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サンゴの共生には3種の生物が関与

共生の定義は難しそうに思えるが、実は、「複数種の生物が長期にわたって共同で生活する」という簡単なものだ。サンゴ礁で見られるような、花虫類の動物と特定の微小な渦鞭毛藻類(Symbiodinium属など)との協力関係は、共生の典型的なモデルとなっている。花虫類は藻類にすみかを提供し、藻類は光合成で生成した糖類を「賃料」として花虫類に分配する1。このように安定的かつ高度に生産的な2種共生関係が、海洋生態系を支える膨大なサンゴ礁を作り出している(2017年9月号「深い海のサンゴが光る理由」、2011年10月号「ゲノム解析がサンゴ礁を救う」、2017年4月号「海草は除菌も担う海の万能選手」、2018年7月号「グレートバリアリーフの被害状況が明らかに」参照)。しかし今回、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のWaldan K. KwongらはNature 2019年4月4日号 103ページ2で、サンゴの共生関係に第3の生物が関わっていることを明らかにして、この単純な2種共生モデルに疑問を投げ掛けている。

微生物はその名の通り微小な生物であり、それ故単離や増殖、研究が困難である。微生物の多様性が著しく高いことが認識されるようになったのは、この分野に分子生物学の手法が導入されたここ20年ほどのことである3。新たに見つかった微生物分類群の大半は、身元がよく分からない系統だが、それらの多様性は「既知の」生物多様性を数の上で大きく超えている4。また、その存在はデータベースに蓄えられたDNA塩基配列として認知されているにすぎない。これらの微生物の外見や、細胞の機能、生態系で果たす役割については、ほとんど分かっていないのである。そこで課題となるのは、これらの微生物を識別するためのDNA塩基配列が、実際の細胞とどう対応するかを突き止め、それぞれの生物学的特性を明らかにすることだ。これは生易しいことではない。

こうした身元不明のDNA塩基配列のうち、ARL-V(apicomplexan-related lineage-V)とtype-Nと呼ばれる2種類は、サンゴ礁生態系で採取された試料で一貫して見つかっている5。この2種類のDNAを含む微生物と既知の微生物との類縁関係を示す系統樹からは、これらの微生物がアピコンプレクサ門に属することが示唆されている。アピコンプレクサ類には、陸上動物に感染するマラリア原虫などの寄生生物が含まれるため、ARL-Vおよびtype-Nに対応するアピコンプレクサ類の起源や進化についてのさらなる解明に、広い方面から関心が寄せられている。

寄生性アピコンプレクサの多くは暗闇の中で暮らしているが、色素体の痕跡を残している6。色素体は植物や藻類の細胞内に見られるDNA含有構造で、光合成に必要である。アピコンプレクサ類における色素体の進化的起源については、ほとんど解明されていない。アピコンプレクサ類の色素体は光合成を行わないが、光合成を行う色素体の光化学反応経路に付随する生化学経路の一部を保持している。これらの生化学経路の多くは、抗マラリア薬の標的候補となる。アピコンプレクサ類に近縁で光合成を行う分類群も海洋環境で発見されている7。ARL-Vとtype-NのDNAを含む身元不明のアピコンプレクサ類は、こうした全体像の中でどのような役回りをしており、サンゴ生態系やアピコンプレクサ類の進化史について、どのような情報をもたらしてくれるのだろうか。

Kwongらは、ARL-V/type-NのDNAシグネチャーがサンゴやその近縁種と関連しているように見えることに興味を引かれた(図1)。そこで彼らは、野生や水族館のサンゴ62種から採取したDNA試料を対象に、type-NのDNAシグネチャーの存在についてスクリーニングし、それらの種の70%がtype-N陽性であることを見つけた。研究チームは続けて、蛍光標識したDNAプローブを使い、ARL-Vとtype-NのDNA分子が共に、サンゴ虫の胃腔組織中の細胞内に存在することを発見した。サンゴ内でのARL-V/type-N陽性細胞のこうした局在パターンは、Symbiodinium属藻類の局在パターンとは異なる。このことは、新たに見つかった共生生物が花虫類と藻類とは構造的に異なる相互作用を行っていることを示している。電子顕微鏡像から、ARL-V/type-N陽性細胞はアピコンプレクサ類の細胞に典型的な特徴を多く持つことが明らかになった。研究チームは、この生物に「corallicolid(サンゴにすむもの)」という仮称を付けた。

図1 さまざまな生物分類群がcorallicolid類の宿主となっている
Kwongら2は、イソギンチャク(a)やサンゴ(b)などのよく似た多くの共生関係で、アピコンプレクサ類に属する微生物を見つけ、これらの微生物を「corallicolid」と名付けた。 Credit: P J Keeling

次に、数種類の遺伝的マーカーを用いてcorallicolid類の系統樹上の位置を調べたところ、既知の海生アピコンプレクサ類よりも陸生アピコンプレクサ類に近縁なことが明らかになった。この知見を得た研究チームは、corallicolid類の色素体の全ゲノム塩基配列解読を思い立ち、その解読結果から、もう1つの意外なことを突き止めた。corallicolid類は、クロロフィルを合成する分子をコードする遺伝子群を保持していたのである。クロロフィルは、光エネルギーを吸収して光合成を可能にする色素分子だ。ただし、光合成を行う光化学系のタンパク質をコードする色素体遺伝子群は失っていた。

corallicolid類は、光化学系の通常の出口がない中で、光によるクロロフィルの励起で生じる有害な化学的影響をどうやって回避しているのだろうか。現時点で考えられる2つの仮説は、可能性は低いものの興味深い。1つ目は、corallicolid類で光化学系タンパク質をコードする遺伝子群が、既知の全ての光合成を行う真核生物(核内にDNAを持つ種)の場合のように色素体ゲノムの一部ではなく、核ゲノムの一部となっているのではないかと考えるものだ。これらの光化学系タンパク質は、合成された後に色素体に運ばれることになる。2つ目は、corallicolid類が、光化学系と関連しない独特のクロロフィル含有生化学経路を持つ可能性を考えるものである。

「共生」という言葉は、往々にして、関与する全ての生物が恩恵を得るような関係を指す「相利共生」と同義的に用いられるが、これは誤用であり、関与する全生物の動的性質の多くを分かりにくくしてしまうものだ8。生物2種による相利共生の伝統的モデルが当初の説明よりも複雑であることを示したのは、今回のKwongらの報告が初めてではない。共生のもう1つの典型的モデルとされる多くの地衣類は、菌類1種と藻類1種だけではなく、互いをパートナーとして進化的に安定した3種もしくは4種の生物で構成されていることが明らかになっている9,10

共生関係に、追加の共生生物が存在する理由は、共生関係の栄養的な特性と関連するのではないかと我々は推測する。サンゴでも地衣類でも、1種類の生物が炭素化合物を合成し、その一部をすみかの提供や他の恩恵の見返りとして、もう1種類の生物に渡す。こうして渡される化合物や、大きい方の生物から小さい方の生物へのすみかの提供を、さらに別の生物が利用しようとするのは当然だと思われる。新しい参入者が、既存の共生関係を利用する過程で、そこに新しい有用な機能を持ち込んだ可能性もある。

今後の研究課題は、新たに見つかった共生生物が果たしている役割を突き止め、既知の共生生物の役割を、新しい証拠に照らして再検討することだ。また、共生関係に新たに加わった生物が疾患を引き起こすことはないのか、という疑問も浮かんでくる。微生物と疾患の因果関係を確認するための「コッホの原則」の正式検査11には、細胞培養が必要だが、corallicolid類や大半の地衣類関連菌類は細胞培養ができないため、疾患との関連性を突き止めることは難しい。新たに加わった生物は、共生関係において、ある程度の重要な栄養的サービス12もしくは防御的サービスを提供したり、警備機能によって群集の安定性を確保したりしているのだろうか。

サンゴや地衣類の共生関係で新たに見つかった共生生物の多くが、複数の動的な役割を持っていたとしても我々は驚かないだろう。この謎を解くことは容易ではない。しかし謎に取り組むことで、生物が複雑に関係し合う社会の中でどのように互いに認識し合って相互作用するのか、また、どんな種類の相互作用が多くの生態系を支える共生関係を最終的につくり上げるのかについて、多くのことが分かるに違いない。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190727

原文

Coral symbiosis is a three-player game
  • Nature (2019-04-04) | DOI: 10.1038/d41586-019-00949-6
  • Thomas A. Richards & John P. McCutcheon
  • Thomas A. Richardsはエクセター大学(英国)、 John P. McCutcheonはモンタナ大学(米国)に所属

参考文献

  1. Baker, A. C. Annu. Rev. Ecol. Evol. Syst. 34, 661–689 (2003).
  2. Kwong, W. K., del Campo, J., Mathur, V., Vermeij, M. J. A. & Keeling, P. J. Nature 568, 103–107 (2019).
  3. Pace, N. R. Science 276, 734–740 (1997).
  4. Hug, L. A. et al. Nature Microbiol. 1, 16048 (2016).
  5. Janouškovec, J., Horák, A., Barott, K. L., Rohwer, F. L. & Keeling, P. J. Curr. Biol. 22, R518–R519 (2012).
  6. McFadden, G. I., Reith, M. E., Munholland, J. & Lang-Unnasch, N. Nature 381, 482 (1996).
  7. Moore, R. B. et al. Nature 451, 959–963 (2008).
  8. Wooldridge, S. A. BioEssays 32, 615–625 (2010).
  9. Spribille, T. et al. Science 353, 488–492 (2016).
  10. Tuovinen, V. et al. Curr. Biol. 29, 476–483 (2019).
  11. Fredericks, D. N. & Relman, D. A. Clin. Microbiol. Rev. 9, 18–33 (1996).
  12. Lesser, M. P., Mazel, C. H., Gorbunov, M. Y. & Falkowski, P. G. Science 305, 997–1000 (2004).