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自己集合でナノスケールのポリカテナンを合成

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201040

原文:Nature (2020-07-16) | doi: 10.1038/d41586-020-02007-y | Simple molecules self-assemble into the links of a nanoscale chain

Guillaume De Bo

今回、非共有結合性の相互作用を利用した分子の自己集合により、ナノスケールの非常に大きな鎖状分子が合成された。この方法では、これまでは難しかった最終生成物のトポロジー制御が可能で、特定の構造を狙い通りに合成することができる。

「ナノリンピアダン(nanolympiadane)」の原子間力顕微鏡(AFM)画像。 | 拡大する

Ref.1

複雑な分子構造は通常、さまざまな構成要素を段階的につなぎ合わせて構築される。しかし時として、単一の構成要素が自己集合した結果、複雑な構造が出現することがある。今回、千葉大学の矢貝史樹ら1は、単純な単一分子を巧妙に自己集合させることで、ナノメートルスケールの環状分子が鎖状に連結した非常に大きな「ポリカテナン」を合成できることを見いだし、その方法をNature 2020年7月16日号400ページで報告した。

カテナンとは、2個以上の環状分子が鎖のように連なった分子の総称で2、ラテン語の「catena(鎖)」に由来する。カテナンを構成する環は、共有結合ではなく「機械的結合」と呼ばれる別の連結様式でつながっており、それぞれの環は互いの周囲を自由に動くことができる。こうした動的特性のため、カテナンは人工分子機械の部品として有用である3。これまでに数々のカテナンが報告されているが、その多くは2個の環のみで構成されたもので、3個以上の環からなる鎖の構築は長く合成上の重要な課題となっていた。ここ数年で大きな進歩が見られ、多数の環からなるポリカテナンが合成できるようになったものの、半径1nmほどの環で構成される小さなものしか実現されていない4

より大きな分子の構築は、構成分子の機械的連結(カテナン化)の効率によって制限されている。カテナン化では、まず環を形成する前の前駆体分子を環状分子の穴に通し、次にこの状態で前駆体の末端同士を結合させることで2個の環が連結した鎖構造を得る。この工程は、環のサイズが大きくなるにつれ、また、鎖長が長くなるにつれて複雑化する。さらに、一連の工程では前駆体分子の組み立て段階を含め、共有結合をいくつも形成させる必要がある。そのため、より単純な、非共有結合性の集合を介した方法による合成経路が望まれてきた5。実際、超分子重合6では、単純な分子を非共有結合性相互作用を通してワンステップで自己集合させることで、さまざまな形状の大規模構造が得られている。しかし残念ながら、この方法では集合体の大型化の代償として、最終生成物の構造の制御が難しくなる。

矢貝らは今回、共有結合戦略と非共有結合戦略の利点を組み合わせることで、複雑なポリカテナンの構築に成功した。研究チームは、ベンゼン環が連なった剛直な構造の両端に極性基(頭部)と非極性基(尾部)を持つモノマーを出発物質とした(図1)。このモノマーは、適切な溶媒に溶かすと6個が自己集合して星形の「ロゼット」を形成する。このとき、極性を持つ頭部は水素結合で結び付いて六角形のコアを形成しており(ちょうど、DNAの二重らせん構造で2本のポリヌクレオチド鎖が水素結合によって塩基対を形成するのと同じ様式)、そこから剛直部位と尾部がアームのように外向きに伸びている。

図1 自己集合によるポリカテナンの合成
矢貝ら1は今回、剛直な構造の両端に極性基(頭部)と非極性基(尾部)を持つモノマーが、自己集合により「ロゼット」を形成し、次にこれらのロゼットが積み重なってファイバーとなり、さまざまなナノスケール構造(トロイド、らせん、ランダムコイル)を形成することを報告している。彼らはさらに、トロイドが新たな環形成の「シード」として働くことを見いだし、これを利用してポリカテナンを合成するプロトコルを考案した。この手法によって、5個の環からなる「ナノリンピアダン(nanolympiadane)」に加え、最大22個の環が連結したポリカテナン(直線部と分岐部を含む)が得られている。 | 拡大する

これらのロゼットは、さらに自己集合して互いに積み重なり、積層構造を形成する。この過程は、隣接するロゼット同士の剛直部位間で生じる相互作用(π–π相互作用)によって駆動される。新たなロゼットは、すでに積み重なったロゼットから少しずれるように重なるため、結果としてロゼットの積層集合体は固有の曲率で成長し、ランダムコイル、らせん、トロイド(環状体)など、さまざまな形状を生じる7。形状の種類は最初のモノマー溶液の冷却速度に依存し、低速(約1Kmin-1)ではらせん状ファイバーが優先的に形成され、速度を上げる(約10Kmin-1)とランダムコイルが生じ、急速冷却ではこれらにトロイドが混ざる。

