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学術界サバイバル術入門 — Training 9:査読を乗り切る

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多くの研究者は、査読のことを考えるだけで身震いするものです。研究に多大な時間と努力を費やした後に、匿名の人物から「この研究は水準に達してない」と言われることは、時として悔しくもあり、やる気の消失にもつながりかねません。しかし査読とは、前向きかつ建設的な結果をもたらすものであることを忘れてはいけません。あなたの研究と論文原稿の質の向上に役立つ専門的洞察を得ることで、論文のインパクトはさらに増し、その分野でのあなたの評判を上げることにつながるでしょう。そう考えれば、査読に対し大いに意欲的に取り組めるはずです!

さらっと査読入門

査読者は、当該論文のトピックと技術に関する専門知識を有する人の中から、学術誌の編集者が選び出した人です。編集者は、査読者がその分野のトレンドに通じていて、その研究に最も適切な技術を持ち、かつ分析を行い、最新の知識を持っていると確信しています。また、公正かつ建設的で、時宜にかなっており、細かい点にも注意が行き届くと同時に全体像を見ることができる人物でもあると考えています。

編集者が査読者に期待するのは、以下に挙げるような項目の評価です。

  • 方法のセクションが明確に書かれており透明性を持っているか。
  • 研究設計が堅固で、その分野の基準を満たすアプローチと分析を用いているか。
  • データが高品質でよく管理されたものであるか。
  • 結論は提示された証拠により裏付けられているか。

また、査読者は以下の点について助言を与えます。

  • 先行研究とのオーバーラップ。
  • 科学的進歩の範囲。
  • その分野への関心。
  • 将来の研究に与え得るインパクト。

編集者は査読者の報告を受け取ると、それぞれの報告を慎重に検討します。編集者は票を数えるのではなく、議論を比較検討するのだということを覚えておいてください。ですから、投稿論文をこの先どのように進めるかは、純粋に編集者の考えにかかっているのです。著者の中には、2人の査読者が肯定的な意見を持ち、もう1人の査読者が否定的な意見を持っている場合、1人の編集者の見解で論文を不採択にできるものだろうかと考える人もいるでしょう。実は、1人の査読者の綿密さ、専門知識、そして客観性が、他の2人の報告を合わせたものよりも勝っていたときは、編集者がそう判断する可能性が高いです。つまり、査読者のコメントの重さが慎重に検討されてから判定が下されているわけですから、著者は、この結果を前向きなものと捉えるべきなのです。

判定の手紙

編集者が決定を下すと、あなたに判定の手紙が送られます。その手紙は、あなたを胸躍らせたり、意気消沈させたりするでしょう。明るい面を見ると、編集者はあなたに、査読者のコメントに従って論文を修正することを勧めるでしょう。また編集者は、これらのコメントをあなたに送る前に、それが公正で客観的かつ建設的で、明確であり、他の査読者のコメントに反駁しないことを確認する(もしくは、確認したいと考えている)、ということを知っておくと役立ちます。著者に判定を送るのが遅くなることがあるのは、この作業に時間がかかるためです。編集者は、コメントが論文の改善に役立つと思えるまで判定を送りたくないわけです。

一方で、編集者が投稿論文について「論文が発表に適さない」と感じれば、不採択になるでしょう。不採択の最も一般的な原因は以下のようなものです。

  • トピックがその学術誌の範囲から逸れている。
  • 方法が不適切、方法に欠陥がある。
  • 新規性または独創性の欠如。
  • 予備的発見のみの不完全な研究。
  • 倫理的問題(例えば、ヒト被験者からインフォームド・コンセントを得ていないなど)。

不採択になった場合、なぜ採択されなかったか、出版されるには何をする必要があるかを理解することが大切です。不採択の通知で編集者が明確に理由を説明していないなら、遠慮なく問い合わせてください。ほとんどの編集者は喜んでアドバイスを与え、助けになってくれるでしょう。ただし、彼らは忙しいので、すぐには返事をくれない可能性があることは覚えておきましょう。

不採択に関して、私が与えられる最良の助言は、「拒絶を個人的なものと捉えないこと」です。彼らは、あなたが悪い人間であるとか悪い研究者であると言っているのではなく、その研究が彼らの学術誌に発表するには適していないと言っているだけなのです。ですから、不採択通知の1つ1つを改善の仕方を学ぶ経験と捉え、今後の論文発表を成功させるための糧としましょう。

修正

Credit: Kim Nick

論文が受理されなくても、ポジティブ思考でいきましょう。編集者はあなたが論文を修正して再投稿してくるのを歓迎します。この時点で行うべき重要なことが2つあります。最初に、コメントを「実験」「参考文献」「書き方」という3つのカテゴリーに分類しましょう。コメントがあちこちに飛んだ状態だと、全体論的なアプローチで研究を修正するのが難しくなります。類似するコメントをグループにまとめれば、やるべきこと全てを把握できます。次に重要なのは、修正・再投稿の締め切りの確認です。締め切りに間に合わなければ論文は不採択になってしまう可能性があり、そうなると、新たな論文として投稿し直しです。そういう事態は避けたいですよね。

