ソ連崩壊で炭素排出量が激減していた!
1982年に撮影された旧ソ連の牛肥育施設。 Credit: Nikolai Akimov/TASS/getty
1991年にソビエト連邦(ソ連)が崩壊したのを機に、温室効果ガスの排出量が大きく減少していたことが分かった。経済危機により、多くの人々が肉を食べるのをやめたからだ。
共産党が一党独裁制を敷いていた時代には、ソ連市民の主食は肉で、畜産物は国内で生産されていた。1990年には、1人のソ連市民が1年間に消費する牛肉の量は平均32kgだった。これは、当時の西欧諸国の平均より27%多く、世界平均の4倍の量だ。
しかし、共産党崩壊後の経済危機により日用品の価格が高騰し、ルーブル(通貨)の購買力が低下すると、肉への需要と畜産物の生産量は激減した。また、ある見積もりによると、これまでにソ連時代の耕作地の3分の1が放棄されたという。
旧ソ連諸国の食生活や農業システムの変化は、1992~2011年にかけて、二酸化炭素換算量で合計76億tの温室効果ガスを減少させた。研究者たちはこの事実を、畜産物の消費と国際的な取引に関するデータの分析から発見した1(「ソ連崩壊の影響」参照)。この減少量は、同時期のアマゾンの森林伐採に関連した二酸化炭素排出量の4分の1に相当する。ロシアは現在、毎年25億t(二酸化炭素換算量)の温室効果ガスを排出している。
ソ連崩壊の影響
ソ連崩壊後の経済危機の中、人々が肉を食べなくなった結果、食料生産による温室効果ガスの排出量が大きく減少した。 Credit: Source: Ref. 1
この数字は、旧ソ連諸国の国内での畜産物の生産と、輸入した畜産物の生産に関連した温室効果ガスの排出量の他、放棄されたソ連時代の耕作地の土壌や植物に固定された炭素量も考慮している。
国際気候研究センター(Center for International Climate Research;ノルウェー・オスロ)の炭素予算の専門家であるGlen Petersは、「ソ連崩壊後、工業生産は大きく落ち込み、これに関連した温室効果ガスの排出量も減少しました。食料の消費や生産について同じことが起きても不思議ではありません。今回の研究は、旧ソ連の炭素取り込みの潜在能力を強調しましたが、農業生産が回復した後の炭素排出のリスクも明らかになりました」と言う。なお、Petersは今回の分析には関与していない。
今日、畜産業により排出される温室効果ガスの量は、全世界の人間の活動による温室効果ガス排出量の14.5%を占めている。最も炭素集約度が高い食品は牛肉である。なぜなら、牧場は森林やサバンナを切り開いて作られることが多いからだ。
論文著者のライプニッツ移行経済農業開発研究所(Leibniz Institute of Agricultural Development in Transition Economies ;ドイツ・ハレ)のFlorian Schierhornは、世界中の土地からの温室効果ガス排出量の計算において、ロシアと中央アジアにおける肉(特に牛肉)の消費と土地利用の変化は、見落とされがちな要素だと言う。
国際取引の傾向からは、食肉の消費に関連した温室効果ガスの排出量が再び増加し始めていることが示唆されている。ロシアはこの10年で、南米などが輸出する牛肉の最大の仕向け地になった。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190902
原文
Soviet Union’s collapse led to massive drop in carbon emissions- Nature (2019-07-01) | DOI: 10.1038/d41586-019-02024-6
- Quirin Schiermeier
参考文献
- Schierhorn, F. et al. Environ. Res. Lett. 14, 065009 (2019).
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