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タンパク質分解誘導薬の適用範囲が広がった

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201136

原文:Nature (2020-08-13) | doi: 10.1038/d41586-020-02211-w | New class of molecule targets proteins outside cells for degradation

Claire Whitworth & Alessio Ciulli

細胞の内部でタンパク質の分解を誘導する分子は、これまでにも作製されている。今回、新しいクラスの分子によって、膜タンパク質や細胞外タンパク質の分解が誘導可能になり、創薬への道が開かれた。

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URFINGUSS/ISTOCK/GETTY

ほとんどの薬剤は、標的タンパク質の特定の部位に結合することで、そのタンパク質の機能を阻害あるいは調節する作用を及ぼす。しかし、多くのタンパク質の活性は、この方法では変化させることができない。一方、タンパク質を他の分子に近づける作用を持つ新しいクラスの薬剤は、従来とは異なる方法でタンパク質の機能を変化させる1–3。このような手法の1つでは、タンパク質分解誘導薬と呼ばれる薬剤分子を用いて、標的タンパク質へ別の低分子量タンパク質ユビキチンのタグ付けを促進する。タグ付けされたタンパク質は、細胞のプロテアソーム装置によって小さなペプチド分子に分解されるが、ユビキチンを介した分解経路は細胞の内部で機能する。このため、これまでに開発されたタンパク質分解誘導薬は、主に細胞内の標的を分解するものであった。このほどスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)のSteven M. Banikら4は、従来とは異なる機構により細胞外タンパク質や膜結合型タンパク質を標的として分解する道を開き、Nature 2020年8月13日号291ページで報告した。

Banikらは、2つの機能を持つ(2つの結合領域を持つ;図1)、リソソーム分解誘導キメラ(LYTAC)と呼ばれるタンパク質分解誘導薬を報告している。LYTACの一方の端はオリゴ糖ペプチド部分で、細胞表面で膜貫通型受容体(カチオン非依存性マンノース6-リン酸受容体;CI-M6PR)に結合する。もう一方の端は抗体あるいは小型分子で、分解の標的であるタンパク質に結合する。そして、この2つの部分は化学的リンカーで結び付けられている。

図1 リソソーム分解誘導キメラ(LYTAC)の作用機構
Banikら4は、オリゴ糖ペプチド部分(細胞表面受容体CI-M6PRに結合する)と、特定の膜貫通型タンパク質あるいは細胞外タンパク質に結合する抗体で構成されるLYTAC分子について報告している。抗体は、タンパク質に結合する小型分子(図示していない)で置き換えることもできる。LYTACがCI-M6PRと標的タンパク質の両方に同時に結合すると、その結果生じた複合体が細胞膜に包み込まれて、輸送小胞を形成する。輸送小胞により、この複合体はリソソーム(タンパク質分解酵素を含む細胞小器官)に運ばれる。標的タンパク質が分解されると、受容体はリサイクルされる。LYTACも分解されるかどうかは分かっていない。LYTACは治療への適用で有用な可能性がある。 | 拡大する

細胞膜で三量体のCI-M6PR–LYTAC–標的タンパク質複合体が形成されると、この複合体は、膜に囲まれた細胞小器官(リソソーム)内での酵素(プロテアーゼ)による分解へと向かう。LYTACは、タンパク質分解誘導キメラ5(PROTAC)と関連した概念に基づいた、相補的な方法である。PROTACは、LYTACとは別のクラスの、2つの機能を持つタンパク質分解誘導薬で、主に細胞内タンパク質を標的としてE3リガーゼ(タンパク質にユビキチンのタグを付ける酵素)に誘導することでタンパク質を分解する。

