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NASAの探査車「パーサビアランス」が火星へ

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201106

原文:Nature (2020-07-30) | doi: 10.1038/d41586-020-02257-w | NASA has launched the most ambitious Mars rover ever built: here’s what happens next

Alexandra Witze

現在火星に向かっているNASAの探査車「パーサビアランス」は、将来、別の探査機に持ち帰らせるための火星の岩石試料を密封して保存する他、火星の音を初めて人類に届ける予定だ。

米国フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地からアトラスVロケットで打ち上げられるNASAの火星探査車「パーサビアランス」。 | 拡大する

JOEL KOWSKY/NASA

これまでに打ち上げられた火星探査車の中で最も大きく、最も複雑な探査車が、現在、火星に向かって飛行中だ。アトラスVロケットに積み込まれたNASAの火星探査車「パーサビアランス(Perseverance)」は、2020年7月30日の午前7時50分(現地時間)にフロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げられた。パーサビアランスは、火星から史上初めて地球に持ち帰るための岩石試料の収集を行う他、古代の地球外生命の痕跡を探し、火星で初めてヘリコプターを飛ばし、マイクを使って火星の音を捉えることにも初挑戦する。

パーサビアランスは、2020年7月に地球を出発した火星探査機としては3基目である。7月20日にはアラブ首長国連邦(UAE)の火星周回機「ホープ(Hope)」が、同23日には中国の火星周回機と探査車からなる「天問1号」が打ち上げられた。わずか10日の間に3基の火星探査機が相次いで打ち上げられたのは、地球と火星の軌道上の位置関係が良く、少ない燃料で効率よく火星に到達できる時期だからである。

27億ドル(約2800億円)の費用を投じて建造されたパーサビアランスはプルトニウム原子力電池を搭載しており、重さは1025kgである。打ち上げから約7カ月間宇宙を旅した後、2021年2月18日に火星のイェゼロ・クレーターに着陸することを目指している。無事に着陸できれば、はるか昔に川が湖に流れ込んでいた、もしかすると生命が棲んでいたかもしれない場所を、少なくとも1火星年(地球の約2年)探査する。

探査機「パーサビアランス」が転倒しそうな場所がないか調べるヘリコプター「インジェニュイティー」。 | 拡大する

NASA/JPL-Caltech

パーサビアランスは川床や湖岸で化石化した生命体の痕跡を探すだけでなく、宇宙飛行士が火星の大気を利用して酸素を作り出すことが可能かどうかも検証する。しかし最も重要な使命は、火星の岩石や土を筒状の容器に詰めて、将来、別の探査機が地球に持ち帰ることができるようにすることだ。それが実現すれば、初の火星からのサンプルリターンとなる(2017年4月号「火星の石を持ち帰れ!」参照)。

月惑星研究所(米国テキサス州ヒューストン)の宇宙生物学者Kennda Lynchは、「パーサビアランスは私たちのためにいろいろ働いてくれるのです」と言う。

パーサビアランスは、火星に2012年に着陸したNASAの探査車「キュリオシティー(Curiosity)」の改良版だ(2012年10月号「火星探査ローバー『キュリオシティー』が無事に着陸!」参照)。キュリオシティーが大気圏に突入してから着陸するまでの7分間の動作は、当時、世界中の人々をハラハラさせた。パーサビアランスは、約5億kmの旅の後、時速約1万9500kmで火星の大気圏に突入する。それからパラシュートを展開し、キュリオシティーが使用したものと同様の「スカイクレーン」システムで逆推進ロケットを噴射して減速し、徐々に地表に近づいていく。キュリオシティーとは異なり、パーサビアランスには大きな岩などの障害物を検知して安全な場所に誘導する自動操縦システムが搭載されている。

パーサビアランスが火星に着陸したら、全てのシステムが正常に動作するかどうか、地球にいる技術者が遠隔操作で確認する。この作業には90日前後かかるので、探査車が6個の車輪で本格的に動き出すのはおそらく2021年5月に入ってからになる。探査する場所は、キュリオシティーの着陸地点から約3750km離れたイェゼロ・クレーターである。