実験に関する修正では、新しい実験や対照の追加、異なる手法による分析を行うことが必要になります。それぞれの図や表を改良するためにやるべきことをはっきりさせましょう。そうすれば、可能な範囲で最も効率的なやり方が見えてくるので、それを基に修正へのアプローチを計画できます。

参考文献に関連する修正には、文献レビュー(先行研究の分析)を広げるためにさらに参考研究を加えたり、あなたの論文に不必要な研究を削除したりすることの他、そのトピックに関する知見をより広範囲に反映するために参考文献を多様にすることなどが含まれます。後者は、著者に、その分野の他の研究者の研究をより広く称賛するのではなく、過度に自分の論文を引用する傾向が見られる場合と関係することが多いですね。

通常、書き方に関する修正は、読者のために論文をより綿密で焦点の定まったものにするのが目的で、原稿に情報を加える、または原稿から情報を取り除く作業になります。論文の科学的メッセージをより明確でより端的なものにするために、言語の品質を向上させることを求められるかもしれません。最後に、あなたの論文原稿の英語をより明確かつ正確にするために、英語を母国語とする人に校閲してもらう必要もあるかもしれません。

返答の手紙

論文原稿の修正が完全に済んだら、学術誌の編集者に宛てた返答の手紙で、修正した箇所について伝えなければなりません。返答の手紙のトーンは、礼儀正しく、プロフェッショナルで、感謝に満ち、そして、ここが重要な点ですが、前向きであることをお勧めします。編集者に、論文は徹底的に改善されていて、発表の準備が整っているという印象を持ってもらいたいですよね。

返答の手紙では最初に、論文原稿に加えた一般的な変更について述べます。タイトルや、論文のタイプ(例えば、編集者が論文原稿を原著論文とするには短か過ぎると感じた場合、brief communicationのような短報として書き直すことを勧めるかもしれません)、あるいは英語の修正など、論文全体に影響し得ること全てについてです。また、より効率的に論文を修正するために(時間やリソース、専門技術の不足などにより)新たな研究協力が必要だったときには、著者を追加することになります。そうした場合にも、手紙の冒頭で説明しておくのがいいでしょう。

この時点で、あなたは査読者のコメント全てに対する返答を要点ごとに列記します。以下のようにまとめるとよいでしょう。

  • 必要なこととその理由をはっきりと示しましょう。あなたが査読者の考えを明確に理解していることを編集者に示すことができるでしょう。
  • 新しく加えた実験、対照群、参考文献などの変更点を述べましょう。
  • 原稿のどこに修正があるかが編集者に分かるように、ページと行の番号、新しい図/表の番号、更新した参考文献番号を示しましょう。

このように返答をまとめれば、学術誌の編集者は修正が適切かつ十分であると確信できるでしょう。方法に関連した大幅な修正がある場合は、恐らく査読者に再度送られて、論文原稿を新たに評価してもらう可能性が高いです。しかし軽微な修正は、編集者が評価できることが多いのです。

査読者の意見に異論を唱えてもいいでしょうか? もちろんです! これはあなたの研究なのですから。意見の相違が生まれる原因は一般的に2つあります。1つは混乱です。あなたの論文原稿で何かが明確に説明されていない場合、査読者は、適切ではない新しい実験/分析をあなたに依頼するかもしれません。例えば、あなたが使用した手技やモデルが標準的でないなら、査読者は、標準のものでやり直すように要求するかもしれません。あなたは、その研究では標準的でない手技を使用する方が適切であり、それには重要な理由があるということを、明確に伝えていなかっただけなのです。この場合あなたは、どの点に混乱が生じているかを編集者に説明して、あなたの分野の他の読者のためにこの混乱を明確に晴らせるように、原稿を修正すればいいのです。

もう1つの原因は、査読者があなたの研究には適切とは言えない、あるいはあなたの研究の範囲外に当たる実験を求めたことです。この問題を防ぐには、編集者が、その学術誌の論文出版の基準を熟知している人を査読者に選ぶことが重要です。例えば、あなたの研究が遺伝子機能のin vitro(生体外、例えば、細胞株など)での分析の場合、恐らく査読者は、in vivo(生体内、例えば、動物モデルなど)実験で結論を裏付けることを求めるでしょう。あなたは、それは不要で、あなたの研究の範囲を超えていると感じるかもしれません。さらに、あなたにはそのような実験を行うリソースも専門的技術もないかもしれません。この場合、投稿中の学術誌で発表された同様の論文を調べ、in vitro実験による結論を裏付けるためにin vivo分析を使用したかを確認するとよいでしょう。もしin vivo分析を行っていないなら、あなたは「in vivo研究は確かに重要であり、行うべきであるが、この研究の範囲を超えている」と編集者に説明できます。加えて、あなたのin vitro分析は結論を強固に裏付けていることを強調するべきです。まとめると、あなたは異なる意見を述べることができます。ただし、自分の意見を裏付ける強い主張と根拠を示す必要があります。

まとめ

結局のところ、査読のプロセスを乗り切ることは、困難こそあれ実りも多い旅なのです。この旅が終わるときには、あなたの研究と論文原稿は改善され、より大きなインパクトと影響をその分野に与えることになるでしょう。査読を乗り切るのは簡単ではありませんが、努力する価値は十分にあるのです。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190719