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4種の塩基置換に対応した「一塩基エディター」

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180108

原文:Nature (2017-10-26) | doi: 10.1038/550439a | CRISPR hacks enable pinpoint repairs to genome

Elie Dolgin

CRISPR系の改変によって、DNAでもRNAでも個々の塩基を精密に書き換えられるようになっただけでなく、対応できる塩基の幅も広がった。

このほど、遺伝子編集のためのツールがさらに増えた。DNAあるいはRNAの狙った部位をピンポイントに変更できる技術が、ブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の2つの研究グループからそれぞれ報告されたのだ。いずれも原型となっているのはCRISPR遺伝子編集系である。CRISPR系は、比較的大きなDNA断片を切り出す分子的ハサミであり、平滑末端を生じる上、切断部位を予測することは比較的難しい。これに対して今回報告された新しい系は、個々の塩基を書き換えることができる。一塩基を変化させられるということは、ヒトの全遺伝的疾患の半分以上の修正に挑めるようになったことを意味している。

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vchal/iStock/Getty Images Plus/Getty

Nature 2017年11月23日号464ページに掲載された研究1を率いた化学生物学者David Liuは、「CRISPRを基盤とする方法を用いて個々の塩基を修復しようとするこれまでの試みのほとんどは、精度が高くなく、いわば木のこぶを除去するためになたで切り落とすようなものでした。これに対して、我々が開発した新しい技術は、より精密な『化学的な除去手術』のようなものです」と言う。

Liuらのチームは2016年、ゲノムの二重らせんを切断することなしに、標的とするDNAの塩基1文字を別の文字に変換する「塩基編集」法を初めて報告した3。この方法は、それ以来世界中で、真菌から植物、魚類、マウス、ある血液疾患を引き起こし得る異常な遺伝子を持つヒト胚まで、幅広い生物で遺伝子の修正に用いられている。しかし、この塩基編集法で行うことのできる化学変換は、シトシン(C)からチミン(T)、あるいはグアニン(G)からアデニン(A)への2種類(つまり、C–G塩基対のT–A塩基対への変換)のみだった。

このほどLiuらは、新しい塩基編集法を開発して、TからC、AからG(つまり、T–A塩基対のC–G塩基対への変換)という、これまでのものとは逆方向の変換が可能であることを示した。この方法により、点変異(関与するのは1つの異常塩基のみ)という最も一般的な種類の変異を正常に戻すことができる。

Liuらは実際にこの技術を用いて、ヒト胎児由来腎臓細胞や骨がん細胞において、目的とする修正を約50%の効率で行うことができ、副産物はほぼ検出されないことを示した。一般的なCRISPRを基盤とする従来法では、標的配列を切断して、前後の配列ごと、細胞に導入した「変更したい塩基配列」を含む1本鎖DNAと置き換えるが、この方法で一塩基が修正される効率は5%未満である上、目的の領域以外に意図していない挿入や欠失を生じることが多い。

「今回の成果はゲノム編集分野における飛躍的な進歩です」と、ソウル国立大学(韓国)の分子遺伝学者Jin-Soo Kimは言う(彼は今回の研究には関わっていない)。

一方、生物工学者Feng Zhangの率いる研究チームは、DNAではなくRNAで同様の変換が可能であることを示し、Science 2017年11月24日号1019ページ2に発表した。この方法では、Aをイノシン(I)に変化させる。Iは、細胞のタンパク質合成装置によってGと読み取られる塩基である。従って、ゲノムに恒久的な変化を加えることなく、疾患を引き起こす1つの変異を一時的に修正することができる。遺伝子を修正する治療法として考えると、この方法は繰り返し行う必要があるが、より安全性の高い選択肢かもしれない。さらに、疾患の理解がその後進んだ場合には、治療法を変更することも可能と考えられる。「RNA療法であれば、治療法をアップグレードできるのです」とZhangは言う。

ZhangらのチームのRNA編集法は、天然に存在するアデノシンデアミナーゼを用いて、Aを脱アミノ化させてIに変化させる。Zhangらはこの酵素を、酵素活性を喪失させたCas13と融合させた(通常のCRISPR系でDNAとの結合を担うのはCas9であるのに対し、Cas13はCRISPR系でRNAとの結合を担う酵素である)。そして、この融合タンパク質を、塩基配列特異的なガイドRNA分子とともに用いることで目的部位の修正を試みた。その結果、疾患を引き起こす変異の23~35%を修正でき、オフターゲット活性の発生率は低かった。

2016年にLiuらのチームが報告した塩基編集法3では、天然に存在するシチジンデアミナーゼを操作して、酵素活性喪失型のCas9と融合させている。これによってCからTへの変換が可能になった。しかし、TをCへと変換する同様な天然の酵素を見つけ出すことはできなかった。そこで、Liuらは、Zhangらのチームが用いたのと同様の転移RNAアデノシンデアミナーゼから研究を始めた。

Liuらのチームは、7世代にわたり細菌細胞の進化を誘導し、研究室でタンパク質工学的手法を用いることで、DNAを認識して編集するアデノシン塩基エディターを作り出した。この酵素はDNAのAを脱アミノ化してIに変化させる(Iは細胞にGと読み取られる)。そのためこの系では、Iの反対側のDNA鎖にCが挿入される(「塩基を変化させる」参照)。

塩基を変化させる
DNAやRNAの一塩基をピンポイントで変更するための方法がいくつか考案されている。今回Liuらが開発した技術1は、CRISPR‒Cas9系を改変しており、TをCへと変換する。この方法では、まず、DNAのAを脱アミノ化してIに変化させる。細胞はIをGと読み取るため、Iの反対側のDNA鎖にはCが挿入される。 | 拡大する

全ての塩基の編集を可能に

ユタ大学(米国ソルトレークシティー)のゲノム工学研究者Dana Carrollは、Liuらが用いた指向性進化手法が、暗闇の中での射撃のようなものであったことを指摘し、「この研究は英雄的な努力で成り立っています。私にはそのような研究を行う根性はありませんでした。David Liuに脱帽です」と言う。

A→G、T→C、G→A、C→T、という4種類の塩基変換(つまり、A–T⇆G–C)を行う能力は、「治療や農学において精密な編集を行うために非常に有益だと考えられます」と、中国科学院の遺伝学・発生生物学研究所(北京)の植物遺伝学者Caixia Gaoは言う(彼も今回の研究には関わっていない)。

また、「創薬やDNAを使ったデータストレージ(Nature 537, 22–24, 2016参照)にも有用であることが証明されると考えられます」と、アストラゼネカ社(スウェーデン・ヨーテボリ)の遺伝子編集研究者Marcello Marescaは言う。

この他の塩基編集法の開発では(RNAの変換であっても)、天然に存在しない酵素が必要になるだろう。しかし、その種の障害でLiuが立ち止まったことはない。「可能な塩基編集法が全て開発されるまで挑戦し続けます」と、Liuは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Gaudelli, N. M. et al. Nature 551, 464–471 (2017).
  2. Cox, D. B. T. et al. Science 358, 1019–1027 (2017).
  3. Komor, A. C., Kim, Y. B., Packer, M. S., Zuris, J. A. & Liu, D. R. Nature 533, 420–424 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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