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古いヒト族のアジア到達を示す石器

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181033

原文:Nature (2018-07-26) | doi: 10.1038/d41586-018-05293-9 | An early hominin arrival in Asia

John Kappelman

約210万年前の石器が中国で発掘された。この証拠により、アフリカ外のヒト族種のものであることが確認されている最古の痕跡の年代が、さらにさかのぼることになった。

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Credit: Prof. Zhaoyu Zhu

「人間がほとんどいない世界を想像してみる」。これは、ポストアポカリプス(終末もの)SFの題材としてよく取り上げられるだけでなく、初期の人類[ヒトやヒト属(Homo)の絶滅種、およびそれ以外の近縁二足歩行種を含む系統樹上の種]がアフリカを出て未踏の地へ入り込むまでの地球の歴史の大部分にも当てはまるものだ。最終的に人間は地球全体に広がることになったのだが、その歩みはどのヒト族によるものだろう。また、いつ、どうやって、どのルートで移動したのだろう。こうした初期の分散の痕跡を発見する野外での研究は、我々に何らかの解を与え、ヒト族の行動に関する洞察をもたらすと考えられる。中国科学院広州地球科学研究所のZhaoyu Zhu(朱照宇)らはNature 7月26日号 608ページで、200万年以上前の中国におけるヒト族の活動を裏付ける証拠を示し、これまで知られていなかった古い年代にヒト族がアフリカの外に存在していたことを明らかにした1

初めて見つかった種の出現を証明するには、その種の存在を裏付ける明確な証拠と、そうした標本を含む地質学的材料の年代に関する強固な支持が必要だ。通常、その種が生息地で多く存在した場合、その骨は化石堆積物の中から容易に発見される。ところが、古いヒト族の集団はまず間違いなく希少であり、その骨の化石は一般に極めて少ない。ヒト族の存在は、指の骨1本だけで十分に示すことができる2。しかし、遅くとも330万年前にヒト族が石から道具を製作し始めると3、石を意図的に割って作られた丸石や剥片は、ヒト族の存在を証明することができるもう1つの情報源となった(2015年7月号「最古の石器を作ったのは誰?」参照)。

これまでのところ、アフリカ外の既知のヒト族遺跡4は、ドマニシ(ジョージア)のものが最古だった。その遺跡の発掘では、約185万~178万年前の複数の人骨と石器という掘り出し物があった。ヒト族の活動を示すそれ以降の数々の遺跡(欧州西部5から東アジア6までの各地)も徹底的に調べられた。中国・黄土高原の上陳(図1)にヒト族が存在したことを示す痕跡に関するZhuらの論文は、石器のみによる証拠に基づいており、研究チームは、その石器が約210万年前までさかのぼる年代の堆積層に広がっていることを発見した。

図1 ヒト族の存在を示す古代遺跡
Zhuら1は、中国・黄土高原の上陳で発見された約210万年前の石器について報告した。この石器は、アフリカ外のヒト族(ヒト、Homoの絶滅種、および近縁の二足歩行種を含む系統樹上の種)の存在を裏付ける既知最古の証拠である。ヒト族の化石および石器を産した既知最古級の重要な遺跡について、年代(Myr=百万年前)と所在地を示した。 | 拡大する

多くのヒト族遺跡の年代は、放射年代測定法などの方法、または火山岩の化学的識別によって推定されている。上陳には火山岩が存在しないため、Zhuらは、古地磁気年代測定法を利用して、古土壌(化石土壌)および黄土(風で運ばれたシルト)という堆積層を分析した。この年代測定法は、地球の磁北極と磁南極が入れ替わる地磁気逆転現象が不規則に起こっている7という事実に依拠している。堆積物中の磁性鉱物は極性を記録する小さなコンパスのような働きをし、そうした堆積物が岩石になると、その年代の極性が固定される。古い堆積層に残るこのような極性反転パターンは、地磁気極性年代尺度(GPTS)という年代基準との照合が可能な「証拠」となる8

上陳の遺跡には、植生に覆われた斜面を含む深く切れ込んだ険しい露頭があり、標本の収集はまさに危険と隣り合わせであった。研究チームのデータはGPTSとの説得力ある相関を示しており、最古の人工物を含む層は、GPTS上の2つの顕著な事象(短いレユニオン正磁極亜帯9、およびそれよりも新しいがわずかに長いオルドバイ正磁極亜帯)に挟まれていることが見いだされた。では、これらの証拠から、その遺跡で最古の石器が発見されたのは確かだと考えてよいのだろうか。現在、現地では農業が営まれているため、さらに深い層を探ることは難しい。それを明らかにすることが今後の研究の目標になるだろう。

Zhuらが調べた出土石器96点は、多くが小型の石の剥片や丸石で、周りを取り囲んでいた細粒質とは鮮明な対比を示していた。研究チームは、ヒト族が秦嶺山脈から南へその岩石を運んだのだろうと考えている。その石器の正確な由来が明確になれば、当時のヒト族がどれだけ遠くまで材料を運んだかについて、重要な情報が得られることになる。

見つかったこれらの石器は単純な形をしている。石核は手のひらサイズで、わずかな数の剥片がそぎ落とされただけである。剥片の一部は、割り出された後に目立て直しが施されたことが明確に見て取れ、また、石づちとして使用されたと思われる丸石も複数あった。これらの特徴から、上陳の石器は、アフリカで発見されたほぼ同時代の石器10とぴったり対応付けられる。ただし、剥片を互いに組み合わせ直したり、元の石核に当て直したりということが行われたかどうかについては、Zhuらの論文には書かれていないため、剥片の製作はどこか別の場所で行われた可能性がある。この遺跡は急傾斜にあり、大規模な発掘がほとんどできなかった。今回の発見に関する考察は、今後徹底的に検証する必要がある。