Banikらはまず、さまざまなサイズとリンカー組成のLYTACを作製した。タンパク質に結合させる構成要素としては、ビオチンと呼ばれる小型分子を用いた。ビオチンは、アビジンタンパク質に非常に高い親和性で結合する。Banikらは、これらのLYTACが、CI-M6PRとの結合を必要条件に、細胞外の蛍光アビジンタンパク質を細胞内リソソームに迅速にシャトル輸送することを観察した。また、ビオチンを、アポリポタンパク質E4(神経変性疾患に関与するタンパク質)を認識する抗体に置き換えると、アポリポタンパク質E4もインターナリゼーションして、リソソームで分解された。つまりLYTACは、抗体を通常の免疫機能から転用することで、細胞外タンパク質をリソソーム分解に向かわせることができるのだ。

次にBanikらは、LYTACが創薬標的である膜タンパク質の分解を誘導できるかどうかを調べた。実際、LYTACはいくつかのがん細胞株で、上皮増殖因子受容体(EGFR;シグナル伝達経路を活性化して細胞増殖を引き起こす膜タンパク質)のインターナリゼーションとリソソーム分解を誘導した。がん細胞株においてLYTACにより細胞表面のEGFRを枯渇させると、EGFRを抗体のみで阻害した際に観察されるレベルよりも、EGFRの下流のシグナル活性化が低下した。この結果から、治療への応用では、標的の阻害よりも標的の分解を用いる方が有効である、というこれまでの報告5が裏付けられた。

さらに、がん細胞が免疫系を回避するのを助長しているPD-L1(programmed death ligand 1)など、他の1回膜貫通型タンパク質(細胞膜を1回だけ貫通するタンパク質)を標的とするLYTACでも同様の結果が観察された。次の段階は、広く存在するGタンパク質共役受容体や、膜を横切って物質を輸送するタンパク質(例えば、イオンチャネルや溶質輸送体)など、膜を数回貫通する複数回膜貫通型タンパク質の分解をLYTACが誘導できるかどうかを確立することだと考えられる。この場合、タンパク質の細胞外ドメインに結合するLYTACの性能と、タンパク質の細胞内ドメインに結合できるPROTACの性能を比較することは興味深い。というのも、最近、PROTACが溶質輸送体を分解することが実証された6からだ。

図2 エンドサイトーシス
エンドサイトーシスは、細胞が細胞膜を陥入させて細胞外の物質を取り込むシステム。細菌などの異物を取り込むファゴサイトーシス、液体(栄養などの物質が含まれている)を取り込むピノサイトーシス、受容体介在型エンドサイトーシスに大きく分けられる。取り込まれた物質は、リソソームに運ばれて分解される。受容体介在型エンドサイトーシスを利用したLYTACは、標的の細胞外物質や膜貫通型タンパク質を細胞内に取り込ませ、分解させることができる。 | 拡大する

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新しい薬剤はどんなものも改善の余地があるが、LYTACもまた同様に改良が必要である。例えば、Banikらが最初に作製したPD-L1分解誘導LYTACは、PD-L1の部分的な分解しか引き起こさなかった。これは、用いた細胞株でのCI-M6PRの発現が低かったことが原因であるとBanikらは考えた。そこで、最初の細胞株よりもCI-M6PRの発現レベルが高い細胞を用い、さらに、より強力なPD-L1抗体を組み込んだ2番目のタイプのLYTACを作製して投与すると、分解が増加した。このことから、LYTACが捉えるリソソームへのシャトル輸送受容体(この場合はCI-M6PR)の量が少ないと、このような分解誘導薬の有効性が低下する可能性があることが分かった。同様に、E3リガーゼのコア構成要素の喪失により細胞がPROTAC抵抗性になるのも、よく見られる機構である7。LYTACでは抵抗性が出現した場合、CI-M6PRの代替として、リソソームへの別のシャトル輸送受容体を使用できると考えられる。細胞タイプ特異的な受容体を標的とする分解誘導薬は、細胞タイプ選択的ではない従来の小型分子による治療と比較して、安全性プロファイルが改善されている可能性もある。

PROTACとLYTACが従来の薬剤と異なっているのは、その作用様式である。例えば、PROTACが標的タンパク質の分解を引き起こした後、PROTACは放出されて、さらにユビキチンのタグ付けと分解のサイクルを誘導できるので、低濃度で触媒として機能する1,5。同様にLYTACも、触媒として機能するかどうかを決定する機構的研究が必要である。