パーサビアランスの着陸予定地である、火星のイェゼロ・クレーター。 | 拡大する

NASA/JPL-Caltech/MSSS/JHU-APL/ESA

イェゼロ(Jezero)とはスラブ系の言葉で「湖」を意味する。今から38億年以上前、直径45kmのクレーターに川が注ぎ込み、水で満たされて湖になった1。NASAの火星周回機「マーズ・リコネッサンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter)」が撮影した画像は、このクレーターの縁に沿って炭酸塩鉱物が沈殿し、固まって岩になったことを示唆している2。これは非常に興味深い。地球上の古代の炭酸塩岩からは、ストロマトライトと呼ばれる細菌マットの化石など、最も古い時代の生命の証拠がいくつか見つかっているからだ3

火星に生命がいたとしたら、イェゼロ・クレーターの炭酸塩は、それを探すのにうってつけの場所だ。このミッションに従事するマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の地質生物学者Tanja Bosakは、「この場所のような環境が探査されたことはまだありません」と言う。生命の証拠は化石として見つかるかもしれないし、かつて炭酸塩の中で生きていた生物の化学的・地質学的痕跡の形で見つかるかもしれない。

多様な観測機器

パーサビアランスは野外地質学者のように多くの観測機器を搭載しているだけでなく、国際性にも富んでいる。観測機器には、競技場の反対側にいるハエを見ることができる1対のズーム機能付きカメラ、スペイン製の気象観測装置、火星の地下の土や岩石の層をスキャンするノルウェー製のレーダーの他、キュリオシティーに搭載されていたものの改良版で、岩石の化学組成を調べるためのレーザー装置などがある。元宇宙飛行士で、2012〜16年までNASAの科学部門を率いてパーサビアランスの開発を指揮したJohn Grunsfeldは、「岩石にレーザーを照射するカメラが好きじゃない人なんて、いないでしょう?」と言う。

2台のマイクを搭載している点でもパーサビアランスは先駆的だ。マイクは火星に吹く風の音などを初めて人類に聴かせてくれるだけでなく、モーターや車輪に技術的な問題が生じたときに音で確認できるという利点があるとGrunsfeldは言う。搭載している重さ1.8kgのヘリコプター「インジェニュイティー(Ingenuity)」を展開して、あらかじめ進路を偵察させることもできる。このミッションが成功すれば、インジェニュイティーは地球以外の惑星で制御飛行を行った最初の航空機となる。

地球への帰還

観測機器の中で最も重要な役割を担うのはロボットアームだ。ロボットアームは、調べたい岩石の所まで伸びていって間近から観察し、ドリルで穴を開けて試料を採取し、探査車の腹側の筒状の容器にそれを詰めることができる。試料はそのまま火星で保管され、将来、別の探査機が容器を回収しに来る日を待つことになる。地球に持ち帰ることができれば、最先端の分析装置を使って調べることができるだろう。NASAと欧州宇宙機関(ESA)は2031年までにこれらの岩石を地球に持ち帰りたいとしているが、必要な資金のほんの一部しか確保できていない。

「試料を持ち帰ることで、初めて火星への往復を成し遂げたことになります」とGrunsfeldは言う。「これは重要なことです。試料を持ち帰ることは、有人宇宙飛行のメタファーなのです。火星に行く宇宙飛行士のほとんどは、地球に戻ってきたいと思うはずです」。

長期的な火星探査に向けた第一歩として、パーサビアランスは搭載している装置の1つを使い、火星の大気の主成分である二酸化炭素から酸素を作ってみることになっている。将来火星を訪れる宇宙飛行士も、同じ方法で、呼吸するための酸素や、地球に帰るためのロケット燃料となる酸素を製造できるかもしれない。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Goudge, T. A., Mustard, J. F., Head, J. W., Fassett, C. I. & Wiseman, S. M. J. Geophys. Res. Planets 120, 775–808 (2015).
  2. Horgan, B. H. N., Anderson, R. B., Dromart, G., Amador, E. S. & Rice, M. S. Icarus 339, 113526 (2020).
  3. Allwood, A. C., Walter, M. R., Kamber, B. S., Marshall, C. P. & Burch, I. W. Nature 441, 714–718 (2006).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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