矢貝らは、新たに考案した溶媒混合法を適用すると、2個のトロイドが連結したカテナンもごく少量だが生じることに気付いた。これは、個々のトロイドが、新たなトロイドを成長させる二次核形成部位として働き、その結果としてカテナンが形成される可能性を示唆していた。矢貝らは、この偶然の発見を利用し、トロイドをカテナン化の「シード」として用いてサイズの大きな自己集合ポリカテナンを合成するプロトコルを考案した。また、二次核形成が起こりやすい溶媒を入念に検討することで、最適な混合溶媒を見いだした。

22個の環からなるポリカテナンの原子間力顕微鏡(AFM)画像。今回合成された分子の中では最長で、その長さは500nmに及ぶ。 | 拡大する

Ref.1

矢貝らはさらに、この二次核形成の機構を証明するため、トロイドの単離を試みた。彼らはまず、最適な混合溶媒を用いて、急速冷却によりモノマーの約半分にトロイドを形成させた。残りのモノマーは自己集合によりランダムコイル状の線形構造を形成したが、トロイド構造は線形構造よりも熱に対して安定であるため、溶液の加熱によってランダムコイルのみを選択的に分解してモノマーに戻すことができた。次いで、この溶液を低速冷却し、トロイドに影響を及ぼすことなくモノマーから長いらせん状超分子集合体を形成した。そして、これらのらせん構造を濾過によって除去することで、最終的にトロイドを主成分とする溶液を得た。

こうして得られたトロイド溶液にモノマーを加え、スペクトル測定を行ったところ、予想通り、トロイドがシードとして働き、そこに新たな集合体が生成することが確認された。モノマーの尾部は元々、溶解度を向上させるために組み込んだものだったが、矢貝らは、この尾部が二次核形成過程においても重要な役割を果たしていることを見いだした。非極性の尾部の疎溶媒効果(溶媒と溶質の間の相互作用が溶媒分子間の相互作用より弱いことに起因して、溶質が凝集する現象)によって、ロゼットの自己集合が既存のトロイド表面で始まる可能性が高められていたのだ。

カテナン化が起きた溶液を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、実際にさまざまなポリカテナンが形成されたこと、そして構成要素であるトロイドの半径が12.5nmと極めて大きいことが明らかになった。中には、5個の環がオリンピックのシンボルさながらに連結したカテナンも確認され、矢貝らはこれを「ナノリンピアダン(nanolympiadane)」と名付けた。また、トロイド溶液にモノマーを追加して二次核形成を誘発する過程では、一度に加えるモノマーの量をごく少量に抑えると新たな環が形成されやすくなることが分かった。そこで、矢貝らは少量のモノマーを段階的に繰り返し加える手法を用いて、最大22個の環からなるポリカテナン(直線部と分岐部を有する)を合成した。この環の個数は、これまで共有結合戦略によって実現された数(直線状ポリカテナンで最大26個)4に匹敵し、今回のプロトコルの有効性をさらに実証するものとなった。

モノマーの自己集合で形成したロゼットが、さらに自己集合してポリカテナンを形成する過程のイメージ画像。 (動画:https://bit.ly/3bTqii7) | 拡大する

CHIBA UNIVERSITY

矢貝らが採用したモノマー溶液の段階的追加は、共有結合戦略の多段階アプローチを模したもので、この手法によって、大きくて複雑な自己集合体の構造制御が可能になった。これは、非共有結合戦略の開発における重要なステップであり、今回のプロトコルが足掛かりとなって、より困難な目標にも取り組めるようになると期待される5。例えば、モノマーを改変することでトロイドの半径をさまざまに変えられるか、また、シードとなるトロイドを構成するモノマーと新たに形成される環を構成するモノマーの種類が異なる「ヘテロカテナン」を合成できるか、検討するのも面白いだろう。

自己集合で生成したこの大きなポリカテナンの機械的特性や動的特性が、共有結合戦略で構築されたより小さなポリカテナンの特性と比べてどうなのかは、まだ分かっていない。共有結合戦略の主な魅力は、ポリカテナンを構成する環の相対的な運動と位置を制御できれば、分子機械への応用が可能になる点にある。これと同じレベルの制御が、非共有結合性相互作用で構築された大きな自己集合体でも可能なら、我々はようやく自然が成し遂げた偉業、つまり生体分子機械に少し近づけるだろう。

(翻訳:藤野正美)

Guillaume De Boは、マンチェスター大学(英国)に所属。

参考文献

  1. Datta, S. et al. Nature 583, 400–405 (2020).
  2. Bruns, C. J. & Stoddart, J. F. in The Nature of the Mechanical Bond: From Molecules to Machines Ch. 1, 1–54 (Wiley, 2016).
  3. Peplow, M. Nature 525, 18–21 (2015).
  4. Wu, Q. et al. Science 358, 1434–1439 (2017).
  5. Vantomme, G. & Meijer, E. W. Science 363, 1396–1397 (2019).
  6. De Greef, T. F. A. & Meijer, E. W. Nature 453, 171–173 (2008).
  7. Yagai, S., Kitamoto, Y., Datta, S. & Adhikari, B. Acc. Chem. Res. 52, 1325–1335 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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