PROTACとLYTACの作用様式のもう1つの面は、連結させた2つのタンパク質を用いて、三量体からなる複合体を形成することである。このような過程の一般的な特徴はフック効果である。薬剤濃度が高くなるとフック効果が生じ、三量体の形成が妨げられ、三量体に関連する生物活性が減少する。これは、薬剤濃度が高いと、通常、二量体複合体が優先的に形成されるためである。二量体よりも三量体の形成が起こりやすくなる1ように、3つ全ての構成要素の相互作用を確保すれば、このような二量体複合体の形成という望ましくない影響を低減させられる。

反応速度もタンパク質分解誘導薬に重要である。例えば、PROTACなどの安定で長時間存在する三量体複合体は、標的の分解を加速し、薬剤の効力や選択性を向上させる8。LYTACが形成する複合体をどのように最適化すれば、分解活性を改善できるのかを理解することが重要であると考えられる。

PROTACやLYTACは、従来の薬剤よりも大きな分子である。PROTACは、そのサイズゆえに生体膜を十分に透過せず、そのため、PROTACを構成している生物学的に活性な分子部分単独の効果よりも、強力でない薬剤になる可能性がある。LYTACの場合は、細胞膜を通過する必要がないためサイズはそれほど問題ではないが、中枢神経系の疾患と闘うためには生物学的障壁を通過する必要がある。LYTACよりも小型で極性が低い、従って膜を透過しやすいリソソーム分解誘導薬の開発が待ち望まれている。PROTACの場合、既に、E3リガーゼに結合する小さな「接着剤」分子がPROTACと同じ働きをすることが報告されている9

標的タンパク質の分解は有望な治療戦略であり、最初のPROTACは現在臨床試験中である10。LYTACは追い付く必要があるが、分解可能なタンパク質の範囲を拡大するためのツールとして重要であると認知されている。治療法としての開発には、ヒトの体内での挙動、例えば、薬物動態や毒性に加え、代謝、分布、排泄の仕組みなどを明らかにすることが必要になる。創薬の過程では、抗体やオリゴ糖ペプチドなど、大きな分子を組み込んだキメラ分子の生物学的挙動を最適化することが難しいと考えられるが、この問題はさらにこれらの活性分子部分の構造を操作する11ことで克服できる。従って、Banikらの新しい分解手法は総力を挙げて取り組む必要があると考えられる。

創薬に携わる研究者は、LYTACの開発と、薬剤によるタンパク質分解誘導のための他の方法の出現を待ち望んでいる12。誘導分解薬で分解できないタンパク質はあるのだろうか?

(翻訳:三谷祐貴子)

Claire Whitworth & Alessio Ciulliは、ダンディー大学(英国)に所属。

参考文献

  1. Maniaci, C. & Ciulli, A. Curr. Opin. Chem. Biol. 52, 145–156 (2019).
  2. Deshaies, R. J. Nature 580, 329–338 (2020).
  3. Gerry, C. J. & Schreiber, S. L. Nature Chem. Biol. 16, 369–378 (2020).
  4. Banik, S. M. et al. Nature 584, 291–297 (2020).
  5. Burslem, G. M. & Crews, C. M. Cell 181, 102–114 (2020).
  6. Bensimon, A. et al. Cell Chem. Biol. 27, 728–739 (2020).
  7. Zhang, L., Riley-Gillis, B., Vijay, P. & Shen, Y. Mol. Cancer Ther. 18, 1302–1311 (2019).
  8. Roy, M. J. et al. ACS Chem. Biol. 14, 361–368 (2019).
  9. Hanan, E. J. et al. J. Med. Chem. https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.0c00093 (2020).
  10. Mullard, A. Nature Rev. Drug Discov. 19, 435 (2020).
  11. Chiu, M. L. & Gilliland, G. L. Curr. Opin. Struct. Biol. 38, 163–173 (2016).
  12. Takahashi, D. et al. Mol. Cell 76, 797–810 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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