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カメ類の起源と初期進化に新たな手掛かり

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181005

原文:Nature (2018-08-19) | doi: 10.1038/d41586-018-06012-0 | 230-million-year-old turtle fossil deepens mystery of reptile's origins

Jeremy Rehm

約2億2800万年前の新種のカメ類化石が発見された。頭蓋や肋骨の形状などからはカメ類進化についての重要な手掛かりが得られたが、現生種に似たくちばしの存在は爬虫類進化におけるカメ類の位置に関する謎をさらに深めるものとなった。

「エオリンコケリス(Eorhynchochelys sinensis)」の想像図。 | 拡大する

Yu Chen

カメ類に見られるくちばしや甲羅といった独特な形質は、どのように進化したのか。今回、この謎を解く手掛かりをもたらす新種のカメ類化石が、中国西南部で発見された1。「エオリンコケリス(Eorhynchochelys sinensis)」と命名されたこの古代カメ類の標本は、約2億2800万年前の地層から見つかったもので、関節がつながったほぼ完全な全身骨格からなり、全長は2.3m近くある。歯のないくちばしは現生カメ類のものに似ているが、頭蓋に見られる他の特徴はより中間的で、肋骨の形状などはこれより約1000万年以上前に生きたまた別の古代カメ類の方に近い。Nature 2018年8月23日号476ページで報告された今回の成果は、カメ類の形質進化の道筋を明らかにする一方で、爬虫類進化の複雑さを改めて示すものとなった。

州立シュツットガルト自然史博物館(ドイツ)の古爬虫両生類学者Rainer Schochによれば、この新種は、研究者たちが長年思い描いてきたカメ類の形質進化のイメージにほぼ完全に一致するという。「このような化石が出てきてくれて本当に嬉しいです」。

空白を埋める

カメ類の主な特徴はこの2億1000万年でそれほど変化していない。全てのカメ類には、椎骨と肋骨などが融合した「背甲」と腹部を保護する「腹甲」からなる甲羅、そして鋭いくちばしがあり、歯はない。だが一方で、カメ類には多くの現生爬虫類に共通する、ある特徴が欠けている。多くの爬虫類には頭蓋の側面の眼窩の後ろに「側頭窓」と呼ばれる顎の筋肉を収める穴が2対あるが、カメ類にはこれが全くないのだ。

側頭窓の有無や数は分類学で重視されてきた形質の1つであり、カメ類における側頭窓の欠如は、他の爬虫類分類群との類縁関係を明らかにする上で大きな難問となった。そのため、カメ類の系統的な位置に関しては数十年にわたり激しい議論が続いており、カメ類のさまざまな特徴がいつどのように出現したかを解明しようとする研究者たちの努力をより困難なものにしてきた。

最初の手掛かりは2008年に発見された。「オドントケリス(Odontochelys semitestacea)」と名付けられた約2億2000万年前のこのカメ類化石2には、完全に発達した腹甲があり、背甲はないものの肋骨は幅広く、背甲形成の初期段階であることが示唆された。また、オドントケリスの頭部にくちばしはなく、上下の顎には歯が並んでいて、側頭窓は全く見られなかった。

その後2015年には、約2億4000万年前のカメ類「パッポケリス(Pappochelys rosinae)」の化石が発見された。この標本には背甲と腹甲の両方がなかったが、腹甲の最初の兆しと思われる構造が認められた3。パッポケリスもオドントケリスと同様にくちばしを欠き、歯を有していたが、頭蓋には2対の側頭窓があり、これによってカメ類が他の現生爬虫類と近縁であることが初めて示された。

今回発見されたエオリンコケリスの化石標本。その全長は2.3m近くあり、関節は見事につながっていた。 | 拡大する

Xiao-Chun Wu

今回発見されたエオリンコケリスは、まさにこれら2種の間の空白を埋めるものとなった。この標本にも背甲や腹甲は認められなかったが、肋骨は扇状に幅広くなっており背甲形成へ向かう途中であることがうかがえる。また、エオリンコケリスの頭蓋には眼窩の後ろに側頭窓が1対あり、側頭窓を2対持つパッポケリスから側頭窓を持たないオドントケリス、ひいては現生カメ類への緩やかな移行が示唆された。他の構造に関しても、パッポケリスに似た特徴とオドントケリスに似た特徴とがモザイク状に混ざっており、エオリンコケリスがこれら2種の中間的な種であることが示された。

だが、今回の論文の著者の1人、カナダ自然博物館(オタワ)の古生物学者Xiao-Chun Wuが最も興味をそそられたのは、エオリンコケリスの頭部に見られた大きなくちばしの存在だった。このくちばしに歯はなく、現生カメ類のものによく似ていた。これまで、初期のカメ類化石でくちばしが確認された例はない。さらに、この特徴的な形質はその後の種で消失し、数百万年後に復活したように見受けられる。これは、現生カメ類のくちばしが紆余曲折を経て進化したことを示唆していると、Wuは説明する。

他の爬虫類との関係

エオリンコケリスは、カメ類の形質の獲得順序を実証するのに役立つ貴重な存在だが、カメ類の爬虫類進化における位置については残念ながらさほど情報は得られないと、Schochは言う。

この20年で行われたカメ類の遺伝学的研究の大半は、カメ類を、ワニ類と恐竜類、現生鳥類などからなる「主竜類」に最も近縁な分類群として位置付けている。一方で、解剖学的な構造の分析の他、DNAやRNAに着目した研究の一部は、カメ類を、トカゲ類とヘビ類からなる「鱗竜類」に最も近縁な分類群として位置付けている。

これに対しWuらは、エオリンコケリスの解剖学的特徴を他の既知の化石爬虫類のものと合わせて分析した結果、他の研究結果とは対照的に、カメ類がそれらいずれの分類群とも近縁ではないことが示された、としている。カメ類は、より古い祖先種から枝分かれした派生的な分類群だというのだ。

ところが、Schochはこの主張に懐疑的だ。初期の爬虫類祖先種に関しては、カメ類の系統的位置を確定できるほどの解剖学的証拠がまだそろっていない、と彼は指摘する。

「そうした証拠を探し続けるしかありません。今回カメ類の形質進化の謎の手掛かりが得られたので、次に取り組むべきはこの類縁関係を明らかにすることなのです」とSchoch。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Li, C., Fraser, N. C., Rieppel, O. & Wu, X.-C. Nature 560, 476–479 (2018).
  2. Li, C., Wu. X.-C., Rieppel, O., Wang, L.-T. & Zhao, L.-J. Nature 456, 497–501 (2008).
  3. Schoch, R. R. & Sues, H.-D. Nature 523, 584–587 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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