見は治療への道をも開き、2014年には9割以上の患者を治癒させることができる治療薬を米国食品医薬品局が承認した。

C型肝炎ウイルスの発見に陰で貢献した科学者たちも、権威ある賞をいくつも受賞している。多くの賞がホートンに対して与えられているが、いくつかの賞を受賞する際、彼はChooとKuoも共同受賞すべきだと主張してきた(註:ChooとKuoが共同受賞者とならなかったことを理由に、ホートンは2013年のガードナー国際賞を辞退している)。

ノーベル賞がC型肝炎ウイルスの発見に贈られるというニュースが流れたときは「すごく嬉しかった」とChooは語る。「私の『子ども』なんですから、とても誇りに思います。そう思わずにはいられませんよ」。一方のKuoは、受賞者が3人までと決まっていることを正直、残念に思ったと言う。しかし、賞をもらうのを目標にしたことは一度たりともなかったと話す。「世界中の人たちの役に立ちたいという思いがモチベーションになっていたんです」とKuoは言う。

(翻訳:藤山与一)

参考文献

  1. Choo, Q.-L. et al. Science 244, 359–362 (1989).
  2. Kuo, G. et al. Science 244, 362–364 (1989).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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