では、これらの石器は何に使われたのだろうか。Zhuらは、最古の石器の付近でウシ科やシカ科、イノシシ科などの動物の骨を発見したことを記しているが、石器が死体の処理に使われたことがこの状況から示されるかどうかについては記述していない。その可能性を評価するには、石器で肉を切り取ったことを示す骨の切り傷や、骨髄を取り出すためにたたかれたことを示唆する骨の損傷、石器の摩耗、石器に残るわずかな生物片の存在、などのしるしを見つけ出す必要があるだろう。今後この問題を調べる場合、石器の発掘後クリーニングの度合によっては、残留物研究などの手法11が利用できない、ということもあり得る。

中国・黄土高原(陝西省上陳)の遺跡で見つかった石器。この人工物は約210万~130万年前の17の地層にわたりほぼ連続して存在する。 | 拡大する

Ref.1

ヒト族がアフリカで誕生したのは、もしかすると600万年以上前のことだったのかもしれない12。ユーラシアには、この間の早い時期のものとされるヒト族遺跡もなければ、約100万年前までのアフリカで発見されているアウストラロピテクス属(Australopithecus)やパラントロプス属(Paranthropus)などのヒト族属のものと考えられる化石も存在しないため、アフリカを離れた最初のヒト族として最も可能性が高いのはヒト属の1種と考えられる。ヒト属のものとされる既知最古のアフリカの化石は、エチオピアに産した280万年前の顎の骨であり13、そこからこの属がアフリカを出たと考えられる最古の年代が推定される。もちろん、実際にアフリカを離れたのはもっと遅かった可能性もある(2015年5月号「エチオピアでヒト属最古の化石発見!」参照)。

ヒト族の分散は、恐らく更新世氷河期の変わりやすい気候の下で起こったのだろう。では、高緯度方面への移動は、寒冷な気候に対して行動的適応が進化したことを示唆するのだろうか。その可能性はある。黄土高原の古土壌は、過ごしやすい温暖湿潤な条件のときに形成され、黄土は厳しい寒冷乾燥条件で形成された、という従来の解釈は、恐らく単純化し過ぎた見方と思われるが14、上陳遺跡では、石器を含む層が黄土層よりも古土壌層に多く、その比率は約1:2であった。黄土高原にはいつも同じように人がいたわけではなく、ヒト族集団は気候に応じて拡大したり縮小したりしていたのかもしれない15

アフリカ東部から東アジアまでの約1万4000kmの旅は、分布域の劇的な拡大を示している。ヒト族の分散は、新たな地へ入り込んで空白のニッチを埋める過程で人口が増加し促進された可能性が高く、現代の狩猟採集民の高度な移動性の背景にある「資源枯渇」という現象がそれを助長した可能性もある16。しかし、人類の分散速度が年間わずか5~15km(この数値は、現代の狩猟採集民の1日の食料調達範囲17にすっぽり収まる)だったとしても、アフリカ・アジア間の距離ならわずか1000~3000年で分散できる。現存するヒト族遺跡の記録や現在利用可能な年代測定法は、このスピードでの分散事象を解明するのにも、その厳密な様態を解明するのにも十分ではないが、ヒト族の移動の謎を解くのに役立つ発見がさらに行われることと期待できるだろう。

(翻訳:小林盛方)

John Kappelmanは、テキサス大学オースティン校(米国)に所属。

参考文献

  1. Zhu, Z. et al. Nature 559, 608–612 (2018).
  2. Groucutt, H. S. et al. Nature Ecol. Evol. 2, 800–809 (2018).
  3. Harmand, S. et al. Nature 521, 310–315 (2015).
  4. Ferring, R. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 10432–10436 (2011).
  5. Muttoni, G., Scardia, G. & Kent, D. V. Quat. Sci. Rev. 180, 1–29 (2018).
  6. Zhu, R. X. et al. Nature 431, 559–562 (2004).
  7. Phillips, J. D. & Cox, A. Geophys. J. Int. 45, 19–33 (1976).
  8. Ogg, J. G. in The Geologic Time Scale 2012 (eds Gradstein, F. M., Ogg, J. G., Schmitz, M. D. & Ogg, G. M.) 85–114 (Elsevier, 2012).
  9. Quidelleur, X., Holt, J. W., Salvany, T. & Bouquerel, H. Geophys. J. Int. 182, 699–710 (2010).
  10. Shea, J. J. in Out of Africa I (eds Fleagle, J. G., Shea, J. J., Grine, F. E., Baden, A. L. & Leakey, R. E.) 47–64 (Springer, 2010).
  11. Nowell, A. et al. J. Archaeol. Sci. 73, 36–44 (2016).
  12. Klein, R. G. The Human Career 3rd edn (Univ. Chicago Press, 2009).
  13. Villmoare, B. et al. Science 347, 1352–1355 (2015).
  14. Stevens, T. et al. Nature Commun. 9, 983 (2018).
  15. Prat, S. C. R. Palevol 17, 6–16 (2018).
  16. Venkataraman, V. V., Kraft, T. S., Dominy, N. J. & Endicott, K. M. Proc. Natl Acad. Sci. USA 114, 3097–3102 (2017).
  17. Kelly, R. L. The Lifeways of Hunter-Gatherers (Cambridge Univ. Press, 2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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