サメの逃げ場を奪う延縄漁
延縄の針に掛かったカマストガリザメ(Carcharhinus limbatus)。 Credit: Jeff Rotman/Photolibrary / Getty Images Plus/getty
外洋に生息するサメ類の動きと漁船の動きとの重なりを世界規模で評価した研究から、外洋性サメ類は、その生息域のかなりの部分を漁業と共有せざるを得ない状況にあることが示された。海域やサメの種類によっては、そうした重なりの度合いはさらに高くなるという。漁業がサメ類の生息域に及ぼす影響のこうした実態は、英国海洋生物学協会(プリマス)のDavid SimsらによりNature 2019年8月22日号461ページで報告された1。今回Simsらが注目したのは、「延縄(はえなわ)」と呼ばれる、1本の長い幹縄から、先端に釣り針の付いた数百本もの短い枝縄が垂れ下がった漁具を用いる漁法だ。延縄の長さは時に100kmを超え、外洋性サメ類の世界の漁獲量(混獲を含む)の大半が、この延縄漁に起因している。
外洋性サメ類は生息域が広く、多くの種が毎年、長距離を回遊している。Simsらは、これらのサメ類の利用海域を把握するため、2002〜2017年に計23種からなる約1700匹の外洋性サメ類に衛星発信機を装着し、その動きを追跡した。Simsらはさらに、多くの漁船に搭載されている自動船舶識別装置(AIS)のデータを使って、延縄漁船の動きをマッピングした。
そして、これらのデータを比較した結果、平均的な月に外洋性サメ類が利用する海域の実に24%が、延縄漁の操業海域と重なっていることが明らかになった(「延縄漁の脅威」参照)。その程度は、東太平洋では8%、インド洋南西域では38%と幅があるが、ホホジロザメ(Carcharodon carcharias)が数多く集うことから「ホホジロザメのカフェ」と呼ばれているメキシコとハワイの間の海域や、多様なサメ類が生息するオーストラリアのグレートバリアリーフの南の海域など、サメ類の密度が特に高い海域の大半には漁船も存在するという傾向が見られた。
延縄漁の脅威
外洋性サメ類が利用する海域の4分の1近くが、延縄漁の操業海域と重なっていることが明らかになった。重なりの度合いは特定の海域や一部のサメ種でさらに高く、そうした種の多くは絶滅の危機に瀕している。
これは、サメ類が漁業の侵害から逃れることのできる避難場所の選択肢が少ないことを示している、とSimsらは指摘する。そして、サメ類の密度が高い重要な「ホットスポット」の周辺に海洋保護区を設けることが解決策の1つになる、と論じている。
こうした対策は、外洋性サメ類の多くの種が絶滅の危機に瀕していると見なされているため、特に重要だ。そうした種の中には、今回の研究で生息域と漁業海域との重なりが非常に大きいことが明らかになった種も複数含まれている。例えば、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧II類に分類されているニシネズミザメ(Lamna nasus)は、重なりの度合いが47%だった。また、絶滅危惧IB類のアオザメ(Isurus oxyrinchus)は、世界全体では重なりの程度が37%だったが、北大西洋だけで見るとその値は62%にも上った。さらに、絶滅危惧II類のホホジロザメは34%、準絶滅危惧種のヨシキリザメ(Prionace glauca)は49%と、共に高い値となった。
翻訳:船田晶子
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190903
原文
Sharks squeezed out by longline fishing vessels- Nature (2019-07-24) | DOI: 10.1038/d41586-019-02265-5
- Matthew Warren
参考文献
- Queiroz, N. et al. Nature 572, 461–466 (2019).
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