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太陽のコロナに飛び込む探査機

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181012

原文:Nature (2018-07-26) | doi: 10.1038/d41586-018-05741-6 | Death-defying NASA mission will make humanity’s closest approach to the Sun

Alexandra Witze

NASAの「パーカー・ソーラー・プローブ」は、太陽に最も接近する探査機になる。

太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブは、これまでに太陽に送り込まれたどの探査機よりも太陽表面に近いところを7回通過する。 | 拡大する

JHUAPL

イカロスも真っ青? 米航空宇宙局(NASA)の新しい太陽探査機は、高熱で溶けることなく太陽の大気中を通過することができる。2018年8月12日、15億ドル(約1700億円)を投じて建造されたNASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブが、フロリダのケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。わずか3カ月後には、他の探査機がこれまで訪れたことがないほどの近距離で、太陽の荒れ狂うエネルギーを初めて直接測定することになる。

けれどもそれは始まりにすぎない。探査機はその後、7年かけて太陽の周りをさらに23周しながら徐々に軌道を小さくしてゆき、最終的には太陽表面から約620万kmの所を飛行する。この距離は太陽のコロナの範囲内だ。これまでに太陽に最も接近した探査機は1976年のドイツの探査機ヘリオス2号だが、今回の探査機はその約7分の1の距離まで接近する。

パーカー・ソーラー・プローブの目標は、太陽のコロナの温度が数百万℃にもなるのに太陽本体はそれほど高温ではない理由など、太陽に関する最大の謎のいくつかについて、答えを見つけ出すことにある1。探査機は、太陽風が生まれる場所にも訪れる。太陽風は高エネルギー粒子の流れで、太陽から太陽系に向かって秒速800kmの猛スピードで吹き出している1。太陽風が地球に衝突すると、極地方では美しいオーロラを作り出すが、衛星通信やナビゲーション・システムを混乱させることもある。

ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所(APL;米国メリーランド州ローレル)の太陽系物理学者で、このミッションのプロジェクト科学者であるNicola Foxは、「あらゆる面白い現象が起こっている現場に乗り込むのです」と言う。

太陽にギリギリまで接近する探査機がもたらすデータは、太陽の内部で粒子と磁場とエネルギーが結び付く複雑な仕組みの理解を深めるだろう。NASAのゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の太陽物理学者Nicholeen Viallは、「研究者の理解を大きく変えることになるでしょう」と期待する。

宇宙物理学者たちは1958年のNASA設立以来、太陽のコロナの中を通り抜けるミッションか、少なくとも、太陽系の惑星の中で最も内側の軌道を周回する水星よりも内側の領域を訪れるミッションを夢見てきた。同じ年、今回の探査機の名前の由来となったシカゴ大学(米国イリノイ州)の物理学者Eugene Parkerが、太陽風の存在を初めて提唱した2

数十年に及ぶ計画の末、ついに太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブが打ち上げられた。探査機は2018年10月3日に金星のすぐ近くを通過し、その重力を利用して減速し(減速スイングバイ)、太陽の周りを回る小さな軌道に入る。さらに11月6日には太陽への最初の最接近を行い、太陽表面から2400万km、太陽半径の35倍しか離れていないところを通過する。

探査機はその後も太陽の周りを回り続ける。そして金星の近くをさらに6回通過し、そのたびに軌道を徐々に小さくしてゆく。APLの技術者Yanping Guoは、今回のミッションの軌道を設計する際、探査機がデータを収集するのに十分な時間を取れるようにしたと言う。

太陽への最初の最接近(太陽半径の35倍の距離)と最後の最接近(太陽半径の10倍以内)の間のどこかで、探査機は太陽風の速度が音速を超えるアルヴェーン面(Alfvén surface)に遭遇する。アルヴェーン面よりも内側は太陽の磁場が優勢な領域である。外側では太陽風が自由になり、猛スピードで太陽から離れてゆく。

ミシガン大学アナーバー校(米国)の物理学者で、アルヴェーン遷移を研究してきたJustin Kasperは、探査機がこの境界を越えることは、象徴的には、2012年に太陽系探査機ボイジャー1号が太陽圏を脱して星間空間に入った瞬間と同じであると言う3。その瞬間、人類は太陽系内の次なる領域へと入るのだ。「何か特別なことが起こると確信しています」と彼は言う。

パーカー・ソーラー・プローブにはコロナを直接採集するためのさまざまな装置が搭載されている。装置を保護するのは、厚さ11cmのカーボンフォームを炭素複合材料の層で挟んだ幅2.4メートルの遮熱シールドで、1400℃近い高温に耐えることができる。探査機に電力を供給するソーラーパネルは、自動車のラジエーターに似た水冷システムによって低温に保たれる。探査機が太陽に接近する際には非常に高温になるが、その間、ほとんどのソーラーパネルが折り畳まれて遮熱シールドの陰に入る。

ミッション科学者たちは、パーカー・ソーラー・プローブが太陽探査の新時代を切り拓くことを期待している。2020年には欧州宇宙機関(ESA)が太陽探査機「ソーラー・オービター」を打ち上げる予定で、NASAの探査機よりも緯度が高く、距離が遠い所から観測を行う。また、2020年までに米国のダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡がハワイで稼働し、毎日太陽コロナの観測を行う予定である。

91歳のParkerは、自分の名を冠した探査機が、かつて自分が予言した太陽風の波や乱流を測定するのを楽しみにしている。「意外な発見を期待しています」と彼は言う。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Fox, N. J. et al. Space Sci. Rev. 204, 7–48 (2016).
  2. Parker, E. N. Astrophys. J. 128, 664–676 (1958).
  3. Kasper, J. C. et al. Astrophys. J. 849, 126 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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