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学術界サバイバル術入門 — Training 6:学術英語 ③

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読みやすい論文を書くためのヒントとして、前回1は①能動態、②強い動詞について説明しました。今回は③難しい単語を避けることと、④よく見かける誤りについて考えていきましょう。

③難しい単語を避ける

英語を母国語としない人々の多くが、学術誌の編集者や査読者に自分の論文をより強く印象付けるために、普段使わないような堅苦しく難しい単語を使いたがります。これをやってはいけません! 原稿は、ボキャブラリーの広さで判断されるのではなく、学術的なメリットによって判断されるので、あなたの考えをしっかりと伝えることが大切です。

学術的な考えは複雑です。複雑な考えの説明に難しい単語が使用されていたら、多くの読者は理解できないでしょう。ですから、考えをシンプルに伝える必要があります。実行すれば、あなたの専門的知識は深まり、信頼性も確立できるでしょう。これに関連するアルベルト・アインシュタインの有名な言葉があります。「天才の定義は、複雑なものを単純化できる能力だ」。

Natureは、多くの著者がいまだに難しい単語を使おうとすることを知っているので、「従って、投稿論文は、他の分野の読者や英語が母国語でない読者が理解しやすいように、明確かつシンプルに書くべきである」と述べています2

ですから、「We interrogated the participants upon completion to ascertain the efficaciousness of the program(我々は終了時に参加者に尋問してプログラムの効験を断定した)」ではなく、「We questioned the participants upon completion to determine the success of the program.(我々は終了時に参加者に質問してプログラムの成功を確認した)」と書くと、意味は同じですが、より明確で、より理解しやすいことでしょう。

④よく見かける誤り

最後に、学術論文でよく見かける誤りについて述べたいと思います。

1. 「the data was evaluated.」(データは評価された)

data(データ)は複数名詞で、datumの複数形です。従って、「the data were evaluated」と書くべきです。この文脈におけるdataは研究の結果(findings)を指しているということを頭に置いておけば、この間違いを避けられます。Findingsは複数ですね。

2.「The scores of Japanese participants were higher when compared to those of American participants.」(日本人参加者のスコアは、アメリカ人参加者と比較して高かった)

論文中で比較をするときには、「compared to」ではなく、「compared with」を使いましょう。compared toを使うのは、異なる2つのものを比較するときです。例えば、「My love can be compared to the depth of the ocean.(私の愛は海の深さに例えることができる)」といった使い方をします。愛と海の深さは全く別のものですが、抽象的な類似性を強調しようとしています。学術的な著述では、私たちは常に2つの類似したものを比較しています。ですから、「The scores of Japanese participants were higher when compared with those of American participants.」と書くべきです。

3.「a / an」か「the」か

日本人の著者にとって、定冠詞(the)と不定冠詞(a/anなど)は厄介な代物ですが、いくつかの簡単な規則に従うと、適切に使えるようになります。

不定冠詞は、その名詞が特定されてないときに使用します。例えば、「A model to describe current fluctuations……(現在の変動を説明するモデル……)」と言えば、1つ以上のモデルの存在をほのめかしており、そして読者はまだ、あなたがどのモデルについて言及しているかを知りません。では、不定冠詞は具体的にどんなときに使用できるのでしょうか。まず、使えるのは単数名詞だけです。「an aliquot(約数)」とは言えますが、「an aliquots」とは言えません。通常、複数名詞は冠詞を必要としません。それから、可算名詞(語尾にsをつけて複数形にできる名詞)だけです。従って、「a coin」と言うことはできますが、「a money」とは言えません。

一方、定冠詞(the)は、あなたが特定の名詞について言及していることを読者が知っているときに使用します。例えば、「The Coriolis effect……(コリオリ効果……)」と書くのは適切です。なぜならコリオリ効果は1つしかなく、そして読者がこれを知っているという前提があるからです。不定冠詞と異なり、「the」は単数名詞にも複数名詞にも、そして可算名詞にも不可算名詞にも使用できます。

けれども一般に、あなたが言及していることを読者が明確に理解している限りにおいては、複数名詞や不可算名詞には冠詞が不要なことも多いのです。あなたがどれについて言及しているかを強調するために明確さが重要であるなら、複数名詞や不可算名詞の前に「the」を置くことができます。

4.動詞の時制

ただし、動詞の時制の使い方に関しては、分野や学術誌によって違いがありますから、自分が投稿しようとしている学術誌に最近発表された論文に常に目を通しておくようにしましょう。そうすればどのセクションでどの動詞の時制が好まれるかが分かります。私が以下で説明することは、多くの学術誌が従っている一般的な規則です。

現在形がよく用いられる場面は、「Introduction(緒言)」で一般に受け入れられている考えについて述べるとき、「Discussion(考察)」で今回の研究結果の現時点における意味あるいは適用について述べるときです。例えば、「Graphene is a promising material……(グラフェンは有望な材料で……)」または「Our findings demonstrate that nifidipine is……(我々の結果はニフィジピンが……であることを証明しており)」と書きます。

「Introduction」や「Discussion」で、 現在も妥当とされている既発表の研究結果について述べるときには、現在完了形もしばしば使用されます。例えば、「Carbon nanotubes have been shown to……(炭素ナノチューブは……と示されており)」といった具合です。

過去形は原稿全体で使用できます。「Introduction」や「Discussion」では、「We previously demonstrated that……(私たちは以前に……と示した)」のように、過去に行ったことを説明する際に用いられます。「Methods(方法)」では、「PCR was performed……(PCRが実行された)」などと、過去に実行された手法について述べるときによく用いられます。最後に、「Results(結果)」のセクションでは、過去形は、「TiO2 surface modification improved catalytic……(TiO2表面修飾が触媒作用を改善した……)」のように、得られた結果を説明する際に用いられます。

しかし、物理科学分野のいくつかの学術誌では、編集者は、方法と結果の説明で著者が現在形を使用するのを好みます。ですから、繰り返しますが、投稿したい学術誌に最近発表された論文に必ず目を通し、その文体に従って論文を書くようにしてください。

まとめ

論文を読みやすくする方法はたくさんあります。実行すれば、あなたの考えは理解されやすくなり、その分野でのインパクトを最大にできるでしょう。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190128