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グレートバリアリーフの被害状況が明らかに

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180707

原文:Nature (2018-04-18) | doi: 10.1038/d41586-018-04660-w | Great Barrier Reef saw huge losses from 2016 heatwave

Quirin Schiermeier

2016年に発生した記録的な海洋熱波で、グレートバリアリーフではサンゴの白化が観察されていた。追跡調査から、白化後のサンゴの大量死と、サンゴ礁の3分の1の大きな変化が明らかになった。

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Richard Vevers/XL Catlin SS/The Ocean Agency

オーストラリア北東部の海岸沿いには、グレートバリアリーフと呼ばれる、全長2300kmにもなる世界最大のサンゴ礁地帯が広がる。同海域の貴重なサンゴの健康状態を追跡している研究から、2016年に同海域を襲った海の熱波、つまり極端な海水温上昇がもたらした被害は、初期の調査で示された規模よりもはるかに深刻なものであったことが報告された。この海洋熱波は広い範囲でサンゴの白化を引き起こしたことから、世界中から注目されていた。

ジェームズ・クック大学(オーストラリア・クイーンズランド州タウンズビル)のサンゴ礁センター所長Terry Hughesを中心とする研究チームはこのほど、グレートバリアリーフのサンゴは先例のない規模の深刻な白化後に大量死したことを明らかにした。また、大量死の結果、グレートバリアリーフを構成する3863のサンゴ礁の3分の1近くで、サンゴの種組成が劇的に変化したことも判明した。この結果は、Nature 2018年4月26日号492ページに報告された1

グレートバリアリーフが近いうちに回復するとは考えられない。Hughesは、今回の調査結果は、熱帯のサンゴ礁の豊かな生態系が、温暖化した未来によってどのような影響を受けるかを示す前兆だと言う。「私たちが気候変動の抑制に失敗し、世界の気温が(産業革命以前と比べて)2℃より大幅に上昇したら、サンゴ礁の生態系が数億人にもたらしている恩恵を失うことになるでしょう」。

致命的な損失

Hughesと生態学者らの研究チームは、2016年に発生した海洋熱波後のグレートバリアリーフの状態を詳細に調査した。上空からの広域調査から、2016年3~4月の期間に広い範囲でサンゴの白化が発生したことが明らかになった。サンゴの白化は、サンゴ礁を形成するサンゴと共生関係にある褐虫藻という藻類が、高温によって死滅したときやサンゴから排出されてしまったときに起こる。褐虫藻は光合成で生産したエネルギーと栄養分をサンゴに提供しているので、褐虫藻がいなくなると、サンゴは死んでしまうことが多い。

熱波による被害を正確に見積もるため、Hughesのチームは、白化のピークが観察された3~4月とその8カ月後の両方で、より包括的な海中調査を行ってサンゴの死滅の状況を確認した。

多くのサンゴが死滅しており、特にグレートバリアリーフの北部3分の1では、サンゴは熱ストレスを受けた直後に死んでいた。他の場所では、熱ストレスでパートナーである褐虫藻が排出されてしまった後に、よりゆっくりと死んでいった。グレートバリアリーフを構成する数百のサンゴ礁のサンゴの種組成は、熱波からわずか数カ月の間に激変していた。白化が深刻だったサンゴ礁では、成長が速い種類のサンゴ(複雑な形をしていて、生物群集の重要な生息地となる)が、成長の遅い種類のサンゴ(より多様性の少ない生物群集の生息地となる)に取って代わられていた。

白化したサンゴ礁
2016年、海水温は記録的な高温となり、オーストラリアのグレートバリアリーフでサンゴの大規模な白化と死を引き起こした。 | 拡大する

REF.1

ランカスター大学(英国)の海洋生態学者Nick Grahamは、「この研究は、グレートバリアリーフのサンゴが死滅した範囲を明確に描き出し、厳しい状況にあることも示しました」と言う。2016年、世界のサンゴ礁の約3分の1が、サンゴの白化による影響を受けた。グレートバリアリーフでは、白化現象が生じなかったサンゴ礁は10%未満だった(「白化したサンゴ礁」参照)。ちなみに、過去にグレートバリアリーフで発生した白化事象の調査では、40%以上のサンゴが白化を免れていた。「法整備や現地の管理により、繰り返し発生する熱波の間にサンゴが最大限に回復できるようにする方法を理解することが重要です」とGrahamは言う。

野生生物保護協会(ケニア・モンバサ)の保全動物学者Tim McClanahanは、この研究は、他のサンゴ礁が温暖化した地球にどのように対処していくかを予言するものではないかもしれないと言う。サンゴ礁の反応は、そのサンゴの生活史や現地の環境条件によって変わってくる可能性があるからだ。「地球温暖化により、熱ストレス事象の回数は増加します」と彼は言う。けれども、「サンゴが環境に順応できることを示す証拠も蓄積してきています」。

2016年の海洋熱波以前には、世界的なサンゴの白化は1998年と2002年の2回しか観察されていない。熱ストレスに最も弱いサンゴは、成長が特に速いサンゴ種であることなどを考えれば、サンゴのコロニーは、そうした事象から回復することができるはずだ。しかし、有害な温暖化事象の発生頻度は増えていて、科学者らは、完全な回復は難しくなっていると考えている2

研究チームはまた、サンゴを高温による被害から守るには、地元の人々によるサンゴ礁や周辺海域の保全活動では歯が立たないことも明らかにしている3。一方で、海洋酸性化などの地球規模の変化は、環境ストレスをさらに増大させている可能性がある。従って、グレートバリアリーフを含む熱帯のサンゴ礁の運命は、気候変動を和らげる取り組みにかかっていると、Grahamは言う。「サンゴ礁とその豊かな多様性、そして、これらの恩恵にあずかる人間の暮らしを未来に残すために必要な条件は、ごく単純です。炭素排出量を急激に削減するしかないのです」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Hughes, T.P. et al. Nature 556, 492–496 (2018).
  2. Hughes, T.P. et al. Science 359, 80–83 (2018).
  3. Hughes, T. P. et al. Nature 543, 373–377